雨の国の王者

探偵小説好事家本人のためのノート

戸川幸夫『消えた乳房』角川書店(角川小説新書)

2008-04-06 09:58:25 | 机上殺人現場
 戸川幸夫の探偵小説は、肩書きに<スリラー小説>と刷っていた『海の非常線』が、存外つまらなかったので、今回も期待せずに読んだのだが、これが意外にも拾いものだった。

 「消えた乳房」
 「雪男」

 という長めの短篇二作品を収録しているが、前者は密室状況下での殺人事件、後者は、未確認動物(雪男)の仕業としか考えられない人間消失事件を扱っている。
 本書の副題<名犬トリス特ダネ帳>とあるところからも、動物小説の第一人者というらしい戸川幸夫の手になるのは、探偵小説の始祖、エドガー・アラン・ポウの「モルグ街の殺人」を、意識したにちがいない「消えた乳房」の趣向に明らかである。
 ストーリイは、「消えた乳房」「雪男」ともに面白いが、物足りないのは、探偵役に魅力がないこと。<名犬トリス>は別にしても、もうひとりの探偵役<伊吹兵助>は、どっちつかずの名探偵で、名という名がつくのは、ひとごとながら、おこがましく感じる。
 2008年4月6日(日)読了。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 4月5日(土) | トップ | 4月6日(日) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

机上殺人現場」カテゴリの最新記事