今日は、ひぐちアサさんの『おおきく振りかぶって』のお話をしたいと思います
月刊アフタヌーンで連載中の、野球マンガです
「オレらのエースは暗くて卑屈。勝つために、弱気なエースのために。行け、オレら!」という、1巻の裏の言葉が気になって、試しに1巻だけを購入
読んだ次の日には、一気に7巻までを大人買いしてしまいました(笑)
すごくお気に入りです
舞台は、軟式から硬式に変わったばかりの、できたてホヤホヤ西浦高校野球部
部員は、新入生の10人だけ。
主人公は、その野球部
ピッチャーの三橋廉
球は遅いけれど、頭の中で9分割したストライクゾーンへ自在に投げられる、抜群のコントロールを持っています
この三橋くんが、“弱気なエース”なのです
弱気で、いつもビクビクしていて、挙動不振で、自分に自信がなさすぎて、泣き虫(笑)
三橋くんがこんな性格なのは、つらい中学校時代のせいでした
ひいきでエースになった三橋くんに、他の部員たちはみんな反発
「お前なんか本当はエースじゃない!!」「野球部やめろよ!!」と言われても、
それでも譲れなかったエースナンバーとマウンド。
バラバラの野球部は、3年間負け続けました
三橋くんはずっと
「オレのせいで、みんな野球を楽しめなかった…」と罪の意識にさいなまれていたのです
もう1人の主人公は、三橋くんのチームメイト・
キャッチャーの阿部隆也
野球センスがあり、知識も豊富で、頭の回転も速い、キレ者キャッチャー
三橋くんの抜群の制球力と武器になるストレートに、最初に気付いた人です。
「こいつが居れば、オレはオレの思い通りの野球が出来る」と思った阿部くんは三橋くんに、
「オレがお前をホントのエースにしてやる。その代わり、オレの言う通りに投げろよ。首振る投手は大嫌いなんだ」と言います。
三橋くんを3年間ずっと自分の言う通りに投げさせて、自分のしたい野球をしようとするのです
阿部くんがこんな考え方をしてしまったのも、暗い中学時代のせいでした
当時バッテリーを組んでいた先輩ピッチャーは、キャッチャーの阿部くんを道具のようにしか思っていませんでした。
その時の怒りや悔しさがあって、「今度はオレが…」という感じになっていたのです
そんな二人がバッテリーを組んで、西浦高校の野球部ができて
。
合宿で寝食を共にして、練習を頑張って、野球部は形になっていきました(ギクシャクしたままのバッテリー以外は(笑))
そんな中、再会した昔のチームメートに責められて泣いている三橋くん
その三橋くんの手を、阿部くんが握ります
ビックリするほど冷たい手、指先にはいくつものタコ。
「こいつはこのタコができるまでに、あのコントロールを身につけるまでに、一体何球投げたんだろう・・・」と考えた時、
阿部くんは無意識のうちに涙を流し、言いました。
「お前はいい投手だよ。投手としてじゃなくても、オレはお前がスキだよ!だってお前、がんばってんだもん!!」
そして阿部くんの中に、
「三橋のために何かしてやりたい。こいつの力になりたい」という思いが生まれます
阿部くんに握られたままの三橋くんの手は、次第にあたたまっていきます
「がんばってるって・・・思う?」「オ、オレ・・・ピッチャー、スキなんだ」「勝ち、たい!」
今まで誰にも言えなかった胸の内を、三橋くんは初めて阿部くんに明かしました。
阿部くんの答えは
「思う」「わかるよ」「勝てるよ!」で、三橋くんの言葉を受け止めてくれていました
「阿部くんは、あきれない。オレのこと、ホントに、認めて、くれてるんだ」と感じた三橋くんは、
一生懸命に
「オレもっ、阿部くんが、スキだ!!」と言います
もう、読んでるほうが恥ずかしい告白(笑)
でもこれは、阿部くんと三橋くんが、ホントのバッテリーとして歩き始めた瞬間でした
サイン通りに完璧に投げられるのに、サインを出してもらえなかったピッチャーと、
的確な配球のリードができるのに、サインを無視され続けたキャッチャー。
二人が出会って、互いの隙間が満たされて・・・
それからの二人は、すごく面白いです
「オレの野球をする」なんて言ってた阿部くんが、
「オレは3年間三橋につくす!!」と心に誓っちゃって・・・
その変貌ぶりには、とにかく笑ってしまいます
「嫌われたくないから」と言いたいことを飲み込んで、阿部くんを悩ませる三橋くん。
心配のあまりについ大声を出してしまって、三橋くんに怯えられてしまう阿部くん。
キャッチャーは“女房役”と言われますが、このバッテリーについてだけ言えば、
キャッチャーは“
亭主関白な亭主”です(笑)
しかも阿部くんは
「調子悪いなら、今日の試合は打つな!!」「生ガキはダメだ!!」「騎馬戦はすぐに負けろ」など、とにかく三橋くんの全てに干渉
それを周りで聞いているチームメイトは「うわ、阿部ウッゼー!!」と思っているのに、
当の三橋くんは
「オレのこと、大事に、思ってくれて・・・るんだ」と感謝(笑)
互いの思いはすれ違っているのに、周りとずれている部分に関しては上手く重なっています
三橋くんは、阿部くん依存症の傾向あり。
阿部くんは、三橋くんしか見えていない。
相思相愛なのに噛み合わない、まだまだ危うい2人なのでした(笑)
三橋くんや阿部くん以外も、野球部員はそれぞれ違う個性を持っています
苦労人のキャプテンの花井くん、すがすがしいほど才能があって漢らしい4番の田島くん、とにかくいい人の栄口くん、「クソレフト」呼ばわりの水谷くん、辛口なツッコミ役の泉くん…などなど
監督のモモカン、顧問のシガポ、マネージャーの篠岡さんも良い仕事してくれます
バッテリーのかけひき、スポーツ心理学、戦術、プレーヤーの心境など、
読んでいて、いろいろなことが勉強になります
「あぁ、野球っていいなぁ・・・」と、しみじみ思わされます
ワクワクするし、ハラハラもするし、胸が熱くなります
それぞれが頑張っていて、光っていて、みんながキラキラしているんですよ
エースがヒーローじゃなくて、魔球もなくて、超人もいなくて。
普通の少年たちが、目標に向かって団結して、むちゃくちゃ頑張るお話
なんだか、これまでの野球マンガとは少し違った感じがします。
最近アニメの放送も始まって、楽しみが1つ増えました
彼らがこの3年間で甲子園に行けたらいいなぁ、絶対行ってほしい!と、
応援しながら読んでいます
野球が好きな方には特に、そうでない方にもぜひ、おすすめしたい本です