Point of view

読書とかドラマとか日記とか

サレンダー(ソーニャ・ハートネット)

2009年03月29日 | 読書日記

病気による死を目前にしたベッドの上の青年ガブリエルと、彼の親友フィニガンの物語。
「キミが善でボクが悪」
彼ら幼い頃、交わした誓いから始まった友情が、交互に語られる。
裕福だが不幸な家庭のガブリエルと、親も家族もいない放浪のフィニガン。
トムソーヤーとハックルベリーフィンを思い出すような関係だが、比べ物にならないほど怖い。
徐々に浮き彫りにされる彼らの友情の周辺にあった事実が、予想通りなだけに怖い。


 


12番目のカード(ジェフリー・ディーヴァー)

2009年03月29日 | 読書日記

タロットの大アルカナの12番目「吊るされた男」。
このカードは精神的な修行を意味する。


冒頭で謎の犯人に襲われた勤勉な少女、彼女を追いかける白人の男と黒人の男。
レギュラーメンバーでいつもタフで信頼できる刑事ロン・セリットーに、主役のライム。
以上5人は、本作の中で、常に精神的に追い詰められ、何とか前へ進むために現状を受け入れ、乗り越えることを自らに課す。
ライムが知らないハーレムにある高校の内部や生徒たちの置かれている環境をスパイスに、さらに少女の140年前の祖先の起こした事件の謎も解決しようと努力するライムとアメリアなのだ。


140年前の事件を絡めたところや、事件の発端そのものが荒唐無稽で無理があるが、前述の5人の精神的なドラマが魅力的だった。


魔術師(ジェフリー・ディーヴァー)

2009年03月29日 | 読書日記

ボーンコレクターのシリーズ。
事故で四肢麻痺となった元鑑識のプロであるリンカーン・ライムと、ライムに見出された有能な警官で、ライムの手足となって鑑識を行うアメリア・サックスの物語。


本作は、イリュージョニスト、つまりステージの上で客に幻想を見せるというエンタテイナーとしての技を、連続殺人事件のトリックと、それを追い詰めるのに用いるという物語。
物語終盤では著者お得意のどんでん返しが、きりもみ状態となる。
ボーンコレクター、ウォッチメーカー、スリーピングドール、魔術師と、読んだディーヴァーの作品の中でも一番のひっくり返しだ。
あとがきにもあったが、本作の犯人は「イリュージョニストという職業はそういうものだ」と読者に言い訳しているのを免罪符に、現実にはありえないほどに非常に面倒な手順を踏んで、煙幕とも言えるエピソードを積み上げて、捜査陣をミスリードする。


今回登場のゲストキャラクター、駆けだしのイリュージョニストの女性カーラが素敵だ。
ライムもなぜかカーラには心を許していて、珍しく彼女のプライベートにも関心を払っている。


死者の短剣 惑わし(ロイス・マクマスター・ビジョルド)

2009年03月29日 | 読書日記

五神教シリーズと同じく、ビジョルドの構築したファンタジー世界が堪能できる。
しかし、あくまでも序章である、と信じたい。


なぜなら、1巻は、地の民の娘フォーンが、「悪鬼」を退治する技を伝える湖の民の男ダグと、「悪鬼」に襲われた事件を通して知りあり、その結果、民族の違いを越えて結婚しようとする物語としかいえないからだ!
さらに、まだダグの民に、この結婚を認められるというアイテムも残っているのだ。
私はファンタジー・ハーレクインも大好きだが、本の1/3以上が結婚の承諾を得るために割かれているという事実がイタイ。


早く、悪鬼に死を教えて葬り去るという力を秘めた「死者の短剣」の物語を読みたいのだが、このままでは「歳の差結婚物語」で「惑わされ」。
うがーっ


ボーンコレクター(ジェフリー・ディーヴァー)

2009年03月22日 | 読書日記

念願の異動を果たすはずだった美貌の警官・アメリアは、異動前に遭遇した殺人事件のせいで、職務中の事故による四肢麻痺で寝たきりになっている元・鑑識課警官のリンカーン・ライムの手足となって、連続殺人事件の鑑識作業に関わることを要求される。


シリーズ1作目ということで、互いにトラウマを抱えているリンカーンとアメリアが互いを認め合うまでの経過が重要となっている。
その一方で事件は、犯人が次の事件を暗示し続ける形で引き起こされるため、ひたすらリンカーンの鑑識能力で(安楽椅子探偵ではなく、介護ベッド鑑識である)次の被害者が死ぬまでに現場を引き当てなければならないという緊張感が張り詰める。
物語のクライマックスは、たたみかけるように新たな真実が発覚し、事件が解決しても真実が発覚するというサービスぶり。


楽園(宮部みゆき)

2009年03月22日 | 読書日記

「模倣犯」の事件から9年。
前畑滋子はようやくライターの仕事を再開した。
ライター仲間から連絡があったのは、亡くなった息子がサイコメトラーだったのではないか、という母親の話。
しかし、その母親・滋子が持ってきた息子のイラストには、息子が亡くなった後に発覚した16年前の両親による長女殺害事件を暗示するものが描かれていた。
事故で亡くなった少年の喪に付き合うつもりだった滋子だが、次第にのめりこんでいき、長女殺害事件の被害者の妹と共に殺害事件の真相を探り始めた。


少年の母親・滋子、事件発覚後に離婚した誠子の前夫・達夫、滋子の夫・昭二の3人がいい人すぎるあたりが、宮部作品といったところだが、良くも悪くも、このシリーズの悪人たち(殺害された長女茜とその彼氏のシゲ)の悪意とバランスを取っている。
結局、少年のサイコメトラーの謎は解き明かされないが、「おそらく真実である」という滋子たちの確信のもと、事件解決の糸口となる。
悪意に満ちた事件は、被害者とその関係者をどれだけ傷つけるのか、というテーマは、少年のイラストの不思議さの印象が強いため、模倣犯に比べると弱かった。
物語は、茜の分身のような少女のエピソードで締めくくられたが、どちらかというと、全ての登場人物の印象を、最後の最後に登場した茜と誠子の母が持って行ってしまった。


呼び寄せる島(又吉栄喜)

2009年03月21日 | 読書日記

大学卒業後、就職せずに執筆活動を続ける諒太郎は、また、脚本の公募に落選した。
生まれ故郷である湧田島の民宿を買取り、那覇でマンションを経営する母親に仕送りしてもらいながら、諒太郎は奇人を観察しようと試みた。


諒太郎の幼馴染たち、その母親、オバーたち、長老、何かを落としたか憑けている奇人たち、修徳の元愛人の周子、周子の娘・クミ、首里から役場に出向中の千穂子、千穂子の文通相手・山田、謎の客・与儀など、脚本にするには弱いが、どこか面白い人たちが、湧田島へ、民宿へと引き寄せられてくる。


諒太郎はやる気も面白みも少ない、淡白な性格で、「貸した金はどうなった」と心の中でぼやきつつ、周囲の自分勝手な人間たちに好きなようにやらせている、愛用の古い散髪台に勝手に座られる以外のことは。
同じ沖縄系でも池上永一とは異なり、そこまで魔法じみてはいない。
主人公・諒太郎も湧田島出身ながら、あまり島の色に染まっていないので、旅人が見る島の8か月、といったところ。
結局、終わってみて、諒太郎および修徳の執筆活動はゼロ文字だった。


高等遊民め。


愛という(前川珠子)

2009年03月21日 | 読書日記

とても複雑な構造で困った。
冒頭は、石村の視点で後輩の女性・紅美が語られる。
ああ、紅美がキーパーソンなのだと、思ったところで紅美のシーンとなるので「やっぱり彼女が主役なんだ」と思えば、渡部という婚活中の男が主役であるかのように登場する。
ようやく、渡部と紅美がクロスして、ストーリーが展開していくと、なぜか、大学生の奥本が登場。
映画のような構成とはいえ、視点が変わる作品なんてどこにでもあるのに、とても付いていくのが難しかった。


あるいは、自意識過剰なようで、恋愛に関してだけは無意識過剰な紅美についていけなかったのだ。


読み終えてみて、ようやく冒頭の意味がわかるのだが、結局、全然すっきりしない。
芒洋とした女が、実は幸せを求めて前向きなだけの女だったらしい、ということだろうか。
紅美の学生時代の知人である映画のカメラマン・石村、婚活サイトを通じた遠まわしな縁で紅美と知り合った渡部(こいつも捉えづらい)、渡部のコンビニの学生バイト・奥本(魔女にひっかかっちゃったね。かなりのシスコンのような)。
以上、三人の紅美の男たち(年齢順)が振り回される話だ。


ハッピーエンド(葬式だが)のようだが、全然すっきりしない!


スリーピングドール(ジェフリー・ディーヴァー)

2009年03月20日 | 読書日記

最後のたたみかけるように二転三転する展開がすごい。
エンタメ作品はこうでないと、というサービスの行き届いた作品。


動作や表情などに出てくるストレスを嗅ぎ取って、相手の心理を読み取るキネシクス(千里眼シリーズとちょっと似ている)の天才である捜査官キャサリン・ダンス。
人の心理を操るカルト指導者ダニエル・ペルの脱獄事件に関わってしまった彼女は、ペル捜索の指揮を執ることになった。
次々と通りすがりの一般市民の弱みを握って、見事に逃げ続けるペルと、ペルが驚くほどに彼の行動を読んで、引き離されないダンスの心理戦。
さらに、ダンスと彼女の思春期の息子との関わりや、同僚のTJやオニールとの友情、FBIから派遣されてきたカルトのエキスパート・ケロッグと微妙な関係など、周囲の人間とも心理のせめぎ合いが描かれる。
過去にダニエルのカルトに属し、今は人生をやり直そうとしている女性三人の会話も面白い。
友情、思い出、嫉妬とぐちゃぐちゃの思いが入り乱れて、緊張感がある。


ストーリー展開も文章(翻訳も素晴らしいと思う)も会話も登場人物のキャラクターも、魅力的で、読みだしたら止まらなかった。


映画化されたボーン・コレクターの姉妹シリーズ。ボーンコレクターの主役も電話で登場する。
私でも成分を見れば予測可能な物質名を答えるだけのサービスカットだが。


私の美しい娘-ラプンツェル-(ドナ・ジョー・ナポリ)

2009年03月20日 | 読書日記

オイルヒーターのある窓辺で、若い女性が美しい金髪を輝かせている写真、という装丁にだまされた。
童話ラプンツェルをベースにした現代ものかと思いきや、中世ヨーロッパを舞台に、ファンタジーの要素も入った、童話ラプンツェルのままなのだ。


童話のあらすじはそのままに、ラプンツェルの母(童話でいうところの魔女)の気持ちにも主眼を置き、うまくいかない親子愛の葛藤が主軸となっている。
冒頭の純粋で、年齢より幼い少女ラプンツェルが、塔に閉じ込められている間にすっかりぐれてしまっているところが恐ろしい。
石の卵を温め続けているカモの巣にラプンツェルが潜り込ませた受精卵のエピソードが、ちょうど、魔女とラプンツェルの関係を暗示しているというところが、上品な伏線である。