きんいろなみだ

大森静佳

9月(付近):書いたもの

2021年09月30日 | 告知
・エッセイ「ながさとみじかさ」 「文學界」10月号 特集「プルーストを読む日々」リレー企画
・詩「closet」 「現代詩手帖」10月号 特集「定型と/の自由 短詩型の現在」
・作品10首「顔をひたして」 「短歌」10月号
・魚村晋太郎『バックヤード』書評 「うた新聞」9月号

8月(付近):書いたもの

2021年09月03日 | 告知
・平岡直子『みじかい髪も長い髪も炎』書評(「ねむらない樹」vol.7)
・黒瀬珂瀾『ひかりの針がうたふ』書評(「鱧と水仙」57号)

それと、

・エッセイ「天井から」(京都新聞2020年7月20日掲載)が日本文藝家協会編『ベスト・エッセイ2021』に収録されました。
https://www.mitsumura-tosho.co.jp/shohin/essay/book_es2021.html

「塔」2021年7月号 作品2(真中朋久選)

2021年08月27日 | 短歌
付箋をつけた歌より

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グーグルで土葬の町を見ておればうつくしく咲くむらさきの花 青海ふゆ

モクレンの白い花びら死化粧を施されつつあるこの大地 綾部葉月

じやんけんに勝つたり負けたりするやうに風にまかせて笑ふ日もあり 今井早苗

万華鏡と砂時計ある部屋にして今年見尽すこの世のさくら 川俣水雪

わたくしの黄のソックス夫がはき黄色は夫の色となりつつ 森絹枝

遠き日の海女小屋の戸は荒筵出入のたびにばたばた揺れし 廣鶴雄

「塔」2021年7月号 作品2(花山多佳子選)

2021年08月12日 | 短歌
付箋をつけた歌より 

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青空に穴をあけしか鋭(と)きこゑの鳥は垂直に飛んでゆきたり 広瀬桂子

あの夏と言われて思い出す虹の欠片のようなたくさんの夏 池田行謙

いつだって最後のようにこの窓の幅で迎えた朝焼けのこと 君村類

雨のなかスマホで地図を見てくれる君の親指なめらかな夜 中村成吾

鳴りやまぬ被曝ピアノがあったなら人も世界も振り向くだろうか 水岩瞳

ピストル型の体温計を当てられて両手を上げそうな夫私は上げる 新城初枝

「塔」2021年7月号 作品2(栗木京子選)

2021年08月05日 | 短歌
付箋をつけた歌より

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冬という球体を斬るためだけの刀剣がある あふれるさくら 田村穂隆

会うことの難しければ誰でもよい人を眺めに公園に行く 今井眞知子

トラックにできたてパンの積まれゆく迷子になるならこのなかがいい 北野中子

雨樋が詰まりて大きな音立てる気にせぬ子もゐて眠れぬ子もゐる 高松恵美子

モザイクのありしところに人間の顔戻りたり容疑者として 中村英俊

手の窪に四月のみずのやわらかくつねより長く顔を洗えり 村上春枝

眼球を押して何かの物語にならない光を自分に見せる 羊九地

こころにも打ち身はあるらしうすあをの紫陽花ときどき痛いと言へり 吉田京子


「塔」2021年7月号 作品2(永田淳選)

2021年08月03日 | 短歌
付箋をつけた歌より

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腕を前から上にあげつつ走りきてラジオ体操の輪におさまりぬ 垣野俊一郎

ねむる娘の白髪ひとすぢ煌めきてあかるき春を老いてゆくらし 吉田修子

誰よりもわれが諦めてゐるのだと言ふごとく夜の冷えた白飯 赤嶺こころ

「やらかい」が「おいしい」になった母のため常より気長に筍を煮る 大江裕子

手を洗ふ何度も何度も手を洗ふ世界の蛇口は開きつぱなし 水越和恵

トーストの焦げ目にバターたつぷりと塗りたくなりぬ花散り出せば 近藤真啓

おのおのにトランペットを吹くからに音は橋桁に谺してをり 西山千鶴子

7月(付近):書いたもの

2021年08月02日 | 告知
◎短歌作品

「短歌研究」8月号(水原紫苑責任編集号) 巻頭100首「ムッシュ・ド・パリ」

◎それ以外

「現代短歌」9月号 特集「Anthology of 60 tanka poets born after 1990」対談
「歌壇」8月号 短歌時評
「短歌人」7月号 笹川諒歌集『水の聖歌隊』書評
「文藝」秋号 特集「怨」エッセイ「向こうがわのユトレヒト」

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そのほか、京都新聞のリレー連載「季節のエッセー」(5名で回るので5週間に1回、月曜日の朝刊に載ります)や「NHK短歌」のテキスト(選評、歌の鑑賞文など。この一年間は毎号)も執筆しています。

「塔」2021年7月号 作品2(三井修選)

2021年08月02日 | 短歌
付箋をつけた歌より

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一帯に麦の穂は出で青空に向かいて立てり 億の垂直 佐々木美由喜

一点に力をこめて鍬を打つ幾たびおろせど蔦の根うごかず 出岡学

ブラインドに規則正しく千切られた春の朝日がお前の頬に 大和田ももこ

長野に生まれてよかった理屈っぽさと大根足でコロナ禍を駆ける 長田尚子

制服とマスクが校門へ続く同じ音符の連続のよう 杉山太郎

音階のカイなんですとおとなしき柴犬の名を教へくれたり 竹尾由美子

かなしみと無縁の海をおもふ日の錦糸卵のひかりの波よ 千葉優作

彫刻の巨大な蜘蛛に「ママン」とふ名ぞ付されゐて「ママン」は立ちをり 宮本背水

満開のこぶしの大木風に揺れ白手袋の拍手のごとし 望月淑子

つり橋の丸太のやうな椎体が順に落ちても尾骨で生きる 吉田達郎


「塔」2021年7月号 作品2(小林幸子選)

2021年07月30日 | 短歌
付箋をつけた歌より

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約束をしないから良い日々であるのびてちぢんで来月余白 小田桐夕

石鹸をシャボンと呼びし祖母の名をパスワードとし密かに愛す 渡部和

わたくしが神様ならばカブトムシの雌には角を二本与える 森山緋紗

刈り上げた襟足の潔さが君 春なんてもの愛でずともよい 小松岬

春づける地の上を草の芽ふみてゆくわれが侵さむもの限りなし 三上糸志

三階に教室十二カーテンの閉まっていたり揺らめいていたり 水谷英子

澄みわたる汽水に映る橋影をかすかに揺らして春の潮来る 吉井敏郎

湖に向けた車に窓を閉ぢクラリネットを吹く人が居る 内藤久仁茂

春が来て草も木の芽もありんこも十倍速で動き出しおり 山口淳子

「塔」2021年7月号 作品2(前田康子選)

2021年07月29日 | 短歌
付箋をつけた歌より

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「奇跡的に全壊でした」と答えたり全壊の上に流失ありて 逢坂みずき

掛け金をことりとはづせば寒がりの小さな箱がのばらをうたふ 若山雅代

「こちょこちょ」というだけで子は笑いだし我の空白色づいてゆく 王生令子

柿わかば朝の雨に濡れてあをり読まるるまへのページは翳り 岡部かずみ

防波堤しぶきに濡れてどの町の本屋にも谷川俊太郎 奥川宏樹

呼び捨てに俊郎と言うは此れの世に九十八の惚けし母のみ 坂下俊郎

こねあげてゆく水餃子三十個みんな味方の三十個なり 星亜依子

午後の陽のひかりの粒に吹かれをり「ゆ」の字の暖簾の紫は褪せ 栗栖優子

おづおづといふ感じにて昇り来てわたしひとりのものとして月 高橋ひろ子