貝がらの小舟

短歌のことや日々のことなどを徒然と。

題詠Blog2012 100首 (さとうはな)

2012-11-20 21:34:51 | 題詠blog2012

001:今 かなしみをかたどる百合の花として 今日からひとり/今日までひとり
002:隣 みづうみの隣に膝をついたまま向こう岸なる人の名を呼ぶ
003:散 やわらかな雪を散らした庭にいて 海の温度を君にたずねる
004:果 身のうちにためらひはあり ひとふさの果実分け合ごとき出会ひに
005:点 交はされぬ視線遠くて点線で切り取られゆくわれと思へり
006:時代 草原(くさはら)の投球フォーム観ておりぬ 学生時代のあなたを知らず
007:驚 八月の日照雨(そばえ)のごとく通り過く きみの不在に驚かぬ日々
008:深 伝わらぬ言葉の多さ木蓮の若木に深く水遣りをする
009:程 春雨に満たされる宵音程が外れたままのピアノと眠る
010:カード 空色のポストカードの片隅の子犬にきみの名を名付けたり

011:揃 お揃いのストラップとかシュシュだとか大切だった日々に、さよなら
012:眉 木漏れ日が綾なす椅子に向き合いて眉うつくしき人と思えり
013:逆 逆さまに落ちてゆく空わたしたち気球になろうさよならを詰め
014:偉 偉いねと髪撫でられた冬の日にもう追わないと決めたんだった
015:図書 「恋」という文字の頁が哀しくも明るく見えた午後の図書室
016:力 跳躍の落下点美し重力はただしくきみに働いている ※美し=はし
017:従 あこがれがつめたくひらく草原に従妹と紡ぐ花のかんむり
018:希 500色いろえんぴつをぶちまけて希望の色を探す指さき
019:そっくり そっくり、とスプーン刺せばそっくり、としずかに割れるクリームブリュレ
020:劇 降りしきる夏の言葉に覆われて円形劇場朝もやの中

021:示 ぜつぼうは身近にあるのかもしれずそらの明るみ示す指さき
022:突然 突然と偶然に満つ街に降る雨は運命のようでかなしい ※運命=さだめ
023:必 お待ちください初虹のふもとにて 必ず会いにゆきますからね
024:玩 てっぺんに着く観覧車ぎこちなく玩具みたいな街と笑って ※玩具=おもちゃ
025:触 頬に触れる指が冷たいずっと前夢であなたに会った気がする
026:シャワー もう二度と会えないことに気がついてシャワーの下に立ちすくんでる
027:損 やわらかに損なわれてゆくわたしたち腕いっぱいに海を抱えて
028:脂 行き着ける場所は地球ねさみどりの樹脂のピアスの縁に触れれば
029:座 物語の内と外とに照らされてなお華々し春のオペラ座
030:敗 敗退のいろは藍色駆けてゆくひだりの目から涙こぼして

031:大人 揺れ止まぬポプラ並木を見下ろした 聞かせて大人の空の飛び方
032:詰 ひらがなが花びらのよう降りしきる白詰草の丘を越えよう
033:滝 泣きながら深夜に髪を洗うときわたしは凍る凍る滝です
034:聞 胸と胸かさねてしずかに目を閉じた潮騒だけを聞かせてほしい
035:むしろ むしろ闇 花はこびゆくゴンドラがしずかにひらく春の水面は
036:右 手のひらに伝えたちょっとくすぐったい右と左の書き順のこと
037:牙 抜け落ちた牙を思って泣くこともあるのでしょうね銀色とかげ
038:的 的確にグリーンピースを除きゆくあなたの白い春の指さき
039:蹴 永遠の缶蹴り遊びをする夜に白木蓮はしずかにひらく
040:勉強 「嫌い」って勉強机につっぷした巻き戻せないあの夏のこと

041:喫 ひとつずつ喫煙席に下ろされたチェロとフルート、ピアニカケース
042:稲 まだ青い稲穂をゆらす朝の風 死んだあとには文字になりたい
043:輝 最果ての冬の河原で転んでも輝きやまぬ彗星王子
044:ドライ とりどりのドライフルーツ分けあって雨の匂いに沈みこむ椅子
045:罰 それはもう天罰だって駆け出したアフリカ原野シマウマの群れ
046:犀 あどけない夢を聞かせて星のように金木犀が降りしきるなか
047:ふるさと 舟べりに風ほどけゆく ふるさとを持たぬあなたと花火を待った
048:謎 きみとふたり白夜の森をさまよって天道虫の謎を解きたい
049:敷 花びらを敷いた寝台 絶望を知らずにきみはおとなになった
050:活 薔薇を活けし器に放つ白魚がわたしにうたう浅いかなしみ

051:囲 句読点失ってゆくこんなにも九月の雨に取り囲まれて
052:世話 うっとりとうさぎの世話をする午後に金木犀は深く香れり
053:渋 山栗の渋皮をむくつれづれに理想のくらし語る夕暮れ
054:武 くちなしの枝五つ六つやはらかき武器のごとくに抱へゆくひと
055:きっと 全天に星はふくらむ さくら降る大路をふたり歩めばきっと
056:晩 未だ熱抱きゐる砂にひざまづく晩夏は流星のやうに過ぎけり ※流星=ほし
057:紐 夏を呼ぶ合図みたいに紐なしのスニーカーにて桟橋を走る
058:涙 いまきみは暮春の宇宙 幾粒か涙こぼせば海がこぼれる
059:貝 八月の波打ち際の駅長に切符のごとく渡す巻貝
060:プレゼント 夏空がジェット気流で飛ぶ朝にプレゼントってすこしさみしい

061:企 ささやかな企み夜のキッチンであなたは青いレモンを切った
062:軸 さみどりの風に巻かれて地球儀の地軸は春を軋ませている
063:久しぶり 「久しぶり」無邪気に笑って言えたことしろくてほそい三日月の下
064:志 口づけが未遂に終わる放課後の固い意志など音符のようで
065:酢 秋の日の儀式のように花びらをほどいてつくる菊の酢の物
066:息 ひと息に飲み干す真水 少しでもきみに近づく手だてがあれば
067:鎖 廃工場かこむ鎖を共犯者じみた笑顔で飛び越すふたり
068:巨 極東のつきのひかりを浴びて立つアフリカ象はさみしい巨人
069:カレー 透明なエスカレーター上るよう 求め合えないひととの夏は
070:芸 それそれがジュリエットでありイブである芸術祭のキャンプファイアー

071:籠 傷ついた記憶はやがて香るから誰もがひとつ花籠を持つ 
072:狭 冬の日の一番狭い森としてあなたはブロッコリーを残した
073:庫 触れられぬもののさみしさ 書庫深く風になりゆく全集がある
074:無精 ともすれば書きかけばかりになる詩に無精の定義あてはめてみる
075:溶 日焼け止めの同じにおいを分けあった境界あわく溶けゆく浜辺
076:桃 泣き足りる日はこないこと気がついた桃のかおりが満ちゆく夢に
077:転 失った夢もいつかは光るだろう 回転ドアの向こうの夜空
078:査 風になりそこねたみたいスカートの丈直される服装検査
079:帯 嘘に気づかぬふりするも嘘つきだ 熱帯雨林に雨降り止まず
080:たわむれ あらたまの五月の風にたわむれるポニーテールの後れ毛のこと

081:秋 癒えぬ傷つけてあげよう 天窓に秋日きざせばみつばちの音
082:苔 宇宙とはわれのなかも存在す 春の出窓に育つ苔玉
083:邪 靴までも雨に濡れそぶきみのもと小鳥のような風邪がおり立つ
084:西洋 産まぬことひとりで決めた冬の日に西洋梨はかなしいかたち
085:甲 星空も海のようです帆船の甲板にふたり夜を見上げて
086:片 信号を守らぬわれの上空に雲の欠片はふくらんでゆく
087:チャンス 花の降る駅見送りの輪に巻かれ最後のチャンス見失ってる
088:訂 背表紙の刻印しろい花のよう改訂版の初級文法
089:喪 喪の鐘が森に響きて少年は水鳥のごと首を伸ばしぬ
090:舌 咲き乱る椿のもとにおそ夏の止まない熱を舌で伝える

091:締 締まらない笑顔のきみの右隣ガリガリ君をひたすらかじる
092:童 好きだった童話を伝えあったこと二度目の春はゆっくり過ぎる
093:条件 でもいまは夏の裏切り忘れゆく交換条件としての夕映え 
094:担 苦情処理担当ですと名乗るときはらりと開く白犀の記憶
095:樹 樹が空へ伸びゆくように我はきみを想うのだろう 坂道登る
096:拭 発火するほど悪いことしたあとにきみはしずかに眼鏡を拭いた
097:尾 さんざんに春の嵐に荒れる髪 わたしはしろい尻尾がほしい
098:激 陽を透かすシーツのなかで聞かせてよ 激しい雨や涙のことを
099:趣 服の趣味ゆるやかに似るはつはるの時計台にて待ち合わせよう
100:先 花庭にひかりは爆ぜる呼びかけて呼んで繋いでもっと先へと