杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・航空幕僚長・陸上幕僚長ら制服組の政治献金

2008-10-12 14:43:06 | Weblog
1 先般、自衛隊員が特定の議員に対して政治献金をしていた事実が明らかになりました。
「元陸上自衛隊の1佐・佐藤正久参議院議員(自民)の政治資金管理団体に、田母神俊雄・航空幕僚長や折木良一・陸上幕僚長ら制服組トップら7人の現職幹部自衛官が政治献金をしていたことがわかった。」と報じられたニュースです。
 佐藤正久参議院議員が代表を務める資金管理団体「さとう正久を支える会」の2007年分収支報告書によれば、
参院選直前の昨年6月7日、田母神空幕長が「支える会」に対して10万円を献金。翌日の6月8日には、陸上幕僚長の折木良一氏も8万円を献金していたということです。
 帯広地方協力本部長の1等陸佐
 陸上自衛隊多賀城駐屯地司令の1等陸佐
 陸上自衛隊衛生学校教育部長の1等陸佐
 海上自衛隊佐世保病院院長の1等海佐
 海上自衛隊函館基地司令の1等海佐
とみられる5人の現役高級幹部の名前も記載されていて、それぞれ07年5月31日から6月19日にかけて1万円から10万円を献金しているということです。

国家公務員が政党のビラを配布したために、公務員としての中立性を害したとして有罪になった事件(後掲)に照らすと、この事件も公務員としての中立性はもっと甚大に侵害されているのではないでしょうか。

国家公務員法(政治的行為の制限)
第102条  職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

自衛隊法 (政治的行為の制限)
第61条 隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為をしてはならない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
以下は、面倒な法律解釈を検討します。
         (法律解釈についてのご意見は拝聴いたします)
2 では、今回の政治献金は上記法律で制限されている政治的行為にあたるでしょうか。
 昭和45年6月24日最高裁判所大法廷判決(いわゆる八幡製鉄事件)によれば
「憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきであるから、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。政治資金の寄附もまさにその自由の一環であり、会社によつてそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあつたとしても、これを自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない。」
と判示しており、「寄付は政治的行為の一環」ということを明らかにしています。


3 自衛隊法では、第61条で次のように政治的行為等について規定しています。
 隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、
 「寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与し、」(前段)
 あるいは
「選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為」(後段)
をしてはならない

そして、政令にあたる自衛隊法施行令によれば
(政治的目的の定義)
第86条
 法第61条第1項 に規定する政令で定める政治的目的は、次の各号に掲げるものとする。
一  衆議院議員、参議院議員、地方公共団体の長、地方公共団体の議会の議員、農業委員会の委員又は海区漁業調整委員会の委員の選挙において、特定の候補者を支持し、又はこれに反対すること。
二  最高裁判所の裁判官の任命に関する国民審査において、特定の裁判官を支持し、又はこれに反対すること。
三  特定の政党その他の政治的団体を支持し、又はこれに反対すること。
四  特定の内閣を支持し、又はこれに反対すること。
五  政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張し、又はこれに反対すること。
六  国又は地方公共団体の機関において決定した政策(法令に規定されたものを含む。)の実施を妨害すること。
七  地方自治法 に基く地方公共団体の条例の制定若しくは改廃又は事務監査の請求に関する署名を成立させ、又は成立させないこと。
八  地方自治法 に基く地方公共団体の議会の解散又は法律に基く公務員の解職の請求に関する署名を成立させ、若しくは成立させず、又はこれらの請求に基く解散若しくは解職に賛成し、若しくは反対すること。

→  一号にあたります。

<政治的行為の定義>
第87条
 法第61条第1項 に規定する政令で定める政治的行為は、次の各号に掲げるものとする。
一  政治的目的のために官職、職権その他公私の影響力を利用すること。
二  政治的目的のために寄附金その他の利益を提供し、又は提供せず、その他政治的目的を持つなんらかの行為をし、又はしないことに対する代償又は報酬として、任用、職務、給与その他隊員の地位に関してなんらかの利益を得若しくは得ようと企て、又は得させようとし、あるいは不利益を与え、与えようと企て、又は与えようとおびやかすこと。
三  政治的目的をもつて、賦課金、寄附金、会費若しくはその他の金品を求め、若しくは受領し、又はなんらの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与すること。
四  政治的目的をもつて、前号に定める金品を国家公務員に与え、又は支払うこと。
五  政党その他の政治的団体の結成を企画し、結成に参与し、又はこれらの行為を援助すること。
六  特定の政党その他の政治的団体の構成員となるように又はならないように勧誘運動をすること。
七  政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し、編集し、若しくは配布し、又はこれらの行為を援助すること。
八  政治的目的をもつて、前条第一号に掲げる選挙、同条第二号に掲げる国民審査の投票又は同条第八号に掲げる解散若しくは解職の投票において、投票するように又はしないように勧誘運動をすること。
九  政治的目的のために署名運動を企画し、主宰し、若しくは指導し、又はこれらの行為に積極的に参与すること。
十  政治的目的をもつて、多数の人の行進その他の示威運動を企画し、組織し、若しくは指導し、又はこれらの行為を援助すること。
十一  集会その他多数の人に接し得る場所で又は拡声器、ラジオその他の手段を利用して、公に政治的目的を有する意見を述べること。
十二  政治的目的を有する文書又は図画を国の庁舎、施設等に掲示し、又は掲示させ、その他政治的目的のために国の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること。
十三  政治的目的を有する署名又は無署名の文書、図画、音盤又は形象を発行し、回覧に供し、掲示し、若しくは配布し、又は多数の人に対して朗読し、若しくは聴取させ、あるいはこれらの用に供するために著作し、又は編集すること。
十四  政治的目的を有する演劇を演出し、若しくは主宰し、又はこれらの行為を援助すること。
十五  政治的目的をもつて、政治上の主義主張又は政党その他政治的団体の表示に用いられる旗、腕章、記章、えり章、服飾その他これに類するものを製作し、又は配布すること。
十六  政治的目的をもつて、勤務時間中において、前号に掲げるものを着用し、又は表示すること。
十七  なんらの名義又は形式をもつてするを問わず、前各号の禁止又は制限を免かれる行為をすること。
2  前項各号に掲げる行為(第三号の場合においては、前項第十六号に掲げるものを除く。)は、次の各号に掲げる場合においても、法第六十一条第一項 に規定する政治的行為となるものとする。
一  公然又は内密に隊員以外の者と共同して行う場合
二  自ら選んだ又は自己の管理に属する代理人、使用人その他の者を通じて間接に行う場合
三  勤務時間外において行う場合


4 自衛隊法61条の当てはめは、この違反が刑罰をともなうものなので厳格に解釈しなければなりませんが、八幡製鉄所判決の中で、寄付が政治的行為の一環としての性質を持つと判断したことや、本件各氏の行為が「公務員の政治的中立性を害した」という点においては争いがなく、「寄附金関与行為」として、法令違反に問われるべきものと考えます。

5 ところで、国家公務員であった者がビラ配りをしたことで有罪に問われた、下記のような事件がありました。
「国家公務員であるにもかかわらず、共産党の機関誌「しんぶん赤旗」を配ったとして、国家公務員法違反罪に問われた社会保険庁職員、堀越明男被告(52)の判決公判が29日、東京地裁で開かれた。毛利晴光裁判長は「公務員の政治的中立性を著しく損なう行為で、刑事責任を軽くみることはできない」として、罰金10万円、執行猶予2年(求刑罰金10万円)の有罪判決を言い渡した。」


「政治的行為の制限」についての国家公務員法(102条)と自衛隊法(61条)が、下記のように、まったく同じ文言であることに鑑みると、公平に扱われるべきではないかと思います。むしろ、公務員の中立性(中立性に対する信頼も含む)においては本件の方が、より一層大きな問題があります。
 また、自衛隊員の職能代表という考えもおかしいでしょう。国民がその存在基盤だからです。

<以下条文参照>

国家公務員法
第102条  職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。
自衛隊法
第61条   隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為をしてはならない。

人事院規則 14条6項(政治的行為の定義)
 法第百二条第一項の規定する政治的行為とは、次に掲げるものをいう。
一  政治的目的のために職名、職権又はその他の公私の影響力を利用すること。
二  政治的目的のために寄附金その他の利益を提供し又は提供せずその他政治的目的をもつなんらかの行為をなし又はなさないことに対する代償又は報復として、任用、職務、給与その他職員の地位に関してなんらかの利益を得若しくは得ようと企て又は得させようとすることあるいは不利益を与え、与えようと企て又は与えようとおびやかすこと。
三  政治的目的をもつて、賦課金、寄附金、会費又はその他の金品を求め若しくは受領し又はなんらの方法をもつてするを問わずこれらの行為に関与すること。
四  政治的目的をもつて、前号に定める金品を国家公務員に与え又は支払うこと。
五  政党その他の政治的団体の結成を企画し、結成に参与し若しくはこれらの行為を援助し又はそれらの団体の役員、政治的顧問その他これらと同様な役割をもつ構成員となること。
六  特定の政党その他の政治的団体の構成員となるように又はならないように勧誘運動をすること。
七  政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し、編集し、配布し又はこれらの行為を援助すること。
八  政治的目的をもつて、第五項第一号に定める選挙、同項第二号に定める国民審査の投票又は同項第八号に定める解散若しくは解職の投票において、投票するように又はしないように勧誘運動をすること。
九  政治的目的のために署名運動を企画し、主宰し又は指導しその他これに積極的に参与すること。
十  政治的目的をもつて、多数の人の行進その他の示威運動を企画し、組織し若しくは指導し又はこれらの行為を援助すること。
十一  集会その他多数の人に接し得る場所で又は拡声器、ラジオその他の手段を利用して、公に政治的目的を有する意見を述べること。
十二  政治的目的を有する文書又は図画を国又は特定独立行政法人の庁舎(特定独立行政法人にあつては、事務所。以下同じ。)、施設等に掲示し又は掲示させその他政治的目的のために国又は特定独立行政法人の庁舎、施設、資材又は資金を利用し又は利用させること。
十三  政治的目的を有する署名又は無署名の文書、図画、音盤又は形象を発行し、回覧に供し、掲示し若しくは配布し又は多数の人に対して朗読し若しくは聴取させ、あるいはこれらの用に供するために著作し又は編集すること。
十四  政治的目的を有する演劇を演出し若しくは主宰し又はこれらの行為を援助すること。
十五  政治的目的をもつて、政治上の主義主張又は政党その他の政治的団体の表示に用いられる旗、腕章、記章、えり章、服飾その他これらに類するものを製作し又は配布すること。
十六  政治的目的をもつて、勤務時間中において、前号に掲げるものを着用し又は表示すること。
十七  なんらの名義又は形式をもつてするを問わず、前各号の禁止又は制限を免れる行為をすること。

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5 コメント

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個人献金は禁止されてませんよ (通りすがり)
2008-10-20 00:17:05
八幡事件のような法人献金と、自衛官個人の政治献金には何の関係もないのではないですか?自衛隊の幹部が個人的に政治献金をする行為は、政治的目的に基づいているとはいえ、人事院規則14条6項で定める政治的行為のいずれにも該当しません。よって、違法な政治献金の要件を満たしません。My News Japanの三宅記者の記事のコメント欄で、再三、自衛隊法、国家公務員法その他関連規則の具体的にどれに該当するのか質問していますが、当の三宅記者は一切回答しません。罪刑法定主義に基づき、法令違反がないのに法律違反と宣伝するのはそもそも憲法39条に明確に違反しています。どう思います?
返信する
ご指摘の点 ()
2008-10-20 02:52:53
おっしゃるとおり、法人の献金とも違いますし、適用条文も違います。罪刑法定主義もその通りです。
その点も配慮してかいたつもりです。徹底した上命下達の組織、はなむけの一見でも垣間見られる体質を持つ組織の中で、法の意図する禁止を潜脱してはいないだろうか、という問題提起です。
返信する
Re:ご指摘の点 (通りすがり)
2008-10-20 23:34:32
早々のコメントありがとうございます。
とてもうれしいです。

杉浦様は、問題提起として今後、違法性を問われる
恐れのある行為であるが、現在の状況証拠だけ
では違法とは言えない、という意見なのでしょうか?

(航空幕僚長ですから、他への影響力が生じやすい
人物ではありますものね。)

ただし、ここが重要で、件の三宅記者は、証拠が
ないまま自衛隊法違反の疑いが極めて濃厚と書いて
しまっている。これは明らかに憲法の精神からも、
罪刑法定主義からも、推定無罪の原則からも、明確に
逸脱していますよね?
返信する
Unknown (関東人)
2008-10-29 20:23:07
つまり合法か違法か、微妙なラインという事でしょ。
だから、今回のような事案の場合、右派からすれば問題は無い、左派からすれば違法だと言いたい訳でしょ。
過去のアーカイブを見る限り杉浦さんが左派だから、そのように判断するのは当然か。
でも、幕僚長が自衛隊出身の佐藤議員に献金するのは自然な流れじゃないの。
返信する
違う、違う (通りすがり)
2008-10-30 22:33:31
他人への働きかけを行った事実があれば、クロ。
その証拠がない現在はシロ。
極めて明確です。微妙なラインはないはずです。

状況証拠がないままシロをクロであるかのように
言う三宅記者の記事は、法の精神を逸脱しています。
極めて不適当と言わざるを得ない。

法の運用は平等であるべきです。
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