[初めてお参りの方へ。銀狐稲荷(ぎんぎつねいなり)は誰も知らない秘密の場所にひっそりと存在し、銀毛に碧翠と黄金のオッドアイを持つ九尾の妖狐『三狐神様(みけつかみさま)』をお祀りしている。桜の枝に相談事を書いて結べば結界の奥の三狐神様のお告げを巫女の葛の葉が伝えてくれるらしい。]
(このシリーズはフィクションであり実在の個人及び団体とは一切関係ありません。)
本日は銀狐稲荷へようこそお参りになられました。
私はこの銀狐稲荷で巫女をつとめます葛の葉と申すものでございます。
私のことをお尋ねでございますか?今まで決して語るつもりはございませんでしたが、今日はお話し申し上げることに致しましょうか。三狐神様にもお許し頂けるでしょう。
私は古の都にて薬師(くすし)を営む者にございました。当時の都は邪悪な妖怪「九尾の妖狐」が暗躍する乱世。美しい若者の姿で人をたぶらかしていたのでございます。
ある時手負いの妖狐が都のはずれの私の元へ迷い込んで参りました。銀髪に碧翠と黄金のオッドアイを持つ美しい青年の姿で、その涼やかなる声はまるで妙なる調べのように響き、この世のものとも思えぬ美しさだったのでございます。
追手が迫りくる気配を感じ、私は妖狐にある薬を与えました。それは常人には毒となるもの。追手は妖狐が絶命したものと思い、祟りを恐れて丁重に祀り、更に強い結界の奥に封印することとしたのでございます。
しかしその薬は一時的に仮死状態となることでその間に傷を癒すものでございました。
元々私は自ら毒をあおり解毒の効果を確かめることで薬を調合することを生業(なりわい)とする者。私も又常人の毒では命を落とすことはございません。
そして九尾の妖狐はこの銀狐稲荷で三狐神様と呼ばれ、今なおひっそりと生き続けているのでございます。かつての己の罪をあがなうため託された文に答え続けながら。
私は三狐神様に一生を奉げるべく銀狐稲荷に参りました。ただずっとお傍でお仕えするために。
何故ならあの時あの方は決して人に知られてはならないはずの真(まこと)の名を私に明かして下さったのですから。
そしてその時よりあの方と私は終わらない時間(とき)を共に生きているのですから。
三狐神様には未だ私の夢の中にすらお姿を現しては頂けておりませんが、あの日のあの方のお姿も声も今も鮮やかに私の心の中に浮かんで参りますので、その美しいお姿を見ることも、涼やかなお声を聴くことも叶わずとも、私の元に三狐神様のお告げの言葉が届けば私はただそれだけで幸福なのでございます。
あの方に変わってお言葉をお伝えすることができるだけで私は満足なのでございます。
私はこの先もずっと三狐神様と共に皆様のお役にたてるよう努めてまいります。
本日は長々と私事にお付き合い下さり誠にありがとうございました。
またのお参り心よりお待ち申し上げております。
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