きつねの戯言

銀狐です。不定期で趣味の小説・楽描きイラストなど描いています。日常垢「次郎丸かなみの有味湿潤な日常生活」ではエッセイも。

Terminal station 6

2012-09-22 12:33:19 | 日記
第8章 エピローグ ~道~

 淳子はいつも自由気ままに見えた幸治がそれほどまでに自分のことを思ってくれていたことに驚いた。
時折何気ない優しさを見せることには気づいていたし、それが不器用だけれど幸治の愛情表現であることもわかってはいた。
しかし自分が幸治を愛しているのかと問われれば、正直淳子にはよくわからなかった。
かつて九条に対して抱いたような情熱はなかったし、幸治は自分の女らしくないところが気に入ったと言ったから、そのイメージを壊さないようにすることでどこか自分を偽っている様な気になることがあった。
 幸治は淳子に[偶像を追い求めて夢を見ているだけ]と言ったが、幸治もまた淳子に対して理想化した妻の姿を求めているように思えてならなかった。
幸治が求めるような自分になろうと努めることに淳子は少し疲れていた。
(私はこれからの人生をこの人と共に歩いて行けるのだろうか…)

 稲荷山駅に各駅停車の列車が到着し、淳子がホームに降り立った。
改札口を出て淳子は家へと続く道を歩いて行った。家では幸治が待っていることだろう。
「ただいま。」
玄関を開けるとリビングから幸治が答える。
「おかえり。」
いつもと変わらない日常がそこにはあった。

 1時間ほど前、淳子はターミナル駅へと続く地下街を歩いていた。
鞄の中にある浅黄色の封筒には「信田森市役所 市民課」と書かれている。
その中には薄い紙が入っている。…[離婚届用紙]が…

 淳子は今、自分自身の心の声に耳を傾けようと決めていた。
自分が抱き続けていた九条への思いが幻だと分かった今は、彼との思い出はもう感情を伴わないただの記憶になっていた。
そして幸治の自分に対する思いもまた同じように幻であることにも気づいた。幸治はそのことに気づいてはいないだろうが。
もうそんなことは全てどうでもいいことだった。

 今淳子の心の中にこだまするその声が叫ぶ言葉は
「自分を取り戻せ!」
自分が本当は何を望み何をしたいのか、どんな自分になりたいのかを見極めようとしていた。
ずっと他人に合わせることで生きてきていた淳子の中に初めて生まれた感情だった。
「自分らしく生きたい。」

 愛の形は人それぞれ。
自分が相手に望むことと相手が自分に望むことは必ずしも一致しない。
どちらかが相手に合わせなければすれ違ってしまう。

 今まで淳子はずっと幸治に合わせ続けてきたつもりだったが、淳子が望んでも幸治が淳子に合わせてくれることはなかった。
幸治を責めるつもりはない。
九条を思い続けてきたのも、本当はただ寂しかっただけなのかもしれない。
ただ、淳子はもう疲れ果てていた。
幸治の理想の妻を演じ続けることにも、求めても得られない虚しさに耐え続けることにも。
これまでの人生に比べればこれからの人生の方が短いだろうけれどこのまま続けて行くには長すぎる。

 淳子は自分らしく生きる道を歩もうと決めた。
幸治が自分を変えることはできないだろうし、淳子ももう幸治に合わせ続けることは限界だと思った。
どちらも自分を変えられないなら、別の道を歩むしかない。
幸治には理解して貰えないかもしれない。
それでも淳子の決心は固かった。

 ターミナル駅から出発する列車に乗り淳子は家路についた。

Die Ende

Terminal station 5

2012-09-22 11:23:04 | 日記
第7章 結婚

 槇淳子が幸治と結婚したのは20年前。
幸治の父親が経営する小さな会社の得意先の一つが淳子の従兄の店だった。
幸治は長男だが、野心家で出来のいい弟とは正反対の至ってマイペースな性格だった。

 「長男がいつまでもふらふら頼りなくて困りますわ。嫁さんでも貰えばちっとはしっかりしてくれるんですかねぇ。」
淳子の従兄、孝の店に営業に訪れた幸治の父、大造が世間話に紛れて愚痴を漏らした。
「じゃあ私の従妹を貰ってやってくれませんかね?正直お世辞にも別嬪とは言い難いが、大人しくて真面目な娘(こ)ですよ。」
美人で快活な妹とは正反対に陰気臭くて不器量な淳子は年頃になっても恋人どころか男友達すらいなかった。
父親は晩熟(おくて)な淳子には結婚はまだ早いと良い顔はしなかったが、孝の顔を立てて渋々二人を引き合わせることを認めた。

 孝の紹介で幸治と大造が初めて淳子に会った時、淳子を気に入ったのはむしろ幸治より大造の方だった。
今時の若い娘には珍しく清楚で上品そうに見えたし頭も悪くはなさそうだ。器量が悪いというのも服装や化粧が地味すぎるせいだと思った。
幸治は何も言わないが別に嫌がっているという風でもない。
淳子は自分に女性としての魅力がないことはわかっていたし、学生時代の苦い記憶から
[自分には愛される資格はない。自分からは何も望んではいけない。]
と半ば人生を諦めて誰かを好きになることもないまま生きてきた。
孝から見合いの話があった時も
「それで孝従兄(にい)さんのお役に立つのでしたら。」
と答えただけだった。
別に嫌だったという訳ではないが、嬉しかったわけでもない。
他人事のようにどうでもよかった。

 大造は幸治に淳子の印象を訪ねた。
「彼女のことはどう思うね?儂(わし)は大変気に入った。是非お前の嫁になって貰いたいと思うのだがね?」
「まぁ、何ていうのか、変わった娘だね。女って感じが全くしないんだ。不思議な娘だね。」
大造は幸治も満更ではないのだろうと思った。

 大造の強い希望に押される形で二人は交際を始めた。
少々変わり者の幸治は今まで女性と付き合っても愛想を尽かされてばかりだったが、淳子は他の女性とは違って、媚びず、甘えず、束縛せず、いつも淡々としていて全く女性と一緒にいる気がしなかった。
最初は単に変わった女だと思っただけだったが、次第に淳子と一緒にいるととても気が楽だと思うようになり、いつの間にかかけがえのない存在となっていった。
幸治はもはや大造の希望とは別に、自らの意志で淳子との結婚を望むようになった。
ついに意を決して
「淳子。俺と結婚してくれないか?」
と切り出した幸治に対して」、淳子の答えは
「私のようなもので良ければ。」
とまるで他人事のようなものだった。
「お前だからいいんだよ。」
微笑んで囁く幸治を見つめながら、淳子は心の中で呟いていた。
(女は愛するより愛される方が幸せ…今まで誰にも愛されたことのない私をこの人は愛してくれるというのならそれでいい…きっと…)


 淳子の父親は妹が先に嫁いだ今、長女の淳子には婿を取らせるつもりだからと結婚に反対した。
幸治は長男だったが、先に結婚して仕事でも既に大造の右腕となっていた弟が後を継ぐと申し出たため、幸治が改姓して二人は結婚した。
マイペースな幸治と淡々とした淳子とは新婚当時でさえ兄妹のようにあっさりとした夫婦だった。
その関係は全く変わらないまま20年の月日が流れた。

to be continued

Terminal station 4

2012-09-19 13:47:26 | 日記
第6章 幻

 真っ青な顔。虚ろな目。握り締めた拳は小刻みに震えている。

「お前の心の中にはずっと誰かが居座っている気がしていたよ。九条だったんだな…。」
幸治はぼそぼそと小声で呟いた。それはマキに対してというより独り言に近いものだった。
マキが驚いて幸治を見るとその表情は悲しげに視線を落として暗く沈み込んでいた。
「俺の傍にいてもお前はいつもどこか遠いところを見てた。
俺と出会う前からお前の心の中にはいつも奴がいて、出会ってからもずっとその影が消えることはなかった。
そんなことはわかってた。でも…。」
幸治は一呼吸置いて大きな声で叫んだ。
「目を覚ませ!それは幻だ!お前が見ているのは本物の九条じゃない!」

 槇淳子(まき あつこ)は夫の言葉の意味が解せぬという様子で呆然と幸治を見つめた。
「淳子。わからないのか?
お前が見ているのは30年前の九条でもなければ今のあいつでもない。
わからないなら教えてやる。
お前の心の中にいる九条は、お前が勝手に作り出して偶像化した幻影だ。理想像だ。
お前の惚れている相手が俺じゃないことぐらい、とうにわかってたよ。
でも九条でもない。
お前は昔も今も九条のことなんて何もわかっちゃいないんだ。」
認めたくなかった。
でも幸治の言うことは正しいのかもしれないと思った。

 ヨーコと話した時、いかに自分が九条のことを何も知らなかったかを思い知らされたばかりだった。
九条を見かけたのに声を掛けられなかったあの時もむしろどこかでほっとしている自分がいた気がする。
それは単に30年前に思いを伝えた時に受け入れてもらえなかった苦い記憶のためだけではなく、現実の彼の姿を知るのが怖かったから。
心の中にいる彼が現実の彼と違っていることを認めたくなかったから。
 彼に会うまでずっと無意識に恐れていた。
もしも彼の外見がかつての彼とは似ても似つかぬ姿に変わり果てていたらと想像することも耐え難かったが、昔の面影のままであればそれもまた切なかった。
すっかり変わってしまっていたならむしろ諦められたかもしれない。忘れられたかもしれない。
 でも彼は相応に年齢を重ねただけで印象は昔のままだった。
彼の姿を見た瞬間、心は一気に時空を飛び越えて30年前へと戻った。
 胸は高鳴り頬は上気して体は熱を帯びる。
まるで血液が逆流したかのように頭がくらくらして目眩すら覚えた。
呼吸すらままならないほどに息苦しかった。
 恋しかった。愛しかった。
30年間片時たりとも彼を思わない時間(とき)はなかった。
その愛しい男性(ひと)を目の前にしても何もできない自分が情けなかった。
彼には帰る家があり、待っている家族がいる。
淳子自身にも夫の幸治がいる。
それでも思いを抑えることはできなかった。
 何を望む訳でもない。応えてもらうつもりもない。
ただ思ってさえいられたらそれだけでよかった。

「淳子…。」
苦しげに押し黙ったまま俯く妻に幸治は呼び掛けた。
「お前を責めるつもりはない。
でもお前は間違ってる。
いくら思ったって辛いだけだ。
お前の惚れてる相手は現実にはどこにもいやしない。
お前の心が見せた幻だ。
逃げないでしっかり向き合え。
清算してちゃんと今を生きるんだ。
俺じゃ駄目なのか?
俺がお前を受け止めてやる。
お前が悪夢から覚めるまでいつまでも待ってる。
ずっと傍についててやる。
お前が拒んでも離れない。
俺がお前を守る。
…だから、淳子。お前が振り向いた時にはいつでも俺がいることだけは覚えておいて欲しい。」

 淳子はぽろぽろ涙を流した。幸治の言葉があまりに温かかったから。
ただ心の中で思い続けてきただけとはいえ、夫への裏切りと責められても仕方がないのに。
幸治の気持ちは嬉しかったがそれでもなお思いは直ちには絶ち難かった。
それが本当の彼への恋ではなかったと指摘されても簡単に割り切ることなどできなかった。
幸治は淳子の心をしっかりと捉えて自分の元に繋ぎ留めておきたいと強く願った。
ずっと九条への片思いを心に秘めてきた淳子に対して、幸治もまたずっと片思いを続けてきたのだから。

to be continued

Terminal station 3

2012-09-19 12:46:11 | 日記
第4章 It's a small world

 駅で偶然九条を見かけて以来、マキは心の休まる時がなかった。
あれ以来ずっと駅を通るたびにどこかに彼がいないかと探しているのだがその機会はなかった。

 日曜日の朝少し遅めに起きたマキはリビングで一人カフェオレを飲んでいた。
いつもは早起きの幸治が欠伸をしながら朝刊を手にして現れた。
昨夜は学生時代の友人との飲み会があり、深夜帰宅してすぐ眠ってしまったが、元来強い方ではないからまだ酒が残っているのか少しぼんやりしているようだ。
「俺にもコーヒーくれる?」
マキは少し濃いめのブラックコーヒーを淹れてマグカップに注ぎ幸治の目の前に差し出した。
「いやぁ、滅多に飲まないもんだから、昨日はすっかり酔っ払っちゃったなぁ。」
幸治がぽりぽりと頭を掻く。
「久し振りに信田森高テニス部の奴等と一緒だと楽しくてつい飲み過ぎちゃったよ。ははは。」
マキが気のない相槌しか返さなくても幸治は一人大声で喋り続けている。
「そういえば珍しい奴が来てたよ。お前と同じ稲荷山学院出身の九条って奴。」
マキは凍りついた。
何故幸治の口から彼の名前が…。

 マキの顔色が変わったことに気づきながらも幸治は素知らぬ振りで話を続けた。
「奴とはテニスの試合では何度も対戦したから俺はよく覚えてたけど、あいつは澄ました顔で
『すまん。女性だったら一度会えば大抵忘れないんだけど。』
なんて言って笑っていやがる。
稲荷山学院の九条佑樹と言えば同年代で知らない奴はまずいないからな。
男前でクールでテニスもうまいし頭もいい。
完璧で非の打ちどころがないんだからな。
俺達9中テニス部も『10中に九条佑樹あり』って皆一目置いてたもんだよ。
信田森高で俺と同期だった奴が九条と大学のテニス部で一緒だったらしくて、昨日は奴も一緒に飲んでたんだ。
大学を出て外資系の会社に就職してからずっと海外勤務だったが最近帰国して信田森市に住んでるらしい。
いくら飲んでも顔色一つ変えず、ずっと元部員やマネージャーの女子に囲まれて楽しそうにしてたよ。
あいつは中学の時も高校時代もいつだってそうだった。
本当に変わらないなって、皆羨ましがるやら呆れるやら…。」

 わかっていた。彼が女性にちやほやされているであろうことは容易に想像できた。
初めて会った女性ですら、瞬く間に彼の虜になってしまうかもしれない。
わかっていてもそれは聞きたくなかった。知りたくなかった。
マキは膝の上で固く拳を握り締めてじっと耐えた。
血が出そうなほど爪が食い込んだ掌の痛みでやっと意識を保つことができた。

to be continued


第5章 過去

 中学時代のマキはいつも高等部のテニスコートや学生食堂で見かける九条の姿を目で追っていた。
凛とした美しいその姿を瞳に焼き付けるかのようにじっと見つめていた。

 切なくも楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、高等部の卒業式の日がやってきた。
マキは一大決心をして九条を待った。
大勢の後輩や同級生に囲まれて談笑する彼が一人になるのをひたすら待った。
「あの…。九条先輩…。」
振り返る九条の顔をまともに見返すこともできず、マキは俯いたまま渾身の勇気を振り絞って訴えた。
「ずっと先輩のことが好きでした!」
九条が冷たい微笑を浮かべていることに目を伏せたマキは気づいていなかった。
『ありがとう。でも君の気持ちには応えられないんだ。すまない。』
淡々と九条は言い放った。
マキは溢れる涙を堪え切れず逃げるように走り去った。
少し離れた場所にいた友人が九条に歩み寄り声を掛けた。
「やれやれ。今のは中等部の子だろ?お前も大変だな。」
『あの子は気がつくといつも俺のことじっと見てたんだよ。
だけどもう少し可愛い子ならともかく、さすがの俺にも選ぶ権利くらいはあるだろ?』
「またまた…。愛美が聞いたら怒るぞ。」
「愛美なら大丈夫。もう慣れっこさ。自分だけが本命だって自信があるんだろ?
他の女にもてない男なんてつまらないなんて言ってるくらいだから。』
「本当にどうしようもねえなあ。お前って奴は。」
『ひがむな。ひがむな。』
二人はふざけて笑いながら校門に向かって歩き出した。
マキは九条がそんな風に言っていたなどと知る由もない。

to be continued





Terminal station 2

2012-09-19 09:44:08 | 日記
第2章 メール


 静まり返った室内でカチカチと小さな音がする。マナーモードの携帯電話を手にしたマキがふうっと小さく溜息をついて画面を閉じた。傍らで黙って見ていた幸治が声を掛ける。
「メール?」
「あ…うん。まあ…」
マキは曖昧な返事をした。
「ふ~ん。別にどうでもいいけど。」幸治はつまらなさそうに欠伸をしながら言った。
毎日のようにマキはメールをしているようだが、その横顔はいつも悲しげで最後には溜息までついている。
愉快な内容でないのは明らかだから気にはなるけれど、マキが何も話さないから幸治も何も訊かなかった。
マキにはずっと思い続けている人がいる。
それは傍目にも明らかだった。
マキはすぐ隣にいるはずなのにその心が捉えられないのがもどかしい。
思い切ってメールの宛先を訊ねたいけれど、マキの横顔はそれを拒んでいるように見えた。
嫉妬や怒りよりも寂しさ切なさ情けなさで幸治の心は一杯になり何も言えなくなってしまうのだった。


 そんな幸治の思いなど知る由もなく、マキは毎日九条への溢れそうな思いを指先に託してメールを打つ。
送信されることも保存されることもないまま溜息と共に削除される恋文を。

 一つ溜息をつく度に幸福が一つ逃げていくと誰かが言っていたけれど、もう失くす幸福など一つも残っていないとマキは思っていた。

to be continued

第3章 面影

 ターミナル駅前の地下街は今日も混雑していた。人の流れに乗り損ねると思うように進めない。昼間も決して少なくはないが、帰宅時間帯は特に家路を急ぐ人の群れでごった返している。
 マキは稲荷山線の各駅停車に乗りたかったのだが、我先にと次々と割り込んでくる強引な人達に少し気後れして改札口の手前で足止めを食らっていた。

 マキはふと視界の端に何かを捉えた気がした。
(えっ…!?)
見るとそこには忘れもしないあの面影が。
(九条先輩…?)
記憶の中の制服姿の高校生はスーツ姿の大人の男性に変わってはいたが、見間違うはずはなかった。
長身で華奢なその体型も端正な横顔も紛れもなくそれは九条佑樹その人だった。
服装や髪形こそ変わってはいても印象はあの頃と少しも変わっていない。
マキは慌てて改札口に体をねじ込むと彼を追った。
彼は稲荷山線とは逆方向の信田森線のホームに向かって足早に去って行った。
マキがようやくホームに辿り着いた時にはもう彼は既に停車中の車両の中で座席に腰を下ろしていた。
彼はポケットからスマートフォンを取り出し、タッチパネルの上を細い指先が踊るように軽やかに動き、俯く横顔には微かな笑みが浮かぶ。
学生時代より更に魅力的に見えた。
扉が閉まり列車は静かにホームから滑り出す。
声を掛けることすらできぬまま、マキは彼の乗った列車を見送った。
列車は閑静な住宅街へと続く線路を走る。
そこには彼の生活があり、彼の帰りを待つ人がいる。
マキには入り込むことを許されない彼の日常が確かに存在する。
項垂れてマキは稲荷山線のホームへと向かう。
その先にはマキの日常があり、幸治が待っている。

to be continued