精子(の元)から卵を作ってどうするのかと思うかも知れない。
精子も卵子も共に生殖細胞だし、子孫を残すところでは1対1の関係である。しかし、その大きさと数は随分と違っていて、精子は卵子よりも圧倒的に数が多い。そして、その分、小さくて中身も殆どが遺伝に要する情報であって、栄養分というものはほとんどない。
つまり、中身が単純なことから精子は卵子よりも凍結保存に向いているということがある。そんなことから精子の凍結保存はいろいろな生物で研究されてきた。
この研究は、精子そのものではないが、精子の元となる細胞から卵子を作ったということが、ニュースなんだ。
このニュースと同じころに発行された日本水産学会誌にアユの精子の凍結保存の最新研究があった。
前後して発表された二つの研究。
精子から卵子を作ってもとの魚を誕生させる方法。精子を凍結して保存する新しい方法。これらの研究は、魚類の種の保存の為に、あるいは少なくなった種を増やすことが想定されているといえようか。
このように、精子の保存を種の保存の立場から研究するというスタンスもある。少なくなったメスをオスから作って数を増やすということも、可能性として存在するということだ。
生き物は環境の賜である。
生物の保護はまずその棲む環境を守ることだと思っている。
どこまで人間が関与して保護すべきなのか、そこは、なかなか狂おしい問題だが、人間が関与して生まれた生き物、彼らの住む場所が水槽の中だけなら、人間はその種を守ったと言えるのだろうか。
彼らが棲むべきその場所を守っていくことが、人としての責任だと思っている。
・精子から卵
精子の元細胞から卵、東京海洋大がニジマスで成功 (読売新聞) - goo ニュース
・精子の保存
日本水産学会誌
Vol. 72 (2006) , No. 1 pp.34-40
アユ精子の凍結保存方法
以下に資料として。
★テキスト版
精子の元細胞から卵、東京海洋大がニジマスで成功
2006年 2月 7日 (火) 07:03
精子の元となる細胞(精原幹細胞)から卵を作ることに、東京海洋大の吉崎悟朗助教授(発生工学)のチームがニジマスを使った実験で成功した。
この卵は、受精により個体を発生させる能力を持つことも確認された。絶滅の恐れがある種の復活を試みる際に応用できる技術として注目される。米科学アカデミー紀要電子版で発表される。
吉崎助教授らは、雄のニジマスの成魚の精巣から、精子の元となる精原幹細胞を取り出し、孵化(ふか)直後の雌のニジマスの腹に移植。その結果、将来卵巣になる生殖腺に細胞は移動して増殖・分化した。さらに、細胞を移植されたニジマスが成長すると、自分の卵とともに細胞の提供主に由来する卵も生殖腺内で生成された。本来精子になる細胞が性的に変化することが確認されたのは、全動物種で初めてという。
吉崎助教授はすでに、精子や卵の元となる始原生殖細胞をニジマスから取り出し、ヤマメの腹に移植することで、ヤマメのおなかを借りてニジマスの精子や卵を作らせる“借り腹”技術を開発している。
今回成功した手法と、この“借り腹”技術を組み合わせれば、すでに雌は絶滅して雄しかいない魚であっても、近縁種の魚のおなかを借りて、精子と卵を作り出し、集団として種を復活させることも可能としている。
★学会誌抄録
日本水産学会誌
Vol. 72 (2006) , No. 1 pp.34-40
アユ精子の凍結保存方法
津高 窓加1), 山本 慎一2), 仲 和弘2), 清水 寿一2), 中村 元二2), 滝井 健二2), 太田 博巳1)
1) 近畿大学大学院農学研究科水産学専攻
2) 近畿大学水産研究所新宮実験場
(受付 June 22, 2005)
(受理 August 24, 2005)
要旨: ストロー法によるアユ精子の凍結保存方法の開発を目的として,精子を希釈する保存液の組成(凍害防御剤の種類と濃度,希釈液の種類),冷却速度と液体窒素に浸漬する前の到達温度について,解凍した精子の運動比率を指標として検討した。保存液は 10% methanol+90% FBS が適していた。冷却速度は 42.5℃/min,到達温度は-50℃ で最も高い運動率を示した。解凍後,運動開始までの時間が長引くほど,運動率は低下する傾向を示した。上述の方法で凍結・解凍した精子は,新鮮精子に比べてやや長い運動時間を示した。
精子も卵子も共に生殖細胞だし、子孫を残すところでは1対1の関係である。しかし、その大きさと数は随分と違っていて、精子は卵子よりも圧倒的に数が多い。そして、その分、小さくて中身も殆どが遺伝に要する情報であって、栄養分というものはほとんどない。
つまり、中身が単純なことから精子は卵子よりも凍結保存に向いているということがある。そんなことから精子の凍結保存はいろいろな生物で研究されてきた。
この研究は、精子そのものではないが、精子の元となる細胞から卵子を作ったということが、ニュースなんだ。
このニュースと同じころに発行された日本水産学会誌にアユの精子の凍結保存の最新研究があった。
前後して発表された二つの研究。
精子から卵子を作ってもとの魚を誕生させる方法。精子を凍結して保存する新しい方法。これらの研究は、魚類の種の保存の為に、あるいは少なくなった種を増やすことが想定されているといえようか。
このように、精子の保存を種の保存の立場から研究するというスタンスもある。少なくなったメスをオスから作って数を増やすということも、可能性として存在するということだ。
生き物は環境の賜である。
生物の保護はまずその棲む環境を守ることだと思っている。
どこまで人間が関与して保護すべきなのか、そこは、なかなか狂おしい問題だが、人間が関与して生まれた生き物、彼らの住む場所が水槽の中だけなら、人間はその種を守ったと言えるのだろうか。
彼らが棲むべきその場所を守っていくことが、人としての責任だと思っている。
・精子から卵
精子の元細胞から卵、東京海洋大がニジマスで成功 (読売新聞) - goo ニュース
・精子の保存
日本水産学会誌
Vol. 72 (2006) , No. 1 pp.34-40
アユ精子の凍結保存方法
以下に資料として。
★テキスト版
精子の元細胞から卵、東京海洋大がニジマスで成功
2006年 2月 7日 (火) 07:03
精子の元となる細胞(精原幹細胞)から卵を作ることに、東京海洋大の吉崎悟朗助教授(発生工学)のチームがニジマスを使った実験で成功した。
この卵は、受精により個体を発生させる能力を持つことも確認された。絶滅の恐れがある種の復活を試みる際に応用できる技術として注目される。米科学アカデミー紀要電子版で発表される。
吉崎助教授らは、雄のニジマスの成魚の精巣から、精子の元となる精原幹細胞を取り出し、孵化(ふか)直後の雌のニジマスの腹に移植。その結果、将来卵巣になる生殖腺に細胞は移動して増殖・分化した。さらに、細胞を移植されたニジマスが成長すると、自分の卵とともに細胞の提供主に由来する卵も生殖腺内で生成された。本来精子になる細胞が性的に変化することが確認されたのは、全動物種で初めてという。
吉崎助教授はすでに、精子や卵の元となる始原生殖細胞をニジマスから取り出し、ヤマメの腹に移植することで、ヤマメのおなかを借りてニジマスの精子や卵を作らせる“借り腹”技術を開発している。
今回成功した手法と、この“借り腹”技術を組み合わせれば、すでに雌は絶滅して雄しかいない魚であっても、近縁種の魚のおなかを借りて、精子と卵を作り出し、集団として種を復活させることも可能としている。
★学会誌抄録
日本水産学会誌
Vol. 72 (2006) , No. 1 pp.34-40
アユ精子の凍結保存方法
津高 窓加1), 山本 慎一2), 仲 和弘2), 清水 寿一2), 中村 元二2), 滝井 健二2), 太田 博巳1)
1) 近畿大学大学院農学研究科水産学専攻
2) 近畿大学水産研究所新宮実験場
(受付 June 22, 2005)
(受理 August 24, 2005)
要旨: ストロー法によるアユ精子の凍結保存方法の開発を目的として,精子を希釈する保存液の組成(凍害防御剤の種類と濃度,希釈液の種類),冷却速度と液体窒素に浸漬する前の到達温度について,解凍した精子の運動比率を指標として検討した。保存液は 10% methanol+90% FBS が適していた。冷却速度は 42.5℃/min,到達温度は-50℃ で最も高い運動率を示した。解凍後,運動開始までの時間が長引くほど,運動率は低下する傾向を示した。上述の方法で凍結・解凍した精子は,新鮮精子に比べてやや長い運動時間を示した。
>人としての責任だと思っている。
同感です。今更エゴといわれるかもしれませんが,天然で再生産できる場所を確保していくことは,次の世代へ引き継いでいく責務だと感じています。
希少生物保護や外来魚問題など,野外で泥臭い仕事をすればするほど,紹介いただいたような「基礎研究」に対して複雑な思いがします。
ヒトが新技術を取得することは大事だけど,「今,希少生物保護で優先的に必要なのは,基礎研究より,”野外でのお金とマンパワーと適切な判断”」ということを実感しています。
多分、生命を制御しているという達成感も彼らにはあるのだと思う。
守るというのは、どうも今より良いことはない、現状維持というとらえ方があるからね。
改革と叫んでいれば正しいと思っている宰相、それを煽る国民もまた同工異曲かな。
愚痴っていても、しかたないので、その方法、はともかくとして、物事の持って行き方をすこし変えてみようと思っています。”田んぼのチカラ”もその一手であります。