アメリカの高校生たち 「Fund Raising」

2016-08-24 13:30:52 | 随筆
アメリカでは、小学、中学、高校と、 「Fund Raising」を年に数回行う。 子供たちが、「ぼくたち、わたしたちの学校に募金をお願いしまぁ~す!」 と一件づつ近所の家のドアをたたき、クリスマスが近づくと、プレゼントを包む包装紙やカードを売り歩いたりする。 カウンティー (郡)の教育委員会から支給される予算だけでは足らないので、このようにしてそれぞれの学校は、募金を集める。

ある時、私は近隣の小学校の募金活動をサポートするために、包装紙を注文した。 小学校4、5年生くらいの男の子達が二人、我が家の玄関までやって来た。 彼らを連れてきたと思われる親らしき男性は、数ヤード離れたところに立っている。 この場合、大人達はまず口を開かない。 挨拶から、セールス、注文を取る事、集金など全て子供たちにやらせる。 この時、あいにく小切手帳のチェックを切らしてしまっていたので、現金を渡し、レシートを受け取った。 数週間後、近所で同じものを注文した友人が品物が届いた、と言ったので、私の物もじきに配達されるであろう、と思った。 だがそれはクリスマスまじかになってもこなかった。 小学校へ電話をし、事務員に伝える。

「注文品が届いていないのですが...。」
「レシートはお持ちですか?」
「はい、ございます。」
「おかしいですね。 調べて、こちらからまた電話をしますのでお待ちください。」

レシートの番号を知らせ、電話をきる。 翌日学校から連絡があった。

「恐縮ですが、あなたの注文品はこちらにございません。 子供たちに支払いをする時に小切手をお渡しになりましたか?」
「いいえ、現金でした。」
「お~...。」、と言って事務員は黙ってしまった。 

察するところ、誰かが注文書を破り捨て、現金をポッポに入れてしまったのだろう。

「あなたが注文なさった品とは違うものですが、いくつか余った包装紙がございますので、それでよろしければお届けしますが...。」

もう還暦まじかのいい年をしたおばさんだが、私はこういうときにあまり「大人」らしい言動をとらない。 ムっとして事務の女性に言った。

「余り物はけっこうです。 来年は隣町の小学校の募金活動をサポートします。 Thank you for your time. (お手間を取らせました。)」
「あの、ちょっと...。」
「ガチャ!」

たかが数ドルの包装紙ではないか。 何も事務員にあたることはないのだ。

さて、当時17歳だった我が家の長男、アンドリューは wild teenager (手におえぬティーンエイジャー) であった。 弱いものいじめだけはしなかったが、学校をサボリ、ケンカをし、どうやって手に入れたのか知らぬが、酒、タバコをのんだ。  (アメリカでは身分証明書がないと、これらの物を手に入れることはできない。) 父親が単身赴任でほとんど不在であった、ということもあり、しょっちゅういろいろな問題をおこし、私はいつも頭痛薬を常用していた。 最低すれすれの成績で高校を卒業し (後ほど分かったのだが当時、同じ教会に通う日本人の友人が、この息子のために断食までして祈ってくれていたそうだ。 彼女の祈りにサポートされてアンドリューは卒業ができたと、私は信じる。 もし卒業できずにこのままもう一年我が家に居座られたら、母親の私が発狂するであろうと友人は見てとったのかもしれない。 ここまで親身になって、人の家庭のために祈る人が、いったいどれだけいるだろうか。本当に感謝なことだ。)、海兵隊へ入ったが、この息子が、ようやく家を出ていった時に、私は天を仰いで、わが主、イエスキリストに感謝の祈りを捧げた。

息子は勉強はちっともしなかったが、女の子たちとデートをする事と、スポーツだけは力いっぱいやった。 フットボール、サッカー、陸上競技、レスリングとシーズンごとにいろいろなクラブ活動をやり、どういうわけか、彼は女の子たちにたいそうモテた。 クラブ活動を通して知り合った友人も多かったが、そのなかにミッキーという小柄な少年がいた。 ある週末、ミッキーが我が家を訪れた。 

「こんにちは、ミセス アンダーソン。」
「あら、ミッキー久しぶりね。 元気? この間の試合はよかったわよ。 ずいぶんとがんばって...。」  
「おふくろ、オレたちやる事があるんだ。 しばらくほっといてくれないか。」

いつもの仏頂面で、アンドリューは友人を連れて地下室へ降りていった。 我が家の地下室には洗濯部屋、トイレ、そしてデンがある。 den というのは、家族がくつろぐ部屋で、居間とはまた違う部屋である。 最初は2階にある寝室のひとつを彼にあてがっていたが、掃除をせず、ベッドのシーツを何週間も換えない、というずぼらな生活を続けたため、アンドリューの部屋の戸を開けると、異臭が漂い、それは豚小屋と化した。 いくら注意をしても聞く耳を持たぬので、考えあぐねて彼の寝室を地下室に移す事にした。 以来、私はこの部屋の事を 「dungeon」(地下牢)と呼んだ。

それからしばらくの間、ミッキーはほとんど毎日我が家を訪れた。 そのたびにふたりは地下室へ行き、ドアをぴしゃり、と閉める。 何をやっているのだろう? 何か悪さでも...。 私は次男のシェインに聞く。

「兄ちゃんとミッキーは、毎日何をしているんだろうね。 あんた、知ってる?」
「知らん。」 次男も仏頂面で答える。 なぜティーンエイジャーというのは、いつもこうぶすっとしているのだろう。 ニュージャージーの少年院で、長年院長を務めた義理の妹が、言った。 

「成長ホルモンのせい。 ティーンのほとんどは、みんなアタマがおかしいのよ。」

ひとつ気がついたが、ミッキーが来るといつも「地下牢」から同じロックの曲が流れてくる。 時々、どた、ばた、と音がする。 あまりしつこく詮索すると、また怒鳴りあいの親子喧嘩となるかもしれぬので、ほおっておくことにした。 それから数日。 当時私は美容師をしていたが、仕事から帰宅すると近所に住んでいる女の子が、犬の散歩をしながら声をかけてきた。 うちの息子達と同じハイスクールに通っている子だ。

「ミセス アンダーソン、今夜学校での催し物を見に行きますか?」
「学校で何かあるの?」
「まぁ、知らないんですか? アンドリューが出るんですよ!」
「うちの息子が? どういったイヴェントなの?」

彼女は、うふふ、と笑って楽しそうに説明をしてくれた。 それを聞き、へぇ~っと思った。 

ところで、我が家から数分のところに友人のローズが住んでいる。 彼女のことは、「自分でやろう」の記事に書いたが、結構な美人である。 私と同じくらいのおばさんだが、若い頃、彼女の美しい碧い目にご主人が一目ぼれをしたのでは、と思わせるかんじだ。 電気技師の免許を持ち、単車を乗り回し、チェーンソーを担いで、するすると大木に登るような女性である。 声も大きく、大またで歩く。 全くもって、気持ちのいい長年の友達である。 私は彼女に電話をかけた。

「ローズ、一緒に行こうよ!」
「よっしゃ!」

彼女が運転する車で、一番よい席をとろうと、早いうちに学校へ向かった。 auditorium (講堂) の入り口で3ドルの入場料を払う。 薄暗く、ざわざわと人々の話し声がする中を歩き、ローズと私は一番前の席へ陣取った。 時間になると講堂は満員となった。 校長先生の挨拶があり、国歌斉唱。 そのうちにするすると幕が開いた。 次々と登場する男子生徒たちが、跳んだり跳ねたりステージの上で大活躍である。 しばらくすると、聞きなれた曲が流れてきた。 我が家の地下室で、アンドリューとミッキーがかけていた曲だ。 二人はフットボールの選手がつける胸当て、ヘルメットなどのギアを全てつけて登場した。 音楽に合わせて腰をふり、ふり、ダンスが始まった。 次々と身に着けているものをはずし始め、最後にはショートパンツとソックスだけの姿となった。 女生徒たちが黄色い声を張りあげる。

「きゃーっ!!! すてき~! 」
「死ぬ~!」
「ミッキー、愛してるわ~!」
「アンドリュー、プロムに一緒に行ってちょうだ~い!」 (プロムとはアメリカの高校生達が、タキシードやイヴニングドレスを着て出かける、ハイスクールのダンスパーティーのことである。 高校3年になると卒業の前に、このイヴェントが行われる。 男子生徒たちは好きな女の子たちに声をかけ、承諾を受けると、当日めいっぱいおしゃれをし、その日のデートの相手を車で迎えに行く。) 

講堂は笑いに包まれ、女生徒たちは声を嗄らして叫んだ。 まさか息子がこんな事を地下室で練習していたとは...。 口を半開きにして、ショーを見ていると、ローズが私の背中をどん、とたたいた。 

「あんた、何黙って見てんのよ! 若い子達に負けるんじゃないわよ!」

そう言って、彼女も大声で声援を飛ばし始めた。

「アンドリュー、私よ、私っ、ローズよ! ここにいるわよー! がんばれぇー!」
ローズは口に小指をつっこんで、ピューピューと口笛をとばした。 息子は舞台の上で、一瞬ぎょっとしたようだが、かぶりつきの席で身を乗り出している彼女と、その隣にいる母親を見て、腹を決めたようだった。 最後のガッツポーズで閉めて、アンドリューとミッキーはダンスを終了した。 拍手と口笛と笑いにつつまれたやんやの嵐が続く中、カーテンが下りる。 その後、生徒たちの間で、投票がおこなわれ、校長がアナウンスをした。

「今年のミスターハイスクールには、3年生のアイザック マクマホン君が選ばれました。 おめでとう! 父兄の皆様方、fund raising は今回も大成功でした。 大いなるサポートを感謝いたします。 来年もどうぞよろしく!」

ピッツアとハンバーガーを食べながらの打ち上げパーティーから帰宅した長男に、私は声をかけた。

「なかなかカッコよかったよ。」
「ふん、そう...。」と言って彼はにやっと笑った。 久方ぶりに見る息子の笑顔だった。

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フィービーおばさんの、全くためにならない英語教室

2016-08-22 17:49:24 | 随筆
私は子供の頃、勉強が嫌いだった。 学校へ行くと、「勉強」をしなくてもよい美術、体育と給食の時間以外は、一日中ただぼんやりしていた。 一番嫌ったのは、算数であった。 小学校一年の時に、足し算をする際、10本の指では足らなくなると、どうしてよいのやら途方にくれた。 上履きと靴下を脱いで、足の指も使おうと思ったほどだ。 ある授業参観日に母がやってきた。 次々と先生が質問を続けるが、クラスメート達は自信たっぷりに 「はい!」、「はい!」と元気よく手を上げる。 私は答えは皆目分からなかったが、母に雄々しい姿をみせたかった。 今考えると、愚かな見栄っ張り根性でしかなかったが、手を上げた。 私が生まれた年は、「ベィビーブーマー」の時で、子供の数は多かった。 ひとクラス50人以上もいるのだから、まさか自分にはあたるまい、とたかをくくって手を上げた。 そうしたら、私の名前が呼ばれた。 一瞬目の前が真っ暗になり、椅子からのろのろと立ち上がったものの、ただ顔を真っ赤にして、黙っているしかなかった。 先生としては、普段黙りこくっている、みそっかすの私が手を上げたので、たまには花を持たせてやろうと思ったのかもしれない。 

帰宅した時に、母は言った。 「お母ちゃん顔から火が出そうだっただよ。 答えが分からんかったら、手を上げるもんじゃないずら。」(山梨の甲州弁。 おそらくこんな感じだったのでは、と思う。 6歳の時に東京に出てきたので、今は聞いて理解できても、スピーキングはできない。) 母に恥をかかせたこの日、幼いながら自己嫌悪をたっぷりと味わった。

しかし、中学に入り英語の授業が始まると、自分にもできるかもしれない、と小さな夢をもった。 第一回目の授業で、日本人には難しい、と言われている 「th」の発音を先生に褒められたからだ。 しかし、私の発音を褒めた先生のそれを聞いても、「ジス イズ ア ペン」 としか聞こえなかった。 This is a pen. This is a desk. から始まった英語の授業を中学の3年間は結構楽しんだ。 だが高校になると、苦痛になってきた。 とにかく退屈なのだ。 教本を読み、日本語に翻訳する。 ただそれだけの単調な、面白くない授業に嫌気がさしてきた。 単語、熟語を暗記し、辞書を引きながら訳す。 教科書に載っている例文の類は皆、あくびが出るほどつまらなく、高校生が興味を持ちそうな読み物など、ひとつもなかった。 2016年現在、少しは変わっただろうが、当時の日本の英語教育は実生活で役に立つものではなかった。 言うなれば、大学進学のためのものであった。 

さて私は、37年前にアメリカに嫁ぎ、2人の息子達を育て、数年前に熟年離婚をした。 そして現在に至る。 実にいろいろな仕事をしてきたが、現在はアメリカの首都、ワシントンから30分ほどのヴァージニアにある自宅で、子供たちを相手にピアノ教室をやっている。 毎日ひどい混雑の中、仕事場へ通う友人達に比べて、家で仕事ができる私には少し時間がある。 つい先ほども、ぼんやりとラップトップをいじっていたら、こんなものを見つけた。 このようなものを教材に使ったら、もう少し生徒たちにも勉強する意欲がわくのでは、と思う。 英語に興味がおありの読者の方々、ご一読あれ。 イギリスの小説家、劇作家、また詩人であった、ウィリアム ゴールディング という人が書いたものである。

William Golding
British Novelist, Playwright & Poet
1911-1993

I think women are foolish to pretend they are equal to men. They are far superior and always have been. Whatever you give a woman, she will make greater. If you give her sperm, she will give you a baby. If you give her a house, she will give you a home. If you give her groceries, she will give you a meal. If you give her a smile, she will give you her heart. She multiplies and enlarges what is given to her.

So, if you give her any crap, be ready to receive a ton of shit!
  


「女というのは愚かなものだ。 自分たちが男と同等である、とうそぶいてるのだから。 同等どころではない。 彼女らは昔から、我われ男たちよりはるかに優れていた。 女たちは、それが何であれ、何かを受け取ると、それを何倍もの価値あるものと変えることができるのだ。 精子を与えてみよ、彼女はあなたに子供を与えるであろう。 家を与えてみよ。 彼女はあなたに家庭を与える。 食材を渡すと、食事を作ってくれる。 彼女に微笑んでみよ。 あなたは彼女から愛を受けるであろう。 女たちは与えられたものを何倍にもして返すのだ。 であるから、もしあなたが嘘をつき、彼女を欺いたならば、それが1トンのクソとなってあなたのところに戻ってくる覚悟をするがよい。」   

だが考えてみると、これは中学生、高校生の教材としては appropriate (適切)ではない...。

[蛇足]
crap --- 嘘、ほら、というほかに、排泄物という意味でもある。 しかし、poop, stool, waste, excretion, excrement, feces などと比較すると、あまりよい響きを持った言葉ではないので、使わぬほうがよろしい。

shit --- 悪しき言葉なので、使わぬほうがよろしい。
コメント
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