読書と映画そして四方山話

映画や読書を中心に日々の気になる話題を毎日お届けしてます。

ウエストワールド:TVシリーズ

2020年10月26日 | 気になる映画&TV
ウエストワールド:米のTVシリーズ

もともとは1973年の映画「ウエストワールド」(ユル・ブリンナー主演)を基に造られたもので、人工知能を備えたロボットがホストを務めるパークを舞台にした物語です。

TVシリーズも同様に開拓時代の西部の町をロボットで再現し、訪れた観光客が古き時代の西部の町を楽しみながら、あらかじめ仕掛けられた悪党たちをライフルやピストルなどで倒すことを楽しめるのが売りのテーマパークになっています。

しかしながらそれだけにとどまらず、TVシリーズではその人その人の欲望のままに暴力やレイプなどをロボット相手にしても構わない、そんなバイオレンスな欲求を満たすことができる設定になっています。パーク自体は一般の人々が暮らす世界から遠く隔絶した場所にあります。そして、そこで行われる己の欲望のままの行為を通して人間の本性を知ることができるということが物語に厚みを与えています。

私がこの作品をアマゾンプライムビデオで見たのは、出演者の中にアンソニー・ホプキンスの名があったからです。バイオレンスをうたっている作品なので、はじめはどうしようかと考えていたのですが、彼の名を見てやっぱり見てみようと思ったわけです。見始めると、ミッションインポッシブル2に出演していたタンディ・ニュートンや、どこかで見たことがあるなあと思ったらここ最近の007シリーズでフェリックス・ライターを演じているジェフリー・ライト、アポロ13など多数の作品に出捐しているエド・ハリス等々そうそうたるメンバー達が出演していました…。他人事ながら出演料がいくらかかるんだろうかと、いらぬ心配をしてしまいました。。。。

しかしながら、そのおかげなのかどうか、一流の映画を見るような作品に仕上がっています。全編を通して緊張感のある物語と演出に満足することができました。例えて言えば10時間の長編映画を見たという感じでしょうか・・・。

シーズン1の2話目で二人の男がパークにやってきます。73年の映画では主人公になるのですが、TVシリーズでも(説明が難しいのですが)同時並列的に進む話の中の一つの重要な主人公になります。男の一人で義理の兄の方が列車の中で義理の弟に向かって言います。「ここでは外の世界のことは忘れて別人になるんだ。羽目を外して本当の自分を見つけることがここではできるんだ・・・」。

見ている私達もそのように思い込み、この物語を「人の欲望とはなんだ・・?」という目で見るようになるのですが、だんだんと物語が進んでゆくうちに、この作品の製作者の意図は別にあるのだという事に気が付くようになります。それは、パークのアトラクションのストーリーを作る作者が自信たっぷりに新作を発表したとき、アンソニーホプキンス演じるフォード博士がいきなり否定する言葉を投げかけたときかもしれません。「このチープな仕掛けで、自分の欲望や本心を知ることができるだって?答えはノーだ。」
または、シリーズ1の終盤か2のほうだったかもしれないけれど、フォード博士はこんなことを言っています。「人はここに自分を探しに来るだって?そんなことはない。誰だって自分自身のことは自分が一番よく知っている・・・。」と言われたときかもしれません。

とても奥深くて、つかみどころの沢山あるストーリーなので、何を言いたいのかを探しながら見るのも作品を楽しめる一つの方法かもしれません。人とはなにか、ロボットと人にどんな違いがあるのか、私は自分を人と思っているが本当は自分自身はロボットなのかもしれない、それを知る方法はあるのか、私の過去の記憶は本物なのだろうか、誰かにあらかじめ刷り込まれた記憶を頼りに今日だけを生きているかもしれない。今いる私は私なのだろうか?・・・等々、見ているといろいろなことを考えさせてくれる作品です。

蛇足ながら、私自身西部劇ファンでもあるので、そういった面でも結構楽しめる内容でした。シーズン2では日本のサムライのパークがすこしだけ出てきます。おそらく日本人向けというよりは、日本のサムライが好きなアメリカ人向けに美味しいところを見せてくれる内容になっています。でも私は「ちょっとちがうぞ・・・」なんて思いながらも面白がって楽しく見させていただきました。
100点満点で100点の作品だと思います。

ただし過激なシーンが多数あるので見るときは気を付けて・・・。



セラピスト 最相葉月:著作

2020年08月14日 | 気になる本・小説
 何年か前になりますが、野村進と言う人の書いた「救急精神病棟」という本をよんでショックをうけたことを覚えています。筆者の野村氏が千葉県精神科医療センターへ3年間密着取材したルポタージュなのですが、臨床心理学
の本を読んで統合失調症(分裂病)や双極性障害(躁うつ病)なんて名前は知っていたけれども、現実の医療現場で実際どんなふうになっているかを驚きとともに知ることができました。ごくごく普通のサラリーマンのおじさんが、突然駅で大声で「宇宙人が来る!!」と叫びだして、病院に担ぎ込まれてくるなんて、生半可な知識を通り越して一体人間とはどんな生き物なのだろうと考えてしまうほどのビックリする内容の本でした。

 心理学に興味を持ってその分野の本を読み進めてゆくと、どうしても臨床心理の分野の本を沢山読んでゆくことになると思います。そんな中で、臨床心理士や精神科医にインタビューを行って心理セラピーについてまとめた本があると聞いて読んでみようと思ったのが「セラピスト 著:最相葉月」でした。参考書や解説書もだいじですが、先の野村進氏のルポのような現場で実際に起きていることを読んで知ることも面白いと感じたからです。

 この作品では、臨床心理士の木村朝子氏が広汎性発達障害の診断を受けたY少年への「箱庭療法」、そして30代で失明した女性に対して行った「箱庭療法」のエピソード、精神科医中井久夫氏による著者自身への絵画療法についてのルポタージュなどを中心にして、心理カウンセリングの実情を解説しています。様々なカウンセラーからインタビューで聞き取った内容と参考文献をもとにして、詳しく書かれています。

 またこの作品ではカウンセリングってなあにという問題の答えよりも、カウンセリングを行う人がいかにしてクライアント(業界では患者のことをこう呼びます)の心の問題にアプローチしてゆくのか。そこにあるカウンセラー自身の心の葛藤や療法へのこだわりなどに焦点をあてています。心理療法は日々進化してゆくものなんだなあ、という事がよくわかります。

 アメリカなどでは何十年も前から一般社会に受け入れられている心理療法(サイコセラピー)ですが、日本でもこれからますますポピュラーなものになってゆくのかな。読んで面白い一冊でした。

「起こること」にはすべて意味がある:ジェームズ・アレン

2020年07月03日 | 気になる本・小説
「起こること」にはすべて意味がある
 ジェームズ・アレン著作
 「引き寄せの法則」研究会 訳


著者のジェームズ・アレン氏は1864年イギリス生まれ。父親の事業の破綻と死から15歳で学校を退学し様々な職業を経験する。その後大企業の役員秘書になるが38歳で仕事を辞め、イギリス南西部の海岸で暮らし始める。といったような著者の紹介文を読んで、この本を読んでみようと思いました。
私が生れる百年前の人がどんな考えを持っていたのか興味がわいたのですが、そもそも苦労人だという事で、絵にかいたような大学教授か何かの哲学とは別次元の話がきけると思ったからです。

日本語の本のタイトルは”「起こること」にはすべて意味がある”となっていますが、英語の原題は”Light on Life's Dificalties"です。直訳すると、”人生の困難に光を当てる”となります。日本語のタイトルは、恐らく本の中で著者が言いたかったであろうことを要約して、わかりやすいタイトルにしたのかなと個人的には思っています。それは例えば第2章の中に出てくる次のような言葉です。”思いの一つ一つが存在をつくり上げ、経験の一つひとつが人格に影響をおよぼし、努力の一つひとつが考え方を変化させていきます。” ・・・まさに行動する人の言葉だと思います。

一方英語のタイトルの”人生の困難に光を当てる”については、著者自身の冒頭の序文で次のように述べています。”人は暗い部屋に入ると、思うように行動できなくなります。まわりのものが見えないので、気づかずぶつかってけがをしてしまうこともあります。 ~中略~ 失望や困惑、悲しみや苦しみといった「けが」の多くは、人生を支配する法則を知らないがために引き起こされているのですが、無知の暗闇を知恵の光で照らせば、混乱は消え去り、問題は解決し、あらゆるものがはっきりと見えてきます。”・・・著者がこの本でいいたいことを端的に述べている部分だと思います。

この本を読んでみて最初に感じたことは、年を取った今だから書いてある文章一つひとつに納得できたり、ちょっとこれは…なんて思えたりできて、楽しむことができたのかな、という事です。若いころに読んでいたらば、ピンとこない部分も多かったかもしれません。自分自身の若いころは、苦労をすることに意味があるなんてそれほど強く思ってはいなかったからです。
それでもやっぱり若いころに読んでおきたかったなあ。自分の思っていることがすべてだと思い込んでいたあのころに、ほんの少しでもそうではないよ、と言ってくれる本書のようなものがあれば、随分と違っていたかもしれません。

歳をとると、自分の頭の中で考えていることがすべて正しいなんてことはないと、少しづつわかってくる。だからこそ、色々な人に出会って話を聞いたり、本を読んで刺激を受けることが、とても貴重に思えてくる。若い頃にそのことがもう少し分かっていればなあ、なんてこの頃思うようになってきています。

本書は哲学書でも、宗教書でもありません。もちろんほんの少しだけ哲学や宗教の話は出てきますが、この本の立ち位置としては「行動する哲学書」みたいな感じではないかと思います…。今の自分をもう一度考えさせてくれる良い本に出合えたと思いました。

年を取ると若い頃に比べて生きていくことに不安を覚えることが増えてきます。そのことについて、本書の最後のほうに出てくる次のような言葉が、印象に残りました。”移ろいやすいものにしがみつくのをやめれば、消えさらない悲しみはなくなりますし、はかないもいのへの執着心を捨て去れば苦悩も消えてゆきます。”・・・移ろいやすいものとは、お金であったり、名誉であったり、人間関係であったり、様々な悩みの種になる物事を指します。詳しくは本を読んでみることをお勧めしますが、とても考えさせられる言葉だと思いました。

映画マネー・ショート

2020年05月19日 | 気になる映画&TV

マネー・ショート 
The Big Short
監督 アダム・マッケイ
2015年ハリウッド

2007年9月のリーマンブラザース倒産が象徴するアメリカの金融ショックを、今私たちはリーマンショックと呼んでいるわけですが、その誰もが家や資産を失っている最中に大金を儲けたファンド(投資会社)があったという実在の話を基にした映画です。

 タイトルのマネ―・ショートという言葉だけで判断すると、株式市場が暴落している最中にショートポジション(つまり株の空売り)で儲けたファンドの話かなと思って映画がを見ました。2007年から8年にかけての株価の下落は日本でもひどいもので、確か日経平均が2万円から6千円くらいにまで下がってしまったことを覚えています。1日に千ドルも下げる、日経平均でも千円くらい下げる日が続出している最中であれば、ちょっと気の利いたファンドマネージャーならショートポジションで儲けられるんじゃないかな、映画にして面白いのかな・・・、なんて思っていました。(もちろん2020年のコロナショックもそれ以上にひどいです・・・)

 しかしながらこの映画で描かれていたのは、リーマンショックが起こるはるか前に、アメリカの不動産ローンを担保にした証券、いわゆるサブプライムローンが破綻することを見抜いたファンドマネージャーたちの話でした。

その頃のアメリカでは、新築の家の値段が毎年のように上がってゆく状態でした。それこそ天井知らずで、50万ドルで購入した家が数年で60万ドル70万ドルと上がってゆく。家を購入するときのローンは利息が初めの1~2年はほんの数パーセントで安く、毎月の返済も小遣い程度で済むので楽に家を購入できる。その後支払いがきつくなるように設定されているけれども、そのころには家の値段が上がっているので、家を売れば購入したときに借りたローンの返済をしてもたっぷりと手元に現金が残るという仕組みで、家の販売は伸びていったのです。

 銀行は不動産担保ローンの証券をまとめて、それを再び一つの証券としてファンドや投資家に安全資産として販売しました。この資金が再び不動産ローン市場へと還流して不動産価格を押し上げる原動力となってゆきました。
 この証券は儲かるという評判で銀行はアメリカだけでなく、ヨーロッパや日本の銀行、証券会社にまで販売して大金を得てゆきました。まさか、このシステムに間違いなんかあるはずがないと、世界中の金融のプロフェッショナル達はそのとき考えていました。

 日本の1980年代の不動産バブルがはじけた直接のきっかけは、政府が不動産価格を抑制するために不動産の転売をしずらいようにする法律を作ってしまったことでしたが、アメリカ政府がそんなことをするはずもなく、この先ずっと不動産ローン市場は宝島状態であることは間違いないはずです。

 そんななか、一人のファンドマネージャーがこの不動産バブルの穴を見つけてしまいます。

 実話ということですが、もう、すごいという言葉しか出てきません・・・。2020年の今だから分かっていますが、その当時誰も疑問に思うことのなかった、・・・たとえ疑問に思っても口にするだけで笑われてしまうような事実を発見し、すべての人が金儲けのためにロングポジション(買い)を取っている中で一人だけショートポジションを取った。
いるんだなあ、そんな人が。

 映画では難しい金融工学の言葉がいろいろ出てきます。ちょっと難しかもしれません。例えば、不動産担保ローン証券の空売りをしたくても、できる手段がありません。そこでファンドマネージャーはCDS(クレジットデフォルトスワップ)という(これもデリバティブ証券です)ものを使います。いちいち調べると難しいと思いますが、簡単に言うと、債権が支払い不能になった時にお金が支払われる保険みたいなものと考えればいいと思います。ファンドマネージャーは不動産担保ローンの債権が回収不能になると考えるので、そのような手段を使うわけです。
他にもいろいろな言葉が出てきますが、あまり深く追求しなくても、さらっと流しながら見てもよいんじゃないかなあなんて思います。

 1987年の映画「ウォール街」でも人の欲望という事について語っていましたが、この「マネー・ショート」でも、欲のためには何をしてもいいのか・・・という事を実際の話として描いているので、違った意味で考えさせられる映画だと思います。


アルケミスト 夢を旅した少年

2020年05月18日 | 気になる本・小説
アルケミスト 夢を旅した少年
パウロ・コエーリョ 著
1988年 ブラジル
山川紘矢&山川亜希子 訳

 スペインのアンダルシア地方に住む羊飼いの少年サンチャゴが同じ夢を2度見る。夢の中で出てくる少年は、エジプトのピラミッドへ行へばそこで宝物を見つけることができると繰り返すのだった。
サンチャゴは占い師の老婆のところへ行き夢のことを話すと、占い師はそれは正夢だと告げ、ピラミッドへ行けば宝物が見つかるという。そして、サンチャゴの長いエジプトへの旅が始まる。そんなストーリーの小説です。

ストーリーはファンタジー(幻想)なわけですが、書いてある内容は旅好きな作者のリアルな言葉で埋めつくされています。例えば、小説の冒頭に出てくる父親と少年の会話。少年が旅に出たいと話をする場面。

「息子よ、世界中から旅人がこの町を通り過ぎていったではないか。」と父親が言った。「彼らは何か新しいものを探しに来る。しかし、帰るときも、彼らは基本的には来た時と同じままだ。~中略~」。「でも僕は彼らが住む町の城を見たいんです。」と少年は説明した。「旅人たちは私たちの土地を見て、自分もずっとここに住みたい、というんだよ。」と父親は続けた。

 また、旅の途中で世話になるアラブ人との会話。アラブ人はメッカに巡礼をすることを夢見ているが実現はしていない。

 「メッカに行ってきた連中は、巡礼ができて幸せそうだった。彼らは自分の家の門のところに巡礼に行ったしるしをつけるのだ。その中の一人で、長靴を修理して生計を立てている靴なおしは、ほとんど一年をかけて砂漠を旅したが、買った皮を担いでタンジェ(アラブ人の住む町)の通りを歩く方が、よっぽど疲れると言っていたよ。」
「ではどうして今、メッカに行かないのですか?」と少年がたずねた。
「メッカのことを思うことが、わしを生きながらえさせてくれるからさ。~以下略」

作者パウロ・コエーリョ氏が実際に生活の中や、旅の途中でであったシーンや言葉がベースにあって作品が作られているのだろうな、なんて想像できるような会話だと思います。だからこそ、旅や人生についての示唆に富んだ内容がちりばめられているにもかかわらず、読んでいて重く感じたりすることもなく、軽い旅行記を読むような感覚で作者の旅や人生の哲学を楽しむことができるのだと思います。

 約200頁、2日間くらいで読める作品ですが、内容の重さは一年分くらいあるように思います。いい小説に出会えてラッキーでした。