何度もテレビドラマ化された山崎豊子原作『白い巨塔』のうち最もポピュラーなのは1978年の田宮二郎主演のものと2003-2004年の唐沢寿明主演のものである。
「白い巨塔」とは象牙の塔としての国立大学医学部付属病院のことであり、そこで繰り広げられる患者蔑視の権威主義が批判の対象となっている。
そして、このドラマの主舞台・浪速大学医学部附属病院のモデルは言うまでもなく大阪大学医学部付属病院である。
その大学病院の第一外科の戝前五郎教授と第一内科の里見脩二助教授の友情と対立が話の軸となっている。
戝前は出世志向の典型的な野心家だが、世界屈指の食道外科医であり、医者としては超一流だ。
が、人格卑しく品性下劣なところがあり、金と女と酒をひたすら好む。
それに対して、里見は研究一筋で、患者には誠実に対処し、出世や権威には全く無頓着である。
それゆえ、言うまでもなく正義感が強い。
この二人が、ある胃噴門ガンの患者の誤診と死亡をめぐって激しく対立するのである。
その詳しい経緯はまた後で述べることにして、ここでは1978年版と2003年版の二人の主人公の配役について意見しておこう。
まず1978年版は戝前を田宮二郎が、里見を山本學が演じた。
田宮二郎は超はまり役であり、彼以上に「戝前五郎」をうまく演じれる俳優はいないであろう、と言われた人であり、唐沢がかわいそうなほどである。
本当に田宮の戝前教授は説明無用である。
一方、山本學の演じた里見脩二も秀逸であった。
世渡り下手で正義感が強い、研究志向の内科医を演じさせたら彼が一番であろう。唐沢ほどではないが、江口も分が悪い。
次に2003年版は戝前を唐沢寿明が、里見を江口洋介が演じた。
まず、田宮版とは逆に里見の方が戝前よりも背が高くなっている。
もともと原作では戝前五郎は筋骨隆々とした長身のバイタリティあふれる男であり、背の高い俳優の方がいいはずである。
田宮は身長180㎝、江口は185㎝である。
唐沢は174㎝ぐらいで、山本は169㎝といったところである。
比率が同様なままに二人の背の高さが逆転している。
しかし、唐沢は彼なりにあくの強い野心家・戝前を演じ、喝さいを浴びた。
江口もいい味を出していたが、実は予想以上に評価が低かった。というより人気がなかった。
それは彼の演技が下手だったからではなく、視聴者の価値観と道徳観が25年前とは大きく変わっていたからである。
江口の演じた里見は自己満足的な偽善者とみなされたのである。
これには呆れるばかりである。
現代的道徳観は、いじめを黙認するような教育から生まれたものだから、しょうがないと言えばそれまでだが、ちょっとひどすぎないか?
みんなトリックに引っかかっているんだよ。
医学と医療を進歩させたのは戝前的医者じゃなくて里見的医者だったんだよ。
いつの時代にも。
自分が患者になってみれば分かるよ。