うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

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世界で戦うことが「記念受験」のレベルにまで落ちぶれた日本男子マラソン

2011年09月18日 | 陸上
アフリカ勢の強さが際立った。最初の5キロを15分58秒で通過するスローペースでスタート。前半20キロまでは、5キロごとのスプリットが15分台で進んだ。
 20キロすぎでアフリカ勢が抜け出し、先頭集団は一気に半分まで減り、10人ほどに。5キロ14分台のハイペースとなり、25キロすぎでケニア勢3人とエチオピア選手の計4人に絞られた。30キロ手前でキルイ(ケニア)がスパート。そのまま独走した。
 日本は堀端が前半まで先頭集団にとどまったが、ペースアップに付いて行けなかった。それでも後半耐えて7位入賞。中本も粘って10位となったが、アフリカ勢との走力の差は歴然だった。

〔時事通信 2011年9月4日の記事より〕

今大会の男子マラソンの詳細の記録(wikiより)
1991年に東京で行われた第3回世界選手権の男子マラソンの詳細の記録(wikiより)


                           *  *  *  *  *


韓国の大邸で開催されていた第13回世界陸上選手権。大会最終日の9月4日は、男子マラソンが当地の朝に行われました。結果はご存知の通り、アベル・キルイ(ケニア)が2時間7分38秒と夏のマラソンとしては好タイムを出して、前回2009年ベルリン大会に続いて大会2連覇を達成。今回のレースに臨んだアフリカ勢は、2位がヴィンセント・キプロト(ケニア)、3位がフェイサ・リレサ(エチオピア)と表彰台を独占しただけでなく、上位6位までも彼らによって占められました。中でも、ケニアは代表選手5人のうち4人が6位以内ですから、本当に強すぎます。しかも、彼らは組織的にレースを戦っているのだから、まさに鬼に金棒ですね。

ちなみに、キルイのベストタイムは2年前のロッテルダムで出した2時間05分4秒ですが、このタイムは現在の世界歴代10位です。男子マラソンの世界歴代10傑のうち、ケニア人がなんと9人も名を連ねてます(なお、世界最高記録はエチオピアのハイレ・ゲブレセラシェが2008年のベルリンマラソンで出した2時間03分59秒)。今年の世界歴代10傑だと、ケニア人は8人も占めてます。ただ、今年の世界歴代10傑のうち、今回の世界選手権に参加したのは2位のキプロトと途中棄権したベンジャミン・キプト(ケニア)だけです。上位20傑まで広げても僅か5人だけの参加です。要するに、質が高くて選手層も分厚いアフリカ勢は、今大会の代表には必ずしもベストメンバーで編成した訳ではありませんでした。また、近年はプロ化が進んでおり、男女とも世界のトップレベルの選手は高額賞金が懸かった海外の大都市マラソンに照準を定めており、真夏に開催される世界選手権は回避する傾向も読み取れます。なので、今大会の結果は、決して本当の世界の序列だとは言えないと思います。

今大会の日本勢は堀端宏行が7位入賞して世界選手権で7大会連続で入賞を死守したとはいえ、実際のレースではケニアを中心とするアフリカ勢には全く歯が立ちませんでした。なにせ、ケニア勢がペースアップした約21km付近からは先頭集団からズルズルと後退。これ以降は、ペースを自重して終盤まで粘り、落ちてきた選手を拾って順位を上げるいつものパターンに終始。ちなみに、今年のシーズンベストを比較すると、日本は川内優輝が2月の東京マラソンで出した2時間8分37秒ですが、今季世界最高は今大会不参加のエマニュエル・ムタイ(ケニア)が4月のロンドンマラソンで出した2時間04分40秒と約4分も遅いです。つまり、決定的にスピードに欠ける日本勢は、勝負が懸かった本当のレースには半分までしか戦うことが出来ず、先頭集団から早々と脱落した後は、海外勢の自滅や戦意喪失という、他力本願を待つことしかない出来ないレベルなのです。なので、今大会の日本勢は「限りなく完敗に等しい善戦」と評するべきです。

今の日本の男子長距離&マラソン陣は、もはや五輪や世界選手権で入賞するのが偉業とまで称えられるレベルだと評しても、全く差支えがないです。五輪は各国の出場枠は3人までですが、来年のロンドン五輪には本当の世界の強豪が大勢参加し、気温が低いことが予想されるので、おそらく日本勢は入賞すらおぼつかないような気がします。それどころか、アフリカ選手の国籍を買い漁る中東勢が参加するアジアの大会で優勝しても、今の日本のレベルなら快挙として扱われるでしょうね。だけど、選手だけを責めるのは酷な面があります。というのも、今の日本の男子長距離&マラソン界は、企業アマの「実業団システム」にどっぷり浸かっているからです。早い話が、陸上競技には存在しない種目である駅伝に偏重するあまり、本業を片手間に行っているのです。その結果、高速化に全く対応出来ず、世界のトップから完全に置き去りにされているのです。

実力の低下や世界の潮流に目を背けて、旧態依然のやり方に拘泥する日本の男子長距離&マラソン陣ですが、これでも一向に廃れないのは、国内においてそれなりに需要があるからです。要するに、長距離選手を抱える企業にとっては、日の丸を背負って世界を渡り歩いて腕を試すよりも、自社企業の看板を背負って駅伝で日本一を目指す方が遥かに効率がよいということです。400mHの為末大が自身のブログでも述べてますが、選手の身分はあくまでもサラリーマンに過ぎないので、下手にプロ選手を目指すよりも、企業に留まっている方が生涯賃金が高いそうです。これだと、当然リスクを取る選手はいるはずがなく、国際競争力の低下は必至です。箱根駅伝を走る選手にしても、世界を目指すことが目標ではなく、「実業団システム」のレールの上に乗っかって、より良い就職口を探すのが最大の目的です。各メディアが後援する駅伝大会はテレビの視聴率がなまじ高いこともあり、企業も高い注目度を当てにして国内の顧客のみだけを相手にしているのです。

「ドメスティック」というより、「引き篭もり」と呼んだ方が相応しいこの手のタイプの競技は、日本には男子長距離&マラソン以外にも結構あります。バスケットボール、バレーボール、スキージャンプ、ラグビーなどです。片足を突っ込みかけているのが女子マラソンでしょうね。かつて世界の頂点に君臨したことのある競技や、老舗の競技なのが特徴です。対照的なのが女子サッカーです。なにせ、世界一になっても、常に国際大会で結果を出し続けない限り、国内女子サッカー界の未来が拓けない、苛酷な競技環境だからです。しかも、厳しい経営環境の影響でプロ選手が少なく、その待遇にしても決して恵まれてません。彼女達が逆境に追い詰められた時に真の勝負強さを発揮するのは、常に危機意識を覚えながら、大きな責任と強い使命感を背負って戦っているからです。彼女達からすれば、これらの競技は自分達よりも遥かに恵まれた立場なのに、世界で結果を全く残せなくても何の責任も問われないどころか、帰る家までしっかりあるのだから、心中は複雑でしょうね。とはいえ、国内でチマチマやっても食いはぐれないこれらの競技は、覚悟や取り組み方も甘いとしか言いようがないです。

かなり乱暴な言い方ですけど、ぬるま湯にどっぷり浸かったこれらの競技が国際大会に参加するのは、メッキが剥がれて恥をかくだけなので、仕分けをした方がよいのかもしれませんね。これらの競技団体は、「世界」という言葉は唱えるけど、実際は口先だけで、本気で強化体制を整備(=プロ化)する意思は皆無ですから。それどころか、取るに足らない安っぽいプライドや縄張りを墨守するあまり、選手や指導者の海外交流を断絶して井の中の蛙になるなど、鎖国政策まで敢行。それに、選手本人に自己変革や向上心すらないのだから、貴重な資金をつぎ込んで強化する価値は全く無いです。むしろ、競争率は高いけどやり方次第では世界で戦える競技、今は世界のトップではないが将来性が見込める競技、可能性は秘めているけど金策に悩まされている競技などに投資した方が遥かに有益ですね。


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低迷真っ只中の日本男子マラソン陣に大きな一石を投じた川内優輝の快走

・参考文献
為末大オフィシャルサイト『侍ハードラー』 2011年3月2日付「川内選手と実業団システム」より



☆日本男子マラソン最後の栄光となった第3回世界選手権東京大会のハイライト。
20年前の映像を見て慰めることしか出来ない事に苛立ちと惨めさを覚えます。
(1991年9月1日 @発着点・国立競技場)       ※1~4まで映像があり

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