社長ノート

社長が見たこと、聞いたこと、考えたこと、読んだこと、

東京新聞 筆洗

2019-09-21 06:55:50 | 日記

 詩人竹中郁(いく)が近代詩「ラグビイ」で好評を博したのは昭和初期だった。〈水と空気とに溶解(と)けてゆく球(ボール)よ。楕円(だえん)形よ。石鹸(サボン)の悲しみよ〉〈球(ボール)は海が見たいのです〉。はかなさを帯びた若者の夢が、感じられようか。
 同じころ、俳人山口誓子はラグビーを題に、句作を始めた。〈ラグビーの憩ひ大方は立ち憩ふ〉。肩を寄せ、乱れた息を整える姿か。日本に伝わって長い時間がたっていない時代から、詩人らを触発していたのが、ラグビーである。
 楕円球の弾みに人生を重ね、体のぶつかり合いから生まれる友情の尊さを重んじる。日本人の心の波長に、どこか合った競技であるのだろう。
 「一人はみんなのために、みんなは一人のために」という言葉がある。英国紳士の道を説いているようで、この言葉を人生訓として、ラグビーと関連づけて語る傾向は、日本人のほうが強いらしい。団結や自己犠牲の精神が日本人に合うようだ。
 きょう、ラグビーのワールドカップ日本大会が始まる。はぐくまれてきた日本流の団結を披露する舞台であろう。史上最強ともいわれるメンバーが海外出身の選手を含めて、一つになる姿がみたい。大震災の被災地も会場となる。復興を目指す人々の心にも響くプレーを期待したい。
 〈ラグビーの選手あつまる桜の木〉田中裕明。冬の季語にもなっているラグビーである。日本らしさが感じられるといい。