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衆議院の解散-その4

日本国憲法第69条は、「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」と規定しています。

しかしながら、解散の理由はこれら2つの場合に限定されるわけではありません。

内閣不信任決議案の可決を理由とする解散は、第1回国会以後24回行われた解散の中で4回のみです。

[内閣不信任決議案の可決を理由とする解散]

○昭和23年12月23日 第4回国会 吉田内閣「馴れ合い解散」
○昭和28年3月14日 第15回国会 吉田内閣「バカヤロー解散」
○昭和55年5月19日 第91回国会 大平内閣「ハプニング解散」
○平成5年6月18日 第126回国会 宮澤内閣「政治改革解散」


内閣不信任決議案の審議中に解散された4回を含めても、内閣不信任決議案可決による解散は半数に届きません。

衆議院解散の詔書には、解散の憲法上の根拠条文が記載されます。

ただし、第1回国会以後、初回の解散を除き、内閣不信任決議案の可決による解散の場合を含め、憲法第7条のみが引用されています。

初回の解散は、占領軍当局の指導もあり、馴れ合いの内閣不信任決議案可決によるものですが、この時の詔書には、憲法第69条及び同第7条が引用されました。

なお、衆議院解散後には、政府声明又は内閣総理大臣談話が発表される例となっており、談話で示された解散の理由は様々です。

例えば、「内外の情勢と直面する課題の大きな変化への対応」など、ここ最近の解散時にも必ず行われてきました。

しかし、今回はその発表をしないとの報道が、解散前日になされました。

以下、平成29年9月27日になされた報道の概要です。

「9月27日の記者会見で官房長官は、9月28日に召集される臨時会冒頭で衆院が解散された後、総理が同日中に記者会見を開かないことを明らかにした。

平成17年当時の総理による「郵政解散」以降、4回あった衆院解散ではいずれも総理が解散当日に会見し、解散理由などを説明してきた。現総理も前回平成26年の解散時には、衆院解散を表明した11月18日と解散当日の同月21日の2度にわたって会見している。」
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衆議院の解散-その3

衆議院の解散は、憲法の定める天皇の国事行為のひとつであり、詔書により、内閣総理大臣から衆議院議長に伝達されます。

詔書とは、国事行為について天皇が発する公文書で、天皇の署名である御名が行われ、かつ御璽が押され、さらに内閣総理大臣が副書します。

天皇の国事行為は、内閣の助言と承認により、内閣の実質的な決定にしたがって、形式的・名目的に行われる行為です。

よって、何度も繰り返していますが、衆議院解散の決定権は内閣にあるのです。

この点に関する内閣の見解について紹介します。

○昭和60年12月20日 
衆議院解散権の帰属に関する質問主意書」(質問第22号)に対する答弁書(内閣参質103第22号)。

質問二について
「憲法第7条各号に掲げられている国事に関する行為については実質的に決定を行う権限を有するのは、天皇の行う国事に関する行為について助言と承認を行う職務を有する内閣であると解している」

質問三から五までについて
「衆議院の解散は、憲法第7条において天皇の国事に関する行為として規定されており、この場合、実質的に衆議院の解散を決定する権限を有するのは、天皇の国事に関する行為について助言と承認を行う職務を有する内閣である」

だからこそ、今回、ようやく臨時会を召集した途端の冒頭解散については行政権たる内閣の判断について、色々と考えを巡らせてしまうのです。

憲法第53条の規定に基づき6月22日に召集要求が出されていたこと、「これまでにない深刻かつ重大な脅威」と強い表現を用いて北朝鮮に関する声明を出す一方で、北朝鮮に対する抗議決議を国会の本会議で行わないまま解散すること、内閣改造後国会での本格論戦を経ないままであること、等を勘案すると、それ前提で臨時会召集日、会期の件も扱わないまま、閉会中審査のための手続きを参議院で行うのが良いのか否か、立法権と二院制の在り方と併せて考え続けています。
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衆議院の解散-その2

衆議院の解散は、天皇の国事行為として解散詔書をもって行われますが、衆議院解散の決定は内閣が行います。

衆議院解散の詔書ですが、衆議院の本会議中に伝達されることがほとんどです。

ただ、本会議が開かれていない時に解散の詔書が伝達されたことも過去3例あります。ちなみに、前々回のエントリーで紹介した国会召集日の冒頭解散も過去3例です。

本会議中に詔書が伝達された場合、議長は直ちに議事を中止して詔書を朗読します。

衆議院議長の詔書朗読
「ただいま内閣総理大臣から、詔書が発せられました旨伝えられましたから、朗読いたします。日本国憲法第7条により、衆議院を解散する。」


また、本会議が開かれない日に伝達されたときは、議長は議長応接室に各会派代表者の参集を求め、詔書を朗読します。

いずれの場合も、議長は、衆議院公報をもって、詔書伝達の旨を各議員に通知します。

解散の詔書が発せられ衆議院に伝達されたときは、内閣総理大臣は、参議院議長に対し、詔書の写しを添えてその旨を通知し、参議院議長は、各会派にその旨を通知する例となっています。

なお、参議院は、衆議院の解散による閉会中は、議案の継続審査を行いません。

国会召集日の冒頭解散において、参議院本会議の議事は「日程第一 議席の指定」のみで休憩に入り、その休憩中に衆議院が解散され、同時に閉会となっています。

ここからは個人的なつぶやきです。

もし、「常任委員長の選挙」を参議院の議事日程に載せるようなことがあれば、9月28日に召集されるのは臨時会ですから「会期の件」の扱いをどうするのでしょうか。

常会の会期は国会法第10条で150日と決まっていますが、臨時会及び特別会は国会法第11条により両議院一致の議決で定めることになっています。

ただ、召集日冒頭解散であれば、衆議院で常任委員長会議が開会されるわけはなく、よって衆議院から会期協議がこないでしょうから、参議院の常任委員長懇談会をどうするのか、など疑問は尽きません。

さらに言えば、扱うかどうかは別として、臨時会ですから召集日の議事日程に「会期の件」は載ることになります。万一、継続審査云々ということになれば、
○議事日程「会期の件」
○本日の会議に付した案件「委員会及び調査会の審査及び調査を閉会中も継続するの件」
が同一日の参議院会議録に掲載されることとなります。

こんなことを少し想像するだけで、本会議休憩中に会期の件の協議もしないのに、継続審査の手続きをとっていいのかなあ、という思いがいたします。それなら、この際、議事日程に「委員会審査省略要求の議案」を追加して、北朝鮮に対する抗議決議を行えばいいのではないか、などとも思います。

どれもこれも、衆議院で内閣不信任決議案が提出されれば、ないんですけどね。

(参考)
衆参のちょっとした違い(閉会中審査・継続審査-その1)」平成28年6月26日
衆参のちょっとした違い(閉会中審査・継続審査-その2)」平成28年6月28日
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衆議院の解散-その1

○日本国憲法第7条

天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
三 衆議院を解散すること。(一~二、四~十は略)

○日本国憲法第54条2項

衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。

○日本国憲法第69条

内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。


衆議院の解散は、天皇の国事行為として解散詔書をもって行われ、衆議院に伝達されるとともに一般に公布されます。

衆議院解散の決定は、内閣が行います。

なお、衆議院が解散されたときは、内閣は、政府声明又は内閣総理大臣談話の形式をもって、解散の理由を発表するのが例となっています。

また、衆議院が解散された時は、参議院は同時に閉会となり国会の会期は終了することとなっています。

衆議院を解散できる場合について、憲法は第7条で

「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。三 衆議院を解散すること。」と規定するのみで、制限はありません。

憲法第69条は、

「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」と規定していますが、これは不信任決議案可決、信任決議案否決の場合に、衆議院の解散か、内閣の総辞職か選択すべき旨を規定しているのみで、衆議院の解散は、これらの場合に限られないと解されています。

よって、衆議院の解散は、内閣が実質的決定権を持っており、これをいかなる場合に行うかについて制限はありません。

ただし、
(1)内閣と国会が、特に衆議院で争われている重要な政策問題について国民の判断を問う必要がある時
(2)現在の衆議院が、国民の意見を代表していないと考えられる正当な理由がある時

などに衆議院の解散が行われるものであって、内閣の恣意によってなされるべきではありません。
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冒頭解散と総理発言

衆議院の解散とは、衆議院議員の任期である4年満了前に、衆議院議員全員について、議員の身分を失わせることです。

衆議院議場で解散詔書が朗読され、議場から退出するとき、すでに「前」衆議院議員なのです。

では、解散の本来の目的とは何でしょうか。

現在における重要な政治課題への行政権である内閣の取り組みについて、国民の信を問い、国民の意思を衆議院の構成に反映させることにあるのではないでしょうか。

憲法第53条の規定に基づき、野党4党から臨時会の召集要求が3か月前に出されている中、しかも、第193回国会閉会翌日の平成29年6月19日、行政権の長である内閣総理大臣は、記者会見でこう発言されています。

○平成29年6月19日 内閣総理大臣記者会見

「何か指摘があればその都度、真摯に説明責任を果たしていく。
先週も調査結果の発表後に予算委員会の集中審議に出席いたしましたが、4年前の原点にもう一度立ち返り、建設的な議論を行い、結果を出していく。そうした政治が実現するよう政権与党としての責任を果たしてまいります。

国民の皆様から信頼が得られるよう、冷静に、一つ一つ丁寧に説明する努力を積み重ねていかなければならない。その決意をこの国会の閉会に当たって新たにしております。」


憲法の規定に基づき、その召集が義務付けられている臨時会に3か月経って応じたと思ったら、黙して語らず冒頭解散。

衆議院解散の決定権は、行政権である内閣にあります。

立法権たる国会に対し、二重の側面で一言も発言なく衆議院解散とは、「国会軽視ここに極まれり」ではないでしょうか。

(参考)
臨時会の召集-その1」 平成27年11月27日
国会の召集-その1」 平成27年12月22日
公示と告示の違い」 平成28年4月12日
衆議院の解散と参議院の緊急集会-その1」 平成28年5月25日


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国会召集日の冒頭解散

来週28日に召集される第194臨時会は、冒頭解散と報じられています。

立法府に身を置く議会人として、内閣がその陣容を新たにした後、立法府で本格的に論戦に挑むことなく、しかも憲法第53条の規定に基づき、約3か月前に臨時会の召集要求が行われているにも関わらず、ようやく臨時会を召集したと思ったら、直ちに衆議院解散とは理解に苦しみます。

内閣改造後、国会での本格論戦を経ずに解散されれば、それは今回が初例になりますが、国会召集日の冒頭解散であれば、過去に3例あります。

[国会召集日の冒頭解散例]

〇昭和41年12月27日 第54回国会 第一次佐藤内閣「黒い霧解散」

○昭和61年6月2日 第105回国会 第二次中曽根内閣「死んだふり解散」
この時は本会議を開くに至らず、議長応接室で解散詔書が伝達(野党欠席)

○平成8年9月27日 第137回国会 第一次橋本内閣「小選挙区解散」

-----------------
○昭和41年12月27日 参議院本会議→衆議院本会議(解散)

11時17分 参議院本会議開議
11時18分 参議院規則第14条に基づく議席の指定のみで休憩(休憩中に衆議院が解散され同時に閉会)

14時3分 衆議院本会議開議
     衆議院規則第14条に基づく議席の指定後、以下議長発言
14時5分 議長:ただいま内閣総理大臣から詔書が発せられた旨伝えられましたから、これを朗読いたします。
      〔総員起立〕
     日本国憲法第7条により、衆議院を解散する。
      〔万歳三唱、拍手〕
-----------------
○昭和61年6月2日 参議院本会議→衆議院本会議開会せず(解散)

10時6分 参議院本会議開議
10時7分 参議院規則第14条に基づく議席の指定のみで休憩(休憩中に衆議院が解散され同時に閉会)

衆議院本会議開会せず、議長応接室で詔書伝達(野党欠席)

詔書伝達
6月2日、中曽根内閣総理大臣から坂田議長あて、次の詔書が伝達された。
  日本国憲法第7条により、衆議院を解散する。
 御 名 御 璽
   昭和61年6月2日
         内閣総理大臣 中曽根康弘
     ────◇─────
 議事日程 第一号
  昭和61年6月2日(月曜日)
    午前十時開議
 第一 議席の指定
 第二 会期の件
    ─────────────
    〔会議を開くに至らなかった〕
-----------------
○平成8年9月27日 参議院本会議→衆議院本会議(解散)

10時1分 参議院本会議開議
10時2分 参議院規則第14条に基づく議席の指定のみで休憩(休憩中に衆議院が解散され同時に閉会)

12時3分 衆議院本会議開議
     衆議院規則第14条に基づく議席の指定後、以下議長発言
12時5分 議長:ただいま内閣総理大臣から、詔書が発せられた旨伝えられましたから、朗読いたします。
     〔総員起立〕
     日本国憲法第7条により、衆議院を解散する。
     〔万歳、拍手〕
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会計検査院に対する検査要請

○国会法第105条

各議院又は各議院の委員会は、審査又は調査のため必要があるときは、会計検査院に対し、特定の事項について会計検査を行い、その結果を報告するよう求めることができる。

○参議院規則第181条の2 

委員会が審査又は調査のため、会計検査院に対し特定の事項についての会計検査及びその結果の報告を求めようとする場合は、議長を経て、これを求めなければならない。(衆議院規則第56条の4に同様の規定あり)


平成29年3月6日、参議院予算委員会は、国会法第105条に基づき会計検査院に対する検査要請を議決しました。

[平成29年3月6日 参議院予算委員会/会計検査の要請に関する件]

○予算委員長

会計検査の要請に関する件についてお諮りいたします。

予算の執行状況に関する調査のため、会計検査院に対し、お手元に配付のとおり、学校法人森友学園に対する国有地の売却等について会計検査を行い、その結果を本委員会に報告するよう議長を経由して要請いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕


この制度は、平成10年の第142回国会から施行され、規則で議長を経て求め、会計検査院は要請を受諾して検査を実施して、報告書を提出する定めになっています。

参議院における初例は、平成12年の第147回国会の参議院行政監視委員会で、「ODAに関する決議」の実施状況に関する会計検査を求めたものです。

その後は、決算委員会で平成17年の「平成15年度決算」から毎年要請しています。

なお、予算委員会からの検査要請は、今年3月の例が初めてです。

会計検査院による報告書提出までの期間は、概ね2か月から1年ですが、上記学校法人に対する国有地の売却等についての報告書がそろそろ出るのでは、とも言われている頃に、本当に衆議院解散なんでしょうか。
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束ね法案と一括審議(再掲)

今月下旬にも召集される第194臨時会では、労働基準法等の一部を改正する法律案が最大の与野党対決法案になるのではないでしょうか。

今回のエントリーで詳細は割愛しますが、同法案は行政権である内閣から立法権たる国会に対して、これまで何度も取り上げてきた「束ね法案」の形式で提出されるのではないか、との報道がなされています。

今回は、2年以上前のエントリーを改めて紹介させていただきます。

「束ね法案と一括審議-その1」平成27年5月16日

今回は、普段は滅多に書かないようにしている個人的な思いを、あくまで立法府に身を置く議会人の立場で、少し書いてみたいと思います。

よって、今回は、議院規則でも国会法の紹介でもありません。ただ、このブログの今のルールである、個別の政策の是非については触れないこととします。

昨日、我が国の在り方を大きく転換することになるであろう法案(安保関連法案)が、内閣から国会に提出されました。このニュースは、詳細の内容はともかく、多くの方がご覧になったことと思います。

提出された法案は、計2本で、その内訳は、1本が改正法案、もう1本が新法です。

ただ、改正法案の方は、10本の既存の法律の改正案を1本にまとめている、いわゆる束ね法案となっています。

政府・与党の立場から見れば、10本の重い法改正を1本の法案に束ねることで、審議の迅速化を図ることが可能です。

少し具体的に説明します。

今回の法案を個別に提出した場合、1本1本が議論を呼ぶ改正内容を含んでいますので、法案審議のプロセスを10回繰り返さねばなりませんが、これらを1本に束ねることで、趣旨説明~質疑~討論・採決・附帯決議の流れを1回で終わらせることが可能となります。

さらに、今回は、もう1本の新法と併せて一括審議(2本の法案をまとめて審議)する予定ですので、立法府における審議の流れは、ひらたく表現すれば、1本の法案審議の流れと同じで済むのです。

他方、慎重審議を求める野党の立場から見れば、大別して2つの問題があります。

1つは、上記の政府・与党の立場と真逆の問題です。

今回の提出法案は2本ですが、うち1本は束ね法案であり、さらにいえば、新法のもう1本と併せて一括審議となることが見込まれています。本来であれば、所管委員会は複数に跨るものがまとめて審議されてしまうだけでなく、上述のとおり、法案審議のプロセスは、ひらたく表現すれば、1本の法案審議と変わらないため、充実審議を求め続けても、限界があると思われます。

慎重審議を求める野党の立場からすれば、我が国の在り方を大きく転換することになるであろう法案を、限られた審議時間で、しかもいわゆる後半国会になってから提出された法案の審議を一国会で終えてしまうことに、慎重であるはずです。

となると、先日紹介した「会期不継続の原則の例外」に基づき、継続審議を求めることも考えられますが、与党側が審議を途中で打ち切る手法も国会ルールの中にあるのです(このルールに関しては機会を見て、別途紹介したいと思います)。

もう1つは、法案を束ねたことによる賛否の判断の困難さです。

野党の中でもそれぞれの立場があると思われます。仮に、束ねられた10法案のうち、数本なら賛成できるかもしれない、もしくは修正を加えれば賛成に回れるかもしれない、という内容が含まれているとします。

個別に法案が提出され、これらが一括審議の扱いになっていれば、採決は個別となりますので、それぞれの法案に対する態度を表明することが可能です。

しかし、今回は、10本の改正法案が1本に束ねられて国会に提出されました。

束ねられた10法案のうち、1本でも絶対に看過できない内容が含まれていれば、賛成することは出来ないものと考えられます。なぜならば、束ね法案の場合、どれだけの数の法案の改正が含まれていようとも、外形上は1本の法律案であるため、採決は1回のみとなるからです。

慎重審議を求める野党の立場から見ると、束ね法案に含まれた、それぞれの法案に対する個別の意思表示の機会が封じられているのも同然です。

先日紹介した日本国憲法における三権分立の観点に立てば、国会(立法権)は、内閣(行政権)の下請け機関ではないはずです。

ただ、今回は一刻も早い法案成立を望む内閣(行政権)の意向を色濃く反映した国会(立法権)への法案提出の側面は、どの立場に立とうとも、否定しきれなのではないかと考えられます。

私は立法府に身を置く議会人のひとりとして、かねてから、束ね法案や一括審議に見る問題意識を有していますが、なぜ問題なのかという点について、次回、具体事例を交えながら書いてみたいと思います。

束ね法案と一括審議-その2
束ね法案と一括審議-その3
束ね法案と一括審議-その4
束ね法案と審議時間
第190回国会における束ね法案-その1
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