無題そのにひゃくきゅうじゅうに

実は引っ越しを考えていた。

いや、いまも考えているのに違いはないが、妻と二人、希望に合った物件を見つけ出そうと、暇を見つけては、主にネットで検索をし、いくつかは気に入った物件もありつつ、いささか決め手に欠けると、一年ほども探していたのだ。

が、つい五日ほど前に、いま住んでいるところから徒歩五分くらいの場所に、かなり理想に近い物件を見つけた。部屋は現在のよりかなり広く、陽当たりもいい。収納も二つあり、築年数もそれほどでもないため、浴室乾燥機やテレビモニターホンなどもあり、設備も申し分ない。妻と話し合って、内見を申し込むのに、日数はかからなかった。

日付も順調に決まり、あとは待つばかり……だったのだが、ほぼ決めても問題ない物件だし、申し込みを先にしておこうと妻と話して、その旨をメールしてみたのである。

自分たちの申し出は受け入れられ、これで引っ越しは決定したと思ったのだが、念のために、ネットには書いていない条件がないか、問い合わせた。検索している時に、これはと思った物件が、女性限定だったり、単身者限定だったりということが、しばしばあったのだ。
そんな条件は書いていなかったので、おそらく大丈夫だろうと考えていたのだが、先方からの返事にあったのは、

単身者限定

の五文字。

これには、すっかり引っ越しモードだった俺も妻も、一気に意気消沈してしまった。内見当日になってダメと分かるよりはマシとも言えるが、どちらにしてもショックであるのに変わりはない。愚痴でしかないのは分かっているが、単身者限定ならそうと明記してもらえないと。ぬか喜びなんてありふれた言葉では、表現しきれない落胆が、いま俺と妻を浸食している。

明日からまたバイトだが、無理矢理にでも、モチベーションを上げて取り組まないと、さらに落ち込みそうだ。ちょっと頑張れないが、頑張ろう。