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7/22なんでや劇場「分裂と生殖の秘密」レポート④~多細胞生物への進化

2007-08-01 23:06:52 | なんでや劇場
■その後、減数分裂を行う2倍体真核生物は多細胞生物に進化した。
なぜ、多細胞生物に進化したのが、2倍体真核生物だったのか?

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●その前に、多細胞生物とは何か?
多細胞生物の代表が動物。そこでは、たくさんの細胞が単に群れ集まっているだけでない(もちろん、単細胞から多細胞への進化過程では、栄養や情報を細胞間でやり取りするために群れ集まる「群体」という段階が存在するが)。人類では60兆個もの細胞が機能分化している。あるものは皮膚であったり、あるものは目であったり胃であったりと、膨大な数の細胞が多様な臓器や器官を形作って協働する。これが多細胞生物の特徴である。

一つの細胞が全ての機能を負担する、いわば一個の万能細胞が単細胞生物であるのに対して、各細胞が限定された機能に特化し各々の役割を担う、細胞群の協働態が多細胞生物である。


●では、このような多細胞生物の細胞の機能分化の起源は?

その起源は、遺伝情報を保存する生殖細胞と、それ以外の仕事を担う体細胞との役割分化にある。

多細胞生物は生殖細胞と体細胞から成る。生殖細胞とは卵子や精子を作り出す細胞。それ以外の細胞が体細胞である。遺伝情報を次世代に受け継ぐことができるのは生殖細胞だけであり、それによって種の保存が実現される。体細胞はある限定された機能の細胞へと分化した後はその機能を変えることなく働き続け、役割を終えると死んでゆく。あらゆる機能の細胞に分化し、次世代をつくる機能をも併せ持つ(=万能性をもつ)のは、生殖細胞が結合した受精卵だけである。

初期の2倍体真核単細胞生物(ex.ゾウリムシ)は、体細胞分裂する過程と減数分裂した細胞が遺伝子を組み換える過程の二つを併せ持っているが、減数分裂だけに特化した生殖細胞と、体細胞分裂だけに特化した体細胞とに分化させたのが、多細胞生物である。

安定性が求められる遺伝情報の保存を生殖細胞だけが受け持てば、それ以外の体細胞は変異が容易になり、多様な機能分化が可能になる。体細胞が(万能選手でなくとも)スペシャリストとして働くことができれば、その生物の機能全体が飛躍的に高度化するし、様々な適応様式を作り出すことができるようになったのである。

遺伝情報の安定性を生殖細胞が保持しつつ、外圧の変化に即応するための変異性=機能分化を体細胞が獲得する。安定と変異を両立する画期的なシステムを実現したのが、多細胞生物なのである。 実際、多細胞生物はその後急速に、かつ多様に進化してゆく。

●体細胞の多種多様な機能分化はDNA変異によるものなのか?

そうではない。どんな体細胞でもDNA配列はみな同じなのである。

では、なぜ、DNA配列が同じ体細胞が多様に機能分化できるのか?

そのカギはタンパク質(酵素)にある。酵素とは、生体内で起こる特定の化学反応だけを促進させるタンパク質である(現在1000種類以上発見されているらしい)。酵素によってDNA配列の一部分だけが働くように指令されると、DNAは同じでも全く機能の違う体細胞が多種多様に形成される。体細胞の機能分化の指令塔が、タンパク質=酵素ということだ。

生殖細胞の変異はDNA変異(減数分裂によるDNA組換え含む)によってなされるが、体細胞の機能分化は(DNA変異によらずとも)外圧に即応して起こるのだ。実際、「カンブリア大爆発」と呼ばれる急激な進化においても、DNAが変異したわけではない。急激な環境変化=外圧をキャッチした細胞群が相互に細胞間シグナルを送り合い、タンパク質群がDNAに指令することによって体細胞が急速かつ多様に機能分化したのが、「カンブリア大爆発」である。DNAから情報を部分読み取りしてタンパク質に伝えるRNAも、そこで何らかの役割を果たしているに違いない。

この話は、大きな気づきだった。

生物学の世界ではDNAばかりが競って研究されている。まるで変異と言えば、DNA変異が全てであるかのように(DNA信仰と言っても過言ではない)。ところが、体細胞の多様な機能分化を実現しているのはDNAではなく、多様なタンパク質群なのだ。DNA信仰という固定観念を捨てて初めて、生物の進化の謎に迫ることができるのだろう。


(本郷)

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown ()
2007-08-02 10:31:50
生物の授業でも、『タンパク質』にこんな重要な役割があるとは聞いたことなかったな

固定観念が壁になってることって実はたくさんある。

「外圧にどう適応していくか??」
この記事を読んで、世界が広がりました
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爪も胃袋も同じDNA (クリリン)
2007-08-02 22:57:24
>どんな体細胞でもDNA配列はみな同じなのである。

そういやぁそうですね
そうじゃなきゃDNA鑑定で髪の毛から犯人を断定したり出来ない。
しかし、爪と胃袋が同じDNAってなんかすごい。
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Unknown (msz)
2007-08-03 16:06:24
こちらも参考に

●分裂と生殖の秘密4:細胞の役割分化と多細胞体制
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=158178
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安定と変異 (Gen)
2007-08-04 00:11:26
>安定と変異を両立する画期的なシステムを実現したのが、多細胞生物なのである。

この、「安定と変異」の様式の進化が、生命進化の一つのポイントなんですかね?

原核細胞から真核細胞へと進化も、当初は膜の認識機能によって自分自身に近い安定的なものでけを取り入れたいたのが、地球上に酸素が増加するという逆境下においては、一か八か、それまでは敵だった「好気性細菌」を取り込み、やがてそれがミトコンドリアとなって見事に変異⇒適応を成し遂げた。

そして、多細胞においては「安定」をつかさどる生殖細胞と「変異」をつかさどる体細胞に分化し適応能力を飛躍的に高めた。

また、雄雌分化もメス=安定とオス=変異の役割分担(“雌雄”分化の方が適切?)になっている。

そう考えると、「いい男、いい女って何?」ではないけれど、この人類にとっても「安定と変異」のバランス(男と女の役割)を乱せば滅びるし、また、旧観念に支配されて思考停止し、場の変化に対応して変異できなければやはり滅びる・・・と、この摂理は現在の人類の適応様式を考える上でも重要なポイントであると感じました。
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Unknown (のだおじさん)
2007-08-04 17:37:55
生殖細胞が安定、体細胞が変異を担い、変異はタンパク質で実現しているというのは、なるほどでした。

ところで、何故それが2倍体真核生物だったの?
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減数分裂の獲得!? (ニシヒデ)
2007-08-05 03:20:14
のだおじさんの疑問に対しては、二倍体化によって減数分裂を獲得したことで、細胞の役割分化が可能になった=多細胞生物化が可能になったという理解でよろしいでしょうか?
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