【筋肉地獄】お掃除をしにきました(1)
路地裏のゴミ捨て場付近にて。
男達の目の前に、一人の少女が立っていた。
小さな体躯。
背には赤いランドセル。
大人しそうな眼鏡の少女が、ゆっくりと口を開く。
「指令により、お掃除をしにきました」
【筋肉地獄】お掃除をしにきました(2)
混乱する男達の目の前で、少女は両腕を左右に広げ、水平に伸ばす。
そしてゆっくりと曲げ始め、同時に力を込める。
か細い少女の腕に、変化が起こる。
棒切れのようだったその腕が、急激な速度で逞しい筋肉により覆われていく。
少女の皮膚の内側からせり上がる筋繊維は、まるで生き物のように蠢き、膨らんでいく。
巨大な岩のような力こぶが、二の腕に出現する。
Tシャツの肩口はパンパンに張り詰め、いまにもはち切れそうだ。
絶句する男達の顔をじっと見つめながら、少女は告げた。
「それでは、始めます……」
【筋肉地獄】お掃除をしにきました(3)
少女は男の一人の首根っこを掴み、問答無用で手前へと引っ張る。
男にとって、少女の腕力は到底抗えるものではなかった。
あっさりと少女の逞しい腕に捕らえられ、首を締め上げられる。
「こ、このッ!」
もう一人の男が、少女を引き剥がそうと詰め寄った。
少女の肩を掴んで引く。
少女の腕の隙間に手をねじ込み、こじ開けようと尽力する。
少女の足を持ち上げようと踏ん張る。
だが、少女の体勢は全く崩れず、仲間の男を締め上げる腕は外れる気配が無い。
絶望的なほどに、両者の筋力が違いすぎる。
少女にとってみれば、子猫がじゃれついているようにしか感じていないのだろう。
とうとう男は拳を握り締め、無謀にも少女の顔面めがけて振り下ろそうとした。
その瞬間。
ゴッ!
男よりも数段上の速度で少女の右腕が伸び、硬く握られた拳が男の腹部を貫いた。
男は口から涎を撒き散らし、背を丸めながら後方の壁へと激突した。
【筋肉地獄】お掃除をしにきました(4)
少女は壁際で腹を押さえてうずくまる男を持ち上げ、金属製のゴミバケツへと投げ捨てた。
ガシャンッ!
大きな音を立てて、男の上半身がゴミバケツの中に消え、だらりと足だけが垂れ下がる。
「お掃除……しないと」
少女は小声で"指令"を呟きながら、残った男の後頭部に手を添える。
髪を掴み、地面に転がっているゴミ袋に男の顔を擦り付ける。
ゴミ捨て場で、ゴミ袋にキスを強制させられる男。
しかも、自分よりも遥かに年下の少女に。
それは耐え難い屈辱だった。
「……ッ!……ッ!」
息ができない。
男は必死に少女の手から逃れようとする。
腕を掴む。足を振る。首を動かす。
圧倒的な少女の暴力に、決して報われることの無い努力を、滑稽なまでに繰り返す。
「…お掃除、……お掃除」
少女はそんな男の姿を完全に無視し、感情の無い声で"指令"を何度も口ずさんでいた。
男が動かなくなるその時まで、ずっと……。