SAKI'S BLOG

漫画家naked ape
原作屋・咲木音穂の日々戯れ言

永眠

2006年01月23日 | days
仕事場に寄ると、事態は予想よりも早く動いていた。
私が来るほんの数分前に、中村とアシスタントの山根さんが「葉音」を病院に迎えにいったというのだ。
入院中だった葉音の自発呼吸が難しくなり、酸素マスクを付ける事でなんとか生きている状態だと連絡を受け、今こそ、ずっと帰りたがっていたオウチに連れて帰ってあげるべきだ、最後を自宅で看取ってあげるげきだという判断をしたらしい。

「移動中に亡くなってしまうかもしれない」という、担当医師の言葉を裏切って、葉音はちゃんとお家に帰って来た。
抱かれ心地が悪かったのか、慣れた家の気配に意識を戻したのか、移動中意識を失っていたという葉音は、包まれたお布団の中で少しじたばたと暴れながら玄関に入って来た。
すぐにテーブルの上を片付け、ぐったりと丸いクッションの上で横たわる葉音をそっと置いた。
皆で、体温が下がらない様にと暖かい毛布やタオルをかけ、周りにホッカイロを置いた。
そんな行為が、どれだけ彼の延命につながるかなど、どうでも良かった。
苦しそうな葉音を少しでも楽にしてやりたいという、その時出来る精一杯だった。

「はのん、はのん」
皆、体や頭を撫でながら、生きようと必死で短い呼吸を続ける葉音をただ見守るしか無かった。
目の色は濁り、既に見えていない様だった。
呼びかけには反応せず、ただ、ただ、浅い呼吸を短く繰り返していた。
時折、急に渾身の力で立ち上がると、フラフラとしたおぼつかない足でベッドから出て行こうとした。
「はのん、どうしたの?寝返り打ちたいの?」
今にも倒れそうな葉音を支える為に慌ててお腹を抱くと、不愉快なのか体をよじって嫌がった。
「そうか、お腹、嫌か」
苦笑いしながら、少しでも楽に呼吸の出来る形で彼をまたベッドに横たえた。
元気だった頃の葉音は、決まってお腹を触ると怒る猫だったのだ。
そんな意識が、少なくともまだあるという事に、ほんの少しの希望を感じた。

急な知らせを聞いたスタッフも後からかけつけ、中村と私を含む総勢6人は、仕事も手につかず、じっと葉音の体を撫で、名前を呼び、暖め、見守った。
一時的に呼吸が楽になった後、また次第に呼吸は小刻みになっていく。
「はのん、はのん…」

小さくはのんが鳴いた。
渾身の力で呼吸をしよう、心臓を動かそうと、彼はお腹からぐっと空気を押し出し、鳴いたのだ。
それが彼の死ぬ事への最後の抗い。
彼は最後の最後まで生きようと呼吸を続けようとしているのだ。
別れが近いのは明瞭だった。
死との壮絶な戦いを前に苦しむ葉音を、ただ私達は呼び続け、撫で、見守る事しか出来ない。

…急に、葉音の呼吸が静かになった。
体中の力が抜け、ぐったりと、生きる反応全てを止めてしまった。
体はまだ暖かい。
本当に心臓は止まってしまったのか?
確かめる様に中村と何度も葉音のお腹を触ったが、涙に脈打つ自分の手の感覚が大き過ぎて、葉音の小さな心臓の音を確認出来ない。
「(心臓の)音がわかんないや…」
まだ生きているんじゃないか?
そう疑ってずっと葉音のお腹をさすり続けた。
しかしもう、彼はお腹を触っても怒る事は無い…。

「よく頑張ったね。偉かったね。ちゃんとお家に帰って来れてよかったね」

閉店間際の花屋で、大きな花束を注文した。
スタッフが花を買って来てくれた。
枕元に美味しい餌と、お水を入れてあげた。
寒くない様に、寂しくない様にと、中村のニットをあげた。
みんなで何度も何度も撫で、生きようと最後の最後まで頑張った彼をねぎらった。
柩に、大きな花束のお花を一杯切ってみんなで入れて、お別れした。
みんな泣き過ぎて疲れてしまったけれど、ちゃんとお別れ出来た。

約一年前に急逝した怜耶の、一日前に飼い始めた私達の「一番最初の猫」だった。
体が弱くて、気分屋で、寂しがりやのおっとりした可愛い猫だった。
あまりにも寂しいと鳴いてしまうのでちょっと心配だけど、構いたがりの怜耶がきっと側に来てくれるので大丈夫なはずだ。

葉音はさっきまでの肉体の苦痛から解放されて、今は凄く身軽になれたのだと思い直した。
今まで生きてくれて本当に有り難う。

雪景色

2006年01月21日 | days
ブーツで踏み出した一歩が、見事に雪に吸い込まれる。
よりにもよって、外出の日に…。

本日は仕事場で飼っている猫・葉音の面会に。
実は数日前、体調が悪化して既に入院5日目。
もともと体が小さく、決して強い子では無かったため、いつかはこの様な日がくるのではと、不安は常にありました。

検査の結果、生まれつき腰の骨が一本少なかったため、腎臓が小さく、当然機能も弱いとの事。
他の猫達に比べて寒がりで、凄く沢山水分を取る猫だとは思っていましたが、それがよもや小さな腎臓を補うための行為であったなどと、知る由もありませんでした。

沢山の動物達が思い思いに過ごしている檻の中で、一つだけ無菌室の様に透明厚手のビニールで入り口を塞がれた檻、それが葉音の病室。
ぐったりと横たわっている葉音の姿がビニール越しに見えました。
体には、点滴の管。
腎臓機能が衰えている為、血中のナトリウム濃度を下げる為にブドウ糖を注入すると、今度は血糖値が上がってしまう…。
ただひたすら慎重に慎重に点滴をしていくしか、現時点で施せる治療が見つからないと、医師の説明が空しく背中越しに聞こえて来ました。

「はのん」
と、ビニールを開け、呼びかけると顔だけを上げ、濁った目でこちらをじっと見つめ、撫でると目を細め、また元の様にぐったりと頭を落としていきました。
雪に冷えきってしまった私の手の温度の方が幾分暖かいと感じられる程、葉音の体温は低く感じられるものでした。
毛艶はすっかり悪くなり、やせこけた体は、死を連想させるのに十分過ぎる程の現実でした。

一番元気だった怜耶という猫が急逝してまだ1年足らずだというのに、ほぼ同時に飼い始めたこの子まで逝ってしまうんだろうか…。
いや、この子はまだ確かに生きている。
しんどい思いをしながら、ギリギリのところで踏ん張っているのだ。
なのに、飼い主が諦めてしまってどうする?
しかし、そんな辛い思いをさせてまで延命措置を続ける事に、意味があるのだろうか…?
生かしていることは、飼い主のエゴではないだろうか?
慣れたお家で最後を静かに診てあげる事と、ココで死なせることは、この子にとってどちらがいいんだろうか?

この子がこれからも「生き続ける」という前提でまだ私が考えていたいのは、現実逃避なのかもしれない。
しかし今は、生きようとしているこの子の前で、諦めるのは止めよう。
彼が一日でも長く生きられる様、病院に託してあとにしました。

花ケーキ

2006年01月15日 | days
「Fleuronne(フルローネ)」のケーキをおやつに頂く。
naked apeの職場では、アシスタントさん用にいつでも自由に食べる事が出来るお菓子の買い置きの他、毎日日替わりでスイーツを買って、おやつ休憩を取る様にしているんです(笑)
本日は以前から気になっていた吉祥寺ロンロン内の「フルローネ」のケーキ。

ここのケーキの素敵なところは、全てのケーキやクッキーが、花をイメージして作られている所です。
モンブランは薔薇の花びらの様に綺麗にクリームがデコレーションされていて、食べるのが勿体無い感じです。
品のいい甘さがバランス良く、絶品。
テーブルの上に沢山の花が飾られているみたいで、贈り物にもいいカモ。
今度は別のケーキにも挑戦してみます。
修羅場中の癒しのヒトトキ。

キモイチゴ

2006年01月13日 | days
猛烈にイチゴが食べたくなって購入。
あれってたまにパックの2段目が痛んでる事、ありませんか?
なので、出来るだけひっくりかえして裏側も腐ってないかチェックしたりする様にしてます。
だから絶対今日のイチゴは痛んでない良品だって自信があったんですけど…。

一段目を美味しく頂きまして、イザ2段目って時に、どうも妙な形のものが見えるんですよ。
なんかこう…二股的な…?
ちょっとイチゴっぽくない造形の…?

ナンジャコリャー!!
下段6個の内、3個、歪な二股イチゴ。
確かに痛んでないけどさ。イチゴのフォルムとしてどうだ…?
普通一つしかないキュッと尖った部分が2つ適当な感じであるって、こんなしまりのないイチゴって…!
この二股イチゴめ。
本命だけにしとけっての!

「3個って…」と、あまりの多さに愕然として、思わず写メって仕事場に転送。
そしたら
「ひっくり帰したら猫じゃん。かわいいじゃん」と言われる。
ええ~、そんな前向きな…と思いつつ、目とか入れてみるとちょっと可愛かったからいっか~ってなる。
物事は多面的に捕らえると、不快にも愉快にもなれるのだと感心したキモイチゴ事件。

ソフトタッチ

2006年01月11日 | days
人生初、ジェルネイルにチャレンジする。
ジェルネイルとは、ジェル状のアクリル樹脂の一種を使った人工爪の事です。
自爪が弱く、せいぜい1、2ミリ伸ばしたらすぐに割れたり、ヒビが入ったりしていたため、爪の保護と強化を兼ねての決断でした。
月に一度まつげパーマをお願いしているサロンで、たまたまやっていた事を思い出し、まつげのついでにお申し込み。

気持ちのいいリクライニングチェアの上で目を閉じて、まつげパーマと同時進行でネイルも開始。
時間の殆どはまつげのために目を閉じていたので、その行程を見る事は出来なかったのですが、開けた時には全ての爪の上に、少し長めの人工爪がくっついていて驚愕。
ジェルネイルのジェルは、爪の上にのせ、紫外線を当てる事で化学反応を起こして硬化していくのですが、その際、むき出しの自爪の上での化学反応が熱を生み、途中「アチッ」という事が何度かありました…(苦笑)
個々の爪の薄さ等にもよるのでしょうが、皆様もチャレンジの際には担当の方に十分に御相談された方がよろしいかと。

さて、多少歪な出来っぱなしの人工爪を今度は私の爪や指に合わせてヤスリでガンガン整形していきます。
仕上げにきれいなラメピンクを塗って頂いて完成。

パッと見、自爪との差が殆ど分からない程、ナチュラルに綺麗に出来上がりました。
凄い~!
数週間に一度のメンテナンスをすれば、いい状態が保てるとの事。
スカルプとは異なって、自分でネイルカラーを何度も塗り直す事が出来るのも魅力的。
ただ、人工爪がはがれたり割れたりしない様、細心の注意を払いながらの生活は必須であるため、パソコン作業等のガンガン爪先を使う際には手袋ガードしております。
今までの爪の便利さ、サラバ…。
缶ジュースだって指の腹で開けるしかない…!
なんでもかんでも指の腹でそっと掴むようにしなければならない…!
ああ、結構メンドクセー!…とは思うのですが、そんな指先に神経を払い、いろんなものにソフトタッチな今日この頃。
そんな拘束された仕種も、それはそれでなんだか女の子っぽくていいかもしれないと、前向きに考えたりする次第です。

新年

2006年01月05日 | days
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
本年もnaked apeの作品、及び当サイトをご愛顧頂ければ幸いです。

しかし、年が明けた実感があまりありません…。
テレビではそれらしい特番が組まれているぐらいしか取り立てて変わった事は無くて、店だって早々に開いちゃってるし、コンビニは年中無休だし。
年末だから、年始だからという何かは、年を追えば追う程薄れている様な気がします。
でも古畑は毎日頑張って観ています。

そういえば昨晩、ぐったりと眠りについてすぐ、深夜4時過ぎ。
子供の泣き声で目を醒ましました。
家の外に放り出されたのか、大きな泣き声が外から聞こえて来るのです。
私の布団にもぐりこんで寝ていたウルが驚いて、シュバッと走り出て行きました…。
あまりに泣き声が続くので心配で、耳を立てて固まっていると、気がつきました。
「なんか泣き声おかしくないか…?」

答えはすぐに分かりました。
シャーッという独特の息声を発したかと思うと、バタバタとどこかで小さなモノがぶつかりあい、唸る声。
なんと、喧嘩している猫の声でした…。
答えが分かって一安心。
子供の泣き声と猫の威嚇の声、よく似ているな、などと感心しながら眠りについた次第です。
どおりで好奇心旺盛のウルが走り出て行く訳だ…。