マロリーな日日(にちにち)

癒し系ソフト・ボトルメールの作者が、ガツガツ派では見えないゴロゴロ視点で、ビジネスの世界を観察していきます。

新規事業のストライクゾーンと成長のジレンマ

2005-07-23 02:32:43 | 新規事業
新規事業構築のお手伝いをさせていただくことが多い。
私の場合、まっさきに確認させていだくことは次の3つである。
 1.担当者・担当チームの興味、志向、モチベーション
 2.企業文化
 3.会社が期待する新規事業のストライクゾーン

1.2.については別の機会に改めて話すことにして、今日は3.のストライクゾーンについて。

当たり前のことだが、いくつもの企業をお手伝いしていると、各社にはそれぞれ固有の成功イメージを不文律として持っている。
それぞれの企業が持つ、成功や失敗の歴史の中で、新規事業の成功イメージは、暗黙のうちに社員、とくに決裁者である役員の中に漠然とできあがっています。

たとえば、リクルート社の場合、
 ・売上げは数百億以上
 ・3年度単期黒字
 ・利益率は30%はほしい
・・・といったような暗黙のストライクゾーンが存在しますが、別にこれは明文化されたルールでもなんでもありません。
過去、情報誌ビジネスで成功してきた「経験」がこれらの要素を是とするわけです。
当然、このストライクゾーンをはずした提案は、なにか特殊な目標がない限り、役員決裁の場には登場することはありません。

一般的に新規事業の売上げ目標は、現在の事業の10%程度と言われており、それより小さなビジネスは役員にはなかなか魅力的には映りません。でも、それはとてもよくわかりますし、きわめて良識的な判断です。
たとえば、売上げ4000億円の企業が、数年後に年商20億の商売を成功させたところで、嬉しくも何ともありません。
リクルート社は現在売上げ約4080億、従業員約5000人です。もし、この感覚で20億の事業を成功させても、24.5人の雇用しか生まないわけで、数年後にやっと「課」が1つ増えた程度の規模にしかならないというイメージです。

ですので、各企業には多様なストライクゾーンはあるのですが、この事業規模要素だけはだいたい一致しています。


さて、大企業のインターネットビジネスの取り組みに話を向けます。
現在の大企業がインターネットビジネスに成功した例はきわめてまれです。
たとえばソニー。CEOだった出井さんは、これからは「非連続の時代」とか、「インターネットは現代の巨大隕石で、それが落ちてきて、恐竜は滅亡する」と90年代後半には、きわめて慧眼な認識をしていました。
しかし、取り組んだインターネットビジネスのほとんどが実現されず、約200のプロジェクトが企画段階、`あるいはプロトタイプ運用のレベルまでで息絶えたそうです。
企画メンバーにやる気がなかったのか?
企画を評価できなかった上司がバカなのか?
いえいえ、天下のソニーでそういう要素はかなり低いでしょう。
少なくとも200ものプロジェクトがそろいもそろってボツになるという異常事態はありえません。

察するに私は、大企業ソニーが陥った、新規事業ストライクゾーンのジレンマがその最大原因ではなかったのではないかと思うのです。

現在、ソニー(グループ)は売上げ約7兆円(!)、従業員数15万人です。
IT系新規事業スタッフには、7兆円の10%、つまり5000~7000億円規模の無言の目標が課せられたのではないかと思うのです。
この数字を純粋なインターネットビジネスで稼ぎ出すのは、ほとんど不可能というか、あり得ねー状態であることは業界の方々であれば容易に理解できると思います。
かといって、7兆円の大ソニーで10億円のビジネスをチマチマやってどうする、というプレッシャーがかかるのは容易に想像がつきます。
ちなみに、ライブドアと楽天本体の売上げはおのおの、108億、210億円にすぎません。

クリステンセン氏の「イノベーションのジレンマ」と同様、新規事業の判断においても、経営としては合理的な判断をしているのだけれど、正しい選択をすればするほど、未来の可能性をつみ取っているともいえます。

ビジネス環境が激変し、時代が非連続となった今、新規事業の10%ルールの常識を否定する勇気とチャレンジが経営に求められているのではないかと考えています。

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5 コメント

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Unknown (かわた)
2005-08-10 01:23:59
どもお久しぶりです。暑中お見舞い申し上げます。 m(_ _)m

いやホント大企業経営って、むつかしいですね…※素人考えながら、その推察から思ったのですが、日本の大企業(メーカー)って、なんか未だに【右肩上がりの成長】に注視する傾向があるのでしょうか?

・ネットの旨味って利益率(中身の儲け)だと思うのですがねっ?既知でしょうがライブドアも楽天も、実のところ金融が柱なのですけど(笑)メーカーてしんどいですね。



例)ハウスくんは、レトルトカレーが柱?。その製造ラインをいかに活用するかが第一という傾向があったが…気がついたらレンジで珍する食品や健康食品の開発で、出遅れ感があったりもするような……→マーケティング畑の方が社長に就任。やっぱ【開発】を怠るとね…。

●要するに【機を見るに敏】であれ!

●太っ腹的に【新しい種】もまきまひょ!

●守りばかりじゃ「キリン」の二の舞い



◇でもカレーの製造ラインを守りたがるハウスくんの気持ちもわからんではないでつが

余談:確か「ポッキー」は世界で売るので「ポッキーの事業部」たけで100億超のビジネスらしいですね。
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Unknown (かわた)
2005-08-13 23:23:18
『新規事業』について今発売されてる週刊SPA!8/16・23日合併号に「社内プロジェクト失敗例」という特集記事が…。どうやら、やはり経営者とか上層部が「右肩上がり世代」っていう【致命的な問題】があるようで(笑)……『新規事業マトリックス』もそこに掲載されてますた。詳細は買って読んで下さいまし。 m(_ _)m
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撤退条件 (永井義人)
2005-08-15 16:09:26
かわたさん、ども。

Spa、読みました。情報ありがとうございます。

新規事業をはじめるときは、ぼくはいつも撤退条件を提示するのですが、他の企業はそういう当たり前のコミットをしないんですかね?

それとも、撤退条件は決めたけど、もう少しがんばれば、とずるずる追加投資しちゃうのでしょうか。このあたりはぼくも失敗例があり、よく気持ちはわかるのですが。

とまれ、失敗から学べばよいわけで、チャレンジが全くない企業よりはマシかなと思いました。
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Unknown (いもと)
2006-10-03 14:57:46
 永井さん、お久しぶりです。恐らく史上唯一、ボトルメール対応機能が搭載された携帯電話の開発者です。(※対応機能はありますが、紆余曲折の結果、サービスは提供に至りませんでした)。



 このブログは時々拝見しておりましたが、私自身ブログを持っていませんし、参入の機会がありませんでした。本筋とは少し関係ないかもしれませんが、コメントさせてください。



「ブログするハンドバッグ」がYahoo!「Hack Day」で最優秀賞に

http://tinyurl.com/qyngd



 10歩あるく毎に写真を撮って位置情報を付けて送るんだそうです。どこかで聞いたなあと、この記事を読んで永井さんを思い出しました。技術の進歩は我々の空想を現実にして見せてくれますが、これが新規事業化できるかというと難しいところですね。もう少し世の中景気がよくなって、採算性を問われない遊びを許容されるようになると、住みやすい世の中になるんですがね~。
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いもとさん! (永井義人)
2006-10-03 19:35:59
うわっ、すごいご無沙汰しております。

もしよろしければランチでも。

いもとさんの昔のアドレスはすでにドメインが存在していないようなので、恐縮ですが私にメールをいただきたく。<nagai*jken.net>です。

*の部分は@で置き換えください。

では!
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