もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ねねの日記・24 ・・・・・ おばあちゃんの一日  

2016-07-21 17:30:51 | E市での記憶
おばあちゃんは、いつも
ちょっとよごれたカッポウギつけて
家のあちこちで
なんかかんかしてる。

夏は、庭の畑のところで
ナスビとかキューリとか
トマトなんかの世話もする。

誰かに呼ばれたり
何か取りにいったりするとき
おばあちゃんは縁側を
さささっと走る。

「走ったらダメよ!」って
おかあちゃんに言われてるのに。

おばあちゃんは、ヒザが痛くて
この間、おとうちゃんに
「水をぬいて」もらったんだって。


アタシたちが一緒に住むようになるまで
この家には、レーゾーコも
センタッキもケーコートーも
電気ゴタツも電気ガマも
もしかして、水道のジャグチも
無かったと思う。

ほんとに。

アタシたちが引越ししてきて
電気屋さんが来て
ガス屋さんが来て
大工さんもたくさん来て・・・

ガチャガチャ手でこぐポンプが
ジャグチのついた「水道」になって
「マキのカマド」は「プロパンのコンロ」
茶の間の重たい火鉢のかわりに
赤い光の電気ゴタツ。

アタシたちが元々いた家の
白いレーゾーコと
手でくるくる回すとしぼれる
白いセンタッキも
おかあちゃんがおばあちゃんに
「こうすればいいから使って」。

ケーコートーはなかなか「つかない」けど
ものすごーく明るい。

おばあちゃんは、とっても
便利になったと思う。

でも・・・


おばあちゃんが毎日してることは
あんまりそーゆーのとは
関係なかったのかなあ。

おばあちゃんは、やっぱり
「一日中なんかかんかしてる」人のまま。

廊下の掃除なんかは
住み込みの看護婦さんたちも
手伝ってくれてたけど
細かいコトは大抵
おばあちゃんが一人でしてた。

アタシたちのご飯も
患者さんたちのご飯も
看護婦さんたちのご飯も
ぜ~んぶおばあちゃんが作ってた。


おばあちゃんが
「自分のコト」してるのって
アタシあんまり見たことない。

ミドリヤのおばちゃんと
お芝居とか映画とか
昔は行ってたみたいだったのに
アタシたちが来てからは
行けなくなっちゃったのかなあ。


一度だけ、アタシがテレビの前で
よくわからない昔のお芝居見てたら
通りかかったおあばちゃんが
「ミズタニヤエコやの」って。

「おばあちゃん、好きなん?」

「やっぱりミズタニヤエコが
いっちゃん、品があってええのう」

確かにきれいな人だけど
声はこんなにしゃがれてる・・・

するとおばあちゃんは
「声が玉にキズやけど、の」
だって。


そのときだけ、おばあちゃんは
最後までテレビのお芝居見てた。

まっすぐ前見て
黙ったままで。

アタシは退屈だったけど
他にしたいことなかったし
一緒に白黒のテレビ見てた。

お芝居の幕が下りてきたとき
おばあちゃんは、ハッとなって
夢からさめたみたいな顔した。

で、そそくさと立って
台所の方に行っちゃった。


おばあちゃんがタタミに座って
お昼間テレビ見てるのなんて
それより前も後も、全然見たことない。

あの頃のおばあちゃんは
一日中「お仕事」してる人だった。


アタシたちが、また引っ越して
おばあちゃんは、おじいちゃんと残って
そのあとおじいちゃんが
急に亡くなるまでのこと
アタシはなんにも知らない。

寝たり起きたりのおじいちゃんと
おばあちゃんは二人暮らし。

どんな一日だったのかなあ。

いっぺんくらい
聞いてみれば良かったのに
そんなことカケラも考えなかった。

アタシはアタシで
「自分のコト」に忙しくて
おばあちゃんのこと忘れてた。

それくらい自分が大事なのに
おばあちゃんはそうじゃなかったの?

もう一度会ったら、聞いてみたい。
おばあちゃん、なんて言うかなあ・・・





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ねねの日記・23 ・・・・・ おねえちゃんとリコさん

2016-07-17 22:37:22 | E市での記憶
リコさんは、おねえちゃんが
学校に行くようになって
初めてできたお友だちなんだって。

リコさんは、がっちりしてて
アタシやおねえちゃんみたいに
ヒヨヒヨしてない。

一度だけ、おねえちゃんが
リコさんのおうちに連れてってくれた。

リコさんのおうちは
そんなに遠くなかったけど
あんまり行ったことない方だった。

おかあさんは仕事に行ってて
「とうちゃんが寝てるから」って
3人で外で遊んだ。

帰りにちっちゃなお店にはいって
オコノミヤキ食べた。

ヨソで何か食べちゃいけないって
おかあちゃんに言われてたのに
お姉ちゃんがそう言っても
リコさんはずんずん平気だった。

リコさんは自分でさっさと焼いて
アタシは自分で焼けなくて
あとからお店の人が焼いてくれた。

それで帰るのが遅くなって
外はもう真っ暗で
おねえちゃんと一緒だったけど
あたしは怖くて泣きそうだった。

おかあちゃんになんていって
怒られたか、覚えてない。

お金どうやって払ったのかも。
リコさんが払ってくれたのかなあ。


おねえちゃんが3年生になると
リコさんは遊びに来なくなった。

「組が違うようになった」って
おねえちゃんが言った。

それからはリコさんのこと
アタシはあんまりよく知らない。


ある日、おねえちゃんが
おかあちゃんの前で泣いてた。

「なんで行ったげてくれんかったん」

「なんでって・・・」って
おかあちゃんは困ってた。

「リコさんのおかあさん
具合が悪かったのに
リコさん、電話したのに
往診に来てくれんかったって」

おかあちゃんは眉ひそめて

「『かあちゃんオナカ痛い』って
夜中に電話かかってきただけで
そんな大事だとは思えなかったんよ。
朝まで待てそう?って聞いても
うん・・・って言うし」

おねえちゃんは泣きやまない。

「でも・・・でも・・・
あたしの友達のとこなのに」

「そんなこと言ったって」

おかあちゃんはタタミに
坐りなおして

「あのね、リコさんのおかあさんは
胸が痛いって言いたかったんだけど
声が出なくて、リコさんが
おなか痛い?って聞くから
その『痛い』ってとこだけに
『うん』って言ったのね」

おかあちゃんは空中を見ている目で
「おなか痛いっていうだけでは
こちらはわからんのよ。
とにかく大変だから来てくれって
言われたらまだしも」

おねえちゃんは
何も言わなくなった。

でも、全然納得してなかったと思う。


リコさんのおかあさんは
朝には亡くなったみたい。

リコさんはおとうさんと
どこかへ引っ越していなくなった。


ずっとずっと後になって
アタシたちも引っ越してしまってから
中学を卒業したリコさんが
「京都のお茶屋さんに就職する」って
おねえちゃんから聞いた。

おねえちゃんは
あんまり言わなかったけど
リコさんとはずっと
おつき合いが続いたらしい。

お茶屋さんに10年くらい勤めた後で
一度うちに遊びに来てくれた。

うちの両親とも普通に話し
居間でみんなでお茶を飲んだ後
挨拶して帰っていった。

大人になったリコさんは
頼りになりそうな女の人だった。

わたしの覚えてるリコさんと
それでもどこか似て見えた。







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