もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ねねの日記⑳ ・・・ 春が来た!

2016-03-16 14:59:45 | E市での記憶
おばあちゃんたちは、いつも
冬は2月が「いっちゃん寒い」って言う。

アタシたちはこどもだから
雪が降ったら、あとはずうっと
ずっとずっと、寒いまんま。

オトナはちょっと
違うのかなあ。

でも、3月になると
道ばたとか庭とかの雪は
だんだんキタナくなってくる。

なんだか雪が、土に
負けそうになってる感じ。

ときどき新しい雪が降っても
前みたいにキレイには
もうならない。


この前、おねえちゃんと
アカネ川まで遊びにいった。

アカネ川は、カメヤマの向こうがわ。
うちから一番近い川だ。

まだあちこち雪が残ってる。

アタシたちも、アノラック着て
長ぐつはいてる。

でも、お天気がよくて
青空にわた雲が浮かんでて・・・


そのとき、ふわっと
風が吹いた。

わっ!と思った。
みどりっぽいニオイがする!!

大急ぎで「ねえねえ、今ねえ」って
お姉ちゃんに言いかけたら
おねえちゃんも、おっきな眼で

「みどりの匂い・・・したよねえ」って。


なんか、すごーく嬉しくて
アタシもおねえちゃんも
かけっこみたいに走った。

息が切れてもスキップした。


土手のさくら並木は、全然
つぼみが見えなかったし
つくしもスギナもザッソウも
なあんにもなかったのに。

「みどり」って
どこにあったんだろ。

おねえちゃんは
「あれって春の匂いだよね」って。


うちに帰ってみたら
診察場の窓のそとにできてたツララが
ずいぶんちっちゃくなってた。

ツララの先っぽから
ポチョンポチョン落ちる水とか
キタナくなった庭の雪とかって
アタシはあんまり好きじゃない。

なあんとなくツマラナイ気がする。

「みどりのニオイ」「春の匂い」も
ちょっとヘンなにおいだった。

それなのに・・・

「春」は春ってだけで、もう大笑いして
その辺走りまわりたくなるモンだった。

あのとき、おねえちゃんもアタシも
ちょっとヘンになってたのかも。

匂いだけで「ヘンになっちゃう」ような
モンなのかなあ。

春って。




コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする