眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

『私の少女』

2015-10-26 18:28:19 | 映画・本

1ヶ月以上も前に観た韓国映画だけれど、観る前も観た後も、その映画のチラシを机に置いて、時々眺めている。ポスターをそのまま小さくしたようなチラシ(表側)には、主演の2人の女優さんの「顔」だけが映っている。本当にそれだけなのだけれど、映画のテーマそのもののような写真に見えて、目に入ると手に取らずにはいられなくなるのだ。

繊細な顔立ちの女性(ぺ・ドゥナ)の方は、「ソウルから(左遷されて)赴任してきた」若い派出所長。切りそろえた前髪の奥から強い視線を送ってくるもう一人(キム・セロン)は、赴任先の海辺の村で出会った14歳の少女・・・

少女は血の繋がりのない父親と、彼の母親である老女から、日常的に暴力を振るわれている。実の母親は少女を残して、家を出て行ってしまった。少女は(当然のように)同年代からも苛められるが、言い返すことも出来ない。少女の境遇に偶然気づいた派出所長は、少女の力になろうとするが、老人ばかりの小さな漁村で、若く社会的には力のある少女の父親は、表立って批判されることはなく、少女への暴力も、周囲から見て見ぬふりをされている。それでも、夏休みの間だけでも・・・と、派出所長は少女を引き取り、一緒に暮らし始めるのだが・・・

と、ここまでだと、身寄りのない少女の虐待がテーマみたいに見えてしまうのに気づいて、ちょっと困っている。この映画のテーマは、もっと深いものだと思うから。

しかも「海辺の小さな村」には、排他的な村社会のルール?と同時に、今の世の中の歪み・しわ寄せもあって、観ていてあまりにも「よくわかる」?というか、そのどうにもならなさ、誤解を解くことの困難さに、私は胸が詰まった。

若い女性である派出所長にも、表立っては言えない事情があり、それが「左遷」の理由になっている。けれどそれ以上に、彼女が抱えているもっともっと深いところでの「傷」の気配の方が、私は観ている間ずっと気になった。

なぜ彼女は毎晩、一人であの「水」を飲むのか。対外的に隠そうとしている・・・というよりは、飲んでいるものは単なる「水」だと、自分自身が思いたがっているかのよう。毎夜繰り返される儀式のようなその光景からは、彼女の育った環境が透けて見えるような気がした。自分は親のようには絶対ならない・・・そう思い定めてきたのに・・・とでもいうような。

タイトルの『私の少女』は、「私(派出所長)」の「少女(虐待されている村の少女)」のように見える。でも、私はちょっと違う受け取り方をした。

所長はあの少女の中に、かつての自分の姿を見たんじゃないかと。『私の少女』は「私の中の少女」でもあるんじゃないかと。酔って暴力を振るう親を見ながら育った・・・というような経験が、私は所長の中にあるような気がしてならなかったのだと思う。

この映画は、たとえば『息もできない』や『ポエトリー アグネスの詩』を観たときに感じたような、「韓国」という国の土台にある何か(精神的な風土とでもいうようなもの)の、ある種ダークな側面を垣間見させてくれているのだと思う。社会派ドラマというなら、そういう言い方もできるかもしれない。

ただ、同じようにアルコールの害、子どもや女性、或いは外国人に対する差別や虐待を描いても、日本と韓国とでは土台・背景が違うから、勝手な思い込みで解釈したら間違うのかも・・・そんなことを、私はいつも感じる。たとえば、少女の継父は村の大人の目からは、「血も繋がっていないのに引き取って学校に行かせてる」というだけでも、「悪い父親」ではないのだ。(少なくとも「血縁」ということについては、今の日本は昔ほど、それを重視していないようにも見えるのだけれど、それはあくまで「都会の話」なんだろうか)

それでも・・・ちょっとしたミステリーというかサスペンス風味もあるように作られているので、重い内容ではあるけれど、エンタテインメントにもなっていると思う。

何より、2人の女優さんの役柄の把握の正確さとその表現力に、毎度のコトながら目を瞠った。ペ・ドゥナは元々大好きな女優さんだけど、キム・セロンの演技力に、私はいつも驚かされる。(『冬の小鳥』『アジョシ』の頃から、私はこの人は「子役」じゃなくて「俳優」だと思っている)


扱っているテーマについて感想を書こうとすると、今の私の手には余る(つまり永遠に書けない)のが判っているので、最初からアキラメテ書き始めた感想だけれど、それでも書いて良かった・・・と、ちょっとホッとしている。何でもいいから、ほんのちょっとでも思ったことを書いておきたい・・・私にとっては、そんな風に思わせられるような、琴線に触れる?映画だったのだと思う。


 

 


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8 コメント

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Unknown (はにわ)
2015-10-27 17:00:03
久しぶりの更新ですね。
静かに印象を書いているだけなのに、不思議と見てみたいなあって思いました。
「ほんのちょっとでも思ったことを書いておきたい」文章って、独特の魅力があります(笑)
更新楽しみにしています。
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「韓国映画」の奥の深さ・・・ (ムーマ)
2015-10-28 10:08:24
>はにわさ~ん(^^)

『私の少女』は、はにわさんが見たら何て言うかな~って思うような映画でした。
描かれているのは、おそらく今でも(特に田舎では)変わらない
韓国の「血縁を重視する社会」つまり「家父長制度」と女性差別・・・
そういう事柄だったと(私の目には)見えたので。
でもDVDとかだと、画面が暗くて良さが伝わらないかも。
なので敢てオススメはしません(^^;

あ、全然関係ない話なんですが
昨日シネコンで『バクマン』観てきました。
こっちは、はにわさんにオススメでしたよ~(^^)。
私は原作漫画を知らなかったので、余計に面白かったのかもしれませんが
帰宅したらその原作の総集編が積んであったので
今から読もうと思っています・・・って
ほんと関係ない話でゴメンナサイ。

書き込んでくださったのが嬉しくて。
どうもありがとうございました!(^^)
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バクマン見ました! (はにわ)
2015-11-08 23:28:29
さすが、ムーマさん!
おすすめ通り、私の好み、ど真ん中ストライクの映画でした。テンポのいい話の展開で。好きな俳優さんばっかり出ていて、ほんとおもしろかったです~~。
観客には小学生の男の子達が多くて、みんなポップコーンとコーラを持って熱心にみているの。可愛かったですよ。
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わ~観に行って下さったんだ~(^^) (ムーマ)
2015-11-09 10:15:28
面白かったって聞いて嬉しいですぅ(^^)
若い俳優さんたち、良かったよね~(拍手)。
私なんて、佐藤健サンの名前と顔が初めて一致したレベルなんですが
ラスト近くで涙がツツツ・・・っていうのに
もう感動してしまいました(マジ)。
はにわさんも面白かった映画があったら(TVでもいいので)
教えて下さいね~(^^)。
書き込んで下さって、どうもありがと~~。
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怖そうです (更年期)
2015-11-19 11:25:08
お久しぶりです。ムーマさん^^
「私の少女」とっても興味のある映画です
ただ、私、観ず嫌いなのか?韓国映画を
1作位しか観た事がないのです。
韓国語がどうやら駄目みたいで、字幕を追っても
音が気になって内容が入って来なかったんです。
なので、この映画も観られるかな?って感じですが
内容的にはとっても観てみたい映画です。
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怖いといえばほんとに怖い・・・ (ムーマ)
2015-11-26 16:28:34
>更年期さ~ん

こちらこそご無沙汰してます。
おまけにレスが遅くて、ほんとゴメンナサイです(^^;

この映画は本当に、色々考えさせられる内容でした。
でも内容以前に、更年期さんの書いておられる
「韓国語がどうやら駄目みたいで、字幕を追っても
音が気になって内容が入って来なかった」
という言葉には、ハッとさせられました。
韓国語について、私も同じような経験があるのを思い出したんです。

私の場合は映画じゃなくて、家でたまたまドラマを観たとき一瞬感じたことなんですが
「「音」にジャマされて、字幕がアタマに入りにくい・・・」と。
「吹き替え」の方が観やすいかなあ・・・って
私としては珍しくも思いました。

というのも、私は当時、外国の映画もドラマも「字幕」で観ることが多く、それで不都合を感じないというか
とにかく俳優さんの生の声を聞きたいという気持ちの方が強くて、少々の不都合はガマンしちゃうというか・・・
で、あまり「吹き替え」は好きじゃなかったんです。
だから「韓国語」についてだけ?そのときそんな風に感じたのが不思議でした。

で、「そんなことないよね!」とばかりに
さっさと忘れちゃって・・・(^^;

だから、更年期さんの言葉に出会って
「やっぱり気のせいじゃなかったんだ・・・」と。

人間の視覚や聴覚って、微妙で不思議なものですね。
私はしばらくすると「音」に慣れて、観続けられるようになるんですが
更年期さんの方が、眼と耳がデリケートなんだと思います。

来て下さって、いいことを書き込んで下さって
本当にありがとうございました。(^^)
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報告とお礼に参上しました。 (ヤマ)
2015-12-12 08:17:02
ムーマさん、こんにちは。

 一昨日付けの拙サイトの更新で、こちらの頁をいつもの直リンクに拝借しております。

 本作の英題は『A Girl at My Door』というそうで、「私の(心の)扉にいる少女」ということなら、まさしくムーマさんがお書きの、「私の中の少女」でもあるんじゃないかということと重なって来そうに思います。

 少女もさることながら、ペ・ドゥナの演じた若き女性警視ヨンナムがとても気になる作品でしたね。

 どうもありがとうございました。
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ありがとうございます(^^) (ムーマ)
2015-12-14 15:51:02
>ヤマさ~ん

いつもありがとうございます(^^)。

>英題は『A Girl at My Door』
>「私の(心の)扉にいる少女」ということなら

そうだったんだ・・・
いいことを教えて頂きました。

女性警視と少女の「その後」を想像すると
私は「ムズカシイだろうな・・・」と思ってしまいますが、それでも
明るいモノを感じさせるラストになっていて嬉しかった作品でした。

どうもありがとうございました。
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