眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

『ソウル・キッチン』

2012-05-18 19:16:10 | 映画・本

長くなった「ひとこと感想」その19。

映画が始まった最初から、なぜか「相性の良さ」を感じた。物語は中盤、猥雑といっていいほどのドタバタ喜劇の様相を呈するのに、それでもその感覚は変わらなかった。

小さな舞台、小さな人間関係の中で描かれる物語だったからなのかなあ・・・。と言っても、ハンブルクはベルリンに次ぐ大都市で、外国人の人口に占める比率が高いドイツの中でも、国際色豊かと言われる街だ。「小さい」と感じるのは、主人公の経営する小さなレストラン「ソウル・キッチン」が主な舞台になっているせいなのだろう。

店の若きオーナー・シェフ(ジノス)は、冒頭からずっとツイテない。恋人は夢を叶えたいからと上海に行っちゃうし、税務署は溜まってる税金払え、別のお役所は不衛生だからこの設備じゃダメだ、その上自分は椎間板ヘルニアになって、身動きもままならない・・・という状態。

それでも酒飲みの天才シェフに出会ったを幸い、口説き落として雇うことに成功。素晴らしい料理で店は評判になる。仮出所してきた問題児の兄貴も、店のウェートレスに一目惚れして音楽を担当、店は大繁盛に。

ようやく先行きに光が見えてきた・・・筈だったのに、ジノスの場合、そうは問屋は下ろさない。土地を狙う不動産屋が現れて、店は早くも乗っ取りの危機!!!

チラシ片手にあらすじを書きながらも、よくもまあこれだけ悪運につきまとわれた主人公考えつくなあ・・・と、ちょっと感心してしまう。

でもこの映画で私が一番驚いたのは、そんな不運?な主人公が、身勝手な恋人も、どうしようもないトラブル・メーカーの兄貴も、タチの悪い元同級生(違うかな?)の悪徳不動産会社社長も、ついでに言うなら無銭飲食?のヘンな居候の爺さんも、とにかく最初から最後まで、「人間関係を切って捨てる」気が無いように見えたことだ。

主人公は、次々降りかかる災難に右往左往オロオロしながらも、決して決定的な清算を相手に迫らず、起きるアクシデントには自分の身体を張って?その解決に奔走する。

そして事態が二転三転した揚句・・・片付くべき所に一つ一つ、一人一人がハマって片付いていくのだから「人生は面白い。捨てたモンじゃないよね~。」。見終わった後は、ほんのしばらくにしろ「何があっても大丈夫! きっとなんとかなる!!」といった気分になれる。

この監督さん(トルコ系ドイツ人)の前作『そして、私たちは愛に帰る』は、ブレーメン、ハンブルクからイスタンブールに至る、「愛、死、悪」に関する真面目で深刻な作品だったけれど、この『ソウル・キッチン』は、同じく「愛」を描きながらも、徹頭徹尾コメディーのまま、それでも人間(という生き物)の繋がり、その温かさを目一杯感じさせる映画だった。






コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 大好きなおじさん ・・・・... | トップ | 『コンテイジョン』 »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
観ました (TOPO)
2012-05-19 18:27:17
mixiにイイネ!ありがとうございます。
いま『ソウル・キッチン』を観終わりました。
ドイツって多民族国家なんだって、改めて思いました。
ちょっと予定調和だったけど。
返信する
一体どこの話かと~(笑) (ムーマ)
2012-05-21 12:10:49
>TOPOさ~ん、ようこそ~。

>ドイツって多民族国家なんだって、改めて思いました。

私も、ヨーロッパって今はこういう状態なのかなあ・・・って思いながら観てました。

最後に居候?のおじいさんが活躍??しますね。あれに私はビックリしたので、予定調和より「お見事!」って、拍手したくなりました(笑)。
返信する

コメントを投稿

映画・本」カテゴリの最新記事