眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

『闇の列車、光の旅』   

2012-05-06 17:51:14 | 映画・本

長くなった「ひとこと感想」その10。(ネタバレです。)

「ここまで来ると、もう私なんかには正に異次元、別世界・・・。」そう感じる一方で、「でもこういう方向へ、日本ももう行き始めてる気がする。貧困や「格差」については、日本でも(この映画とは程度に大きな差はあっても)構造としては結局同じなんじゃないか・・・。」

そんな後味の悪さがいつまでも消えなかった。

ホンジュラスからグァテマラ、メキシコを通ってアメリカまで、貨物列車の屋根に坐って旅をする「不法移民」たち・・・現地の社会状況も、見ていると(少なくとも頭では)理解できるし、ストーリーとしては伏線が効いていて、よく練られた脚本だとも思う。屋根から見える風景も、彼らの旅の様子ももの珍しく、美しい映像は観る者の目を楽しませてくれて、映画としては最後まで「見飽きることがなかった」のに。

帰宅してから若い人とニュース見ていて「原発」の話になったとき、ふと観てきたばかりのこの映画が浮かんだ。福島原発の事故からまだ1ヶ月・・・という頃で、映画のあらすじを彼に話したところ、あっという間に話が通じた。

「・・・例えばホンジュラスに原発を輸出すれば、雇われた人は食べていけるようになるかもしれない。放射能なんかよりよっぽど怖い現実(貧困)を前にすると、いろんなコトが飛んでしまうのも当然だと思う。日本でも同じパターンで、原発は地方に建てられてきたんだし・・・。」などと友人は言う。私も、エイズに感染しながら売春をやめるわけにいかないという少女の「エイズで死ぬより、明日家族で餓死する方がこわい」という言葉を思い出したりした。

ギャングに憧れる男の子の気持ちも、命を賭けてでも国境を越えようとする大人たちの気持ちも、ワカラナイようでいてどこかでワカリかけている先進国?日本の自分たちとしては、この先一体どうしていったらいいんだろう・・・などと、互いに考え込んでしまったのを思い出す。

映画自体については、少女サイラの「私なんて、向こう(アメリカ)に行ってもどうせ邪魔者よ。」に対して、若いウィリーがあっさり、「稼いで妹たちを助けてやったらいい」というところが好きだった。日本もかつてそうだったけれど、貧困は逆に、自分の存在意義をこれほど明確にしてくれるものでもあるんだ・・・などと思った。(但し、「身体が丈夫」なことが大前提。もしも虚弱・病弱だったら、もうそれだけで「自分自身の存在意義」が見出しにくくなるということでもある。)

終盤、まだ年端のいかない少年が、親しかった友人に対してさほど迷わず引き金を引く場面がある。

彼はギャング団(そもそも大半10~20代?)に入る際、入団の条件としてに、「敵」に向けて撃つことを強制される。あの時震えながら一緒に撃った(撃つ「補助」をしてくれた)先輩を、今度は自分ひとりで撃つ。それは(ギャングとして)一人前になるということでもある。私などが何も言えなくなるような場面の、数ある中のひとつだ。それでも・・・

「初めて」と2度目はこれほど違うんだ・・・と私はなんだか辛かった。「一線を越える」というのは、こういうことなんだろうと思ってはいても。ついこの間まで、(気楽な異国の観客に過ぎない)私とも地続きにいた少年が、私とは「次元の違う別世界」に行ってしまった後、ほどなく映画は終わる。

(「映画」として見ることができる人には、よく出来た面白い作品だと思う。サンダンス映画祭で監督賞と撮影監督賞受賞とか。)


 

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6 コメント

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Unknown (更年期)
2012-05-06 20:01:35
若者の40%以上が非正規雇用の日本も、数年後には生きていく為に犯罪を犯す人間が恐ろしく増えるのではないかな?と懸念している矢先に、ムーマさんのこの感想文・・・考えさせられました
映画と言うのか?ドキュメントなのかな?
観る機会が欲しいです~
う~~ん 時間が欲しい
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観てみたいです (るる)
2012-05-06 22:56:54
考えさせられました。
ドキュメンタリーみたいな映画?
のほほんと生きている私とはかけ離れた世界。
でも現実なんですね。

これは観てみたいです。
近くだと、どこで上映しているのかなぁ。
なかなか上映している映画館まで行けないのが残念です。
返信する
フィクションです~ (ムーマ)
2012-05-07 00:54:56
>更年期さ~ん

今、自分でもう一度記事を読み返してみたら、まるでドキュメンタリーみたいな書き方ですね。

この映画は全くのフィクションなんですが、私はそこから向こうの現実がそのまま想像できるような気がして、ドキュメンタリーと同じような気分で観ていたんだと、更年期さんのコメントで初めて気がつきました。
(それはそれで危険?かも。気づかせて下さって感謝です。)

2010年に公開されて、DVDも出てるみたいです。
時間(と元気)があるときに、ご覧になれるといいですね。
返信する
フィクションなんですが・・・ (ムーマ)
2012-05-07 01:07:15
>るるさ~ん

観てる間、「現実」を見てるような気がしてました。
でも、もちろんドキュメンタリーではなくて、伏線がきちんと張られた練り上げられた脚本で、「物語」として面白い作品だと思います。

2010年公開とあるので、映画館で観るのはもう無理かもしれませんが、いつか元気があるときにDVDででもご覧になれるといいですね。
(「元気が足りないと凹む」タイプの映画ばっかり感想書いててゴメンナサイね。そのうち楽しいのも書きたいです(^o^)。)
返信する
報告とお礼です。 (ヤマ)
2012-09-22 06:44:10
ムーマさん、こんにちは。

ほぼ全く同じ観後感にいささか驚くと共に
改めてその思いを強くした作品でした。

拙日誌にも綴ったように、『シティ・オブ・ゴッド』を観たときには
そこまでの思いは触発されなかったのに、今やこうして
ごく近いところに同じようなことを想起する方がおいでるほど
顕著に悪化してきている状況があるということですよね。
最初に読んだ時は、本当に驚いた覚えがあります。

その貧困・格差対策をせずにガスを抜こうとするやり方が
いよいよ戦争に発展する可能性への懸念すら
あながち悲観的空想とも言えない状況になってきて
最近では、本作を観た頃より更に
時代的気分は危うくなっているような気がします。

どうもありがとうございました。
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ありがとうございます(^o^) (ムーマ)
2012-09-22 09:37:16
>ヤマさ~ん

今、ヤマさんの日誌をもう一度読んできました。
最後の段落の「野蛮な“弱肉強食”を「頑張った者が報われる」などという言葉で偽装してはならない」っていう言葉に感動したのを思い出しました。

私は所謂ニートが2人も身近にいるせいもあって、若い人たち(というか将来の日本全体の)「貧困」には、やや敏感なのかもしれません。
或いは、働きもせずにここまで自分が暮らしてこられたのは(上手く言えませんが)「富の片寄り」に依るもの・・・とでもいうような感覚が、元々あるからかもしれません。

>その貧困・格差対策をせずにガスを抜こうとするやり方が
>いよいよ戦争に発展する可能性への懸念すら
>あながち悲観的空想とも言えない状況になってきて

古今東西、戦争の背景にいつもあった「貧困」「格差」への対処の仕方・・・ヨーロッパ諸国、アメリカ、日本、はたまた最近の中国・・・過去やってきたこと、現在やってることが、私にはみんな同じに見えます。
いつまでたってもその繰り返しから人間は抜け出せない(抜けだそうなんて思わない?)のかと思うと、なんというか・・・悔しいです。

それにしても、最近は本当に「時代的気分は危うくなっている」と感じることがが増えましたね。
色々な形で情報は手に入る・・・と言われても、どれを信用していいのか、現実には(本当のところ)一体何が起きているのか、私などには判断するのが難しくなる一方です。

そういう意味では映画は、「自分が普通に暮らしてたらまず目にすることがない、でも確かに存在している現実」の一端を見せてくれる、私にとっては貴重な「窓」になっています。
この『闇の列車、光の旅』も、そういう1本だったと思います。
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