海外旅行と日常生活のオンラインエッセイ

海外での体験を基にしたエッセイをオンラインで執筆。
非日常としての旅。日常としての生活。
絵日記ではなく文章で勝負。

モロッコの日本人サーファー

2005-12-26 23:39:23 | 
モロッコのタンジェのレストランで中年の日本人に出会った。

レストランに入ると、一番奥の席に東洋人の中年男性が座っていた。
私はいつもの手前の席につこうとした。

「日本人でしょ。こっちに座りましょう」
馴れ馴れしい口調が気になったが、断る理由はなかった。

「観光ですか」
「ええ、まあ」と適当に答えた。
メニューの料理の説明をウェイターに尋ねながら、料理を選ぶ。
しばらく会話が途切れた。

「あなたも旅行ですか」
メニューを置いてから話かけた。
「サーフィンをしに来たんです」
モロッコには有名なサーフ・ポイントがあるらしい。
「サーフィンをやっているもの同士は気心がしれていいですよ」

彼は私について尋ねた。
仕事を辞めて、長期旅行をしていることを話した。

彼も仕事を辞めてきたらしい。
医療関係だと彼は言った。
「オリエンタル・カイロプラティックです」
「何です。それは」
彼はちょっと口ごもった。
「うーん、まあ、はっきりいっちゃうと"按摩"のことです。8年くらい前にここの青年海外協力隊でも教えていました」
英語でいえば、カッコよく聞こえると思ったのだろうか。

それにしても意外な話だった。
彼が協力隊員であったことではなく、"按摩"を教えていたことだ。
モロッコにそんな需要があるとは思えない。
派遣した協力隊の常識を疑った。

「一年ほどで、マリファナ所持で警察に捕まって、国外追放になったんですよ」
不道徳な内容とは反対に、くやしそうな顔だった。
「絶対、売人が懸賞金目当てにたれこんだんですよ。全くこっちのやつらはタチが悪い」
仕事そっちのけで、サーフィンとマリファナに耽溺していた罰ではないか。
そう思ったが、言わずにおいた。

青年海外協力隊は準国家公務員の扱いなので、観光・ビジネス用の一般旅券ではない。
公的旅券だ。

その特別なパスポートで犯罪を犯すと、大変らしい。
「外務省が意地悪して、一時旅券しか発行してくれないんですよ」
犯罪を犯した国に、問題なく入出国できることを証明できれば、次から一般旅券を発行してもらえる。
彼はそう説明した。
「こうして入国できたし、あさって出国できれば、これでチャラですよ」
とても嬉しそうだ。

食事を終えて、支払いをした。
私はチップをおいた。
「ダメダメ、そんなことしちゃ馬鹿にされる」
旅行初心者扱いの口調に、むっとした。

明日スペインに出国する私には、モロッコのお金はもう必要ない。
よくわからないモロッコ料理を、英語で詳しく説明してくれたウェイターへのお礼の意味もあった。

わざわざチップをつかんで手渡す彼を、じっと見つめた。

サーファーが何かの間違いで青年海外協力隊員となり、モロッコで"按摩"を教えた。
その成れの果てが目の前にいた。


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