monoろぐ

古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

空木(うつほぎ)

2021年07月15日 | 日本古典文学

ふるえたの-ふしのみのこる-うつほきの-たてるもさひし-はたのやけやま 
(新撰和歌六帖-信実~日文研HPより)

閑居木
身をかくす宿ともたのむうつほ木のむなし心をはらふ山かせ
(草根集~日文研HPより)

寄木恋
いかにせんをのへにたてるうつほ木のあな恋しともいふ方のなき
(宝治百首-真観~日文研HPより)

冬見獣
冬こもりすむうつほ木も下折れて雪野にしるきくまそ出行く
(草根集~日文研HPより)

冬動物
うつほ木を立出ててあさるあら熊もみ山の雪に身やかくすらん
(草根集~日文研HPより)

 月のはつかにかすむ夕ぐれ
熊の住む空木ながら花さきて
(菟玖波集抄-救濟法師~岩波・日本古典文学大系「連歌集」)

不思議やな朽たる華の空木(うつほぎ)より、白髪の老人顕(あらは)れて、(略)
(謡曲「西行桜」~岩波・新日本古典文学大系「謡曲百番」)


おもへば水の

2021年04月29日 | 日本古典文学

 「夜の鶴」に出てくる「おもへば水の」という句の古歌は見つからない、というふうに講談社学術文庫『十六夜日記・夜の鶴』(森本元子、昭和54年、196p)に書いてありますが、伊勢物語が出典だと思います。男の訪れが無く物思いをする女が、手洗いのたらいの水に映った自分の姿を見て詠んだ歌。

 わればかりもの思ふ人はまたもあらじと思へば水の下にもありけり「伊勢物語(新編日本古典文学全集)」


「日本古典文学」のカテゴリーに天象・坤儀、禽獣、草樹、人事を新設

2021年02月12日 | 日本古典文学

 今まで季節表現に限定して古文用例を集めてきましたが、季節に関係ない事物もテーマごとに文例を集めていこうと思います。
 テーマというと、天文・気象、植物・動物、生活、学芸、言語、宗教、地名など。ですが、古語で集めるので、分類も古文っぽくしてみようと思います。

  天象・坤儀、禽獣魚虫・草樹、人事。

 「人事」部は、「ひと」に関してなので、人体語彙から始まって人間関係や、行動、感情、感覚など広い範囲なので、更に細別することになるでしょう。
 地名に関しては、すでに市販の歌枕辞典的な書籍はいろいろあるので今さらなのですが、摂津国とか出雲国とか国別に集めてみたいので、一覧だけは作りたいです。
 説話・伝承に関しても、和歌題材になってるので、集めるつもりです。
 仏教用語は勉強しないと駄目ですね。

 季節感のある事物はすでに集めたので、季節感のないものを集めていこうと思います。年代としていつまでかというのは、江戸時代は含まず、室町時代までにするつもりです。
 和歌以外も散文も収集。ツールとして「ジャパンナレッジ」とか有料サービスを使うという手もあるのですが、とりあえず地道に今までどおり、図書館も活用しながら収集・分類していきたいです。最近購入した「いろは順歌語辞典―有賀長伯『和歌八重垣』―」(三村晃、和泉書院、2018年)には、自分が知らなかった語彙がいろいろ載ってるので、活用するつもり。
 過去、「唐物の使」とか「天人が袖で石を撫でる(刧)」で集めたものが、今回の分類で割り当てできそう。「日本国語大辞典」の日国友の会の用例探しで集めた用例が転用できます。2014年の七十二候ブログはどうしようかしら。削除した方がよいかな。
 考えたら、今まで集めた春夏秋冬の用例も、桜なら「草樹」カテゴリで、賀茂祭なら「人事」カテゴリに割り振るべきなのかも。しかし、そうすると、季節でまとめられないので、これはそのまま残します。時間が有る時に、今まで集めた用例を、今回の新設カテゴリにそれぞれ載せていこうと思います。


古典の季節表現 四季

2020年07月05日 | 日本古典文学

御曹司は上るり御前のひと間所に忍ばせ給ひて見給へば、四方のせうじに四季をぞかゝれける。先づ東の障子にかいたるゑは、春のていかと打見えて、きさらぎ末弥生はじめの事なるに、峯のしら雪むらぎえて、谷のさわらびもへ出れば、松の枝にはくじやく鳳凰がさゑづりて、てりうそてりぬるてりましこ、ひわや小がらや四十から、数の小鳥が巣をくひて、かなたこなたへ舞あそびし其風情をかゝれたる。まことに春かと見えにけり。南の障子にかいたる絵は、夏のていかと打見えて、軒端をふかすはあやめ草、夜ふかを過るはほとゝぎす、なつかしさにこなたの空をながむれば、しづの女が田子のもすそを引乱し、すげの小笠をかたむけて、さなえとるこそやさしけれ。日だに暮れば我やに帰り、宿のうづみ火かき立て、軒端々々にたつ煙、谷へとかたむくその下には、かうろぎはたをりきりぎりす、まつ虫すゞむしくつわ虫、常になかぬはたるらむし、せみのなくこゑ木ずゑ木ずゑにひゞわたりしその風情をかゝれたるまことに夏かと見えにけり。西のせうじに書たる絵は、秋のていかとうち見えて、萩のうは葉にそよぐ風、荻の下葉にむすぶ露、九月下旬に紅葉ばの所々にちり行風情をかゝれたるは、まことに秋かと見えにけり。北のせうじに書たる絵は、冬のていかと打見へて、遠山ちかき里までも、あらしこがらしはげしくて、軒にたるひぞ氷ける。津川の鴛の一つがひ、羽を氷にとぢられて、たゝざる其身の風情をば、日本めいよの絵かきの上手がこんぜうろくせうの筆をもつて、絵種をもおしまず書たりしを、物によくよくたとふれば、都にとりてはどれどれぞ。一条殿や二条殿、近衛関白花山院、六原殿の唐の小御所と申とも、それにはいかでまさるべきとぞ見えにけり。
(浄瑠璃十二段~『日本歌謡集成 巻五 近古編』東京堂)


古典の季節表現 四季

2020年06月30日 | 日本古典文学

  春
一 とてもつらくば 春の薄雪 思ひ消えよの 積もらぬ先に。
一 よしやそなたの 風ならば 花にふくとも つらからじ。
一 梅は匂ひ 花は紅 柳は緑 人は心。
一 面白の春雨や 花の散らぬ程ふれ。
一 春の名残は 藤躑躅 人の情は ひとこと。

  夏
一 庭の夏草 茂らば茂れ 路あればとて 訪ふ人も無し。
一 君は初音の 郭公 まつに夜な夜な かれ候よ。
一 五条わたりの車が通る たぞと夕顔の 花車。
一 一人ぬる夜の 淋しきに 二人ぬる夜の 山ほとゝぎす。

  秋
一 いつしか人の 秋風に うらみ葛の葉の 露ぞこぼるゝ。
一 中々消えで 露の身 ちぎり朝顔。
一 忍ぶ玉づさ 月に読まん 空見れば あゝ月もなの 村雨や。
一 月はえせ者  忍ぶ夜は なほ冴えゆる。
一 木幡(こはた)山路に 行きくれて 月を伏見の 草まくら。
一 いとゞ名の立つ 秋風に たそよ妻戸を きりぎりす。
一 霜枯の 葛の下葉の きりぎりす うらみては鳴き うらみては鳴く。

  冬
一 余所の梢の ならひして 松に時雨の またかゝる。
一 人の濡衣 きた時雨 くもりなければ はるゝよの。
一 浦は薄雪 小網曳 袖は涙に しほしほと。

(編笠節唱歌「草歌」~『日本歌謡集 巻六 近世編』東京堂)