萬蔵庵―“知的アスリート”を目指すも挫折多き日々―

野球、自転車の旅、山、酒、健康法などを徒然に記載

インドを走る!part2 第31話「ラジギールの日本寺(その2)」

2009年10月31日 | 自転車の旅「インドを走る!」


建築中の寺へゆく。とにかく暑い。大地がそのままサウナになったようだ。強い熱風も吹く。そんな中で寺を造る為、あまたの人夫が働いている。コンクリート打つのに、コンクリートミキサー付きのトラックも無ければ、セメントを流し込むポンプ車も無い。(私はこのインド・ネパールサイクリングの資金を、この手のアルバイトで稼いだので、結構詳しいのだ。)

セメントは水と砂をスコップでまぜ、それを小ぶりのタライのような器にいれて頭に載せて運ぶという方法である。大変な作業である。これで一人当たり一日たったの6RS(180円)だそうだ。日本で私がやったアルバイトなら平均一日7000円は稼げた。もっと、機械化されていて楽な仕事であり、しかも、こんなに暑いところでの作業ではない。

いくら物価の安いインドでも一日180円では家族の5人も居れば、それで本当に喰うだけの生活しか出来ない。一家の主人が病気になったり、怪我をしたりすればそれで一巻の終わりだそうだ。誠に過酷な生活である。

工事現場の脇の坊さんの家へ入る。屋根と壁だけの6畳一間ぐらいの質素な佇まいであったが、さすがに家の中は涼しい。ひょいと壁にかかっている気温計をみると40度を指そうとしている。涼しく感じられるところでこの気温である。まさに厳しい自然だ。坊さんは「頑固な自然があのインド人の千年一日の如く、同じものを食い、同じような生活をする精神に表れていると言い、日本の移り気な天候が日本人の精神を形づくっている。」と言われた。

「インド人は飯は旨いまずいで食うのではなく、能書きで喰う。」とも言われた。あのあまたの香辛料には漢方の成分と同じものがいくつもあるらしい。「これは毒消し」「これは身体を冷やす」「これは力がつく」等々。能書きで食べていると主張していた。

また、日本人は勤勉で正直な国民性であるのだから、もっと他の国へ出て働くということを考えた方がいい、とも言われた。日本で活躍し、成功するというのは難しいことだ。その知識なり、体力なりを発展途上の国のために使うことを考えた方がいい、というのだ。

昼飯に、やさしい味のインド式カリーに日本のとろろ昆布のお吸い物をご馳走になる。非常に美味しく感じた。また、出された水もうまかった。特別に井戸を掘っているのかもしれない。

「寺のメシはありがたい。ワシも半年ほどあの寺で世話になった。もともとインドに旅行に来たのは、この国の世界一といわれる豊富な種類の鳥を8ミリズームの映写機で撮影するのが目的だった。だけど、インドを回って、人々の生活に慣れてくるにしたがって、ファインダーを覗く自分が段々恥ずかしくなってきた。そして、ついにそれを売り、他の所持品も売ってその金で放浪していた。そんな、何もすることがなかったワシをあの和尚さんが救ってくださったんだ。」と語ってくれた。

そして、この寺に半年間世話になり、ついに出家したという。

また、和尚さんがただ一人だけ褒める森下上人というのは無欲で、ものにこだわらぬ人物であるそうだ。この人は寺に生まれたが、寺を嫌い山谷のドカタ仕事などをして後、ヨーロッパあたりをふらついたそうである。外国語は全然だめな人らしいが、その人格、人ぶりが他人を納得させるという偉人だそうだ。そんな人に一度会ってみたいもんだと思った。

いろいろと趣きのある話をして下された。本当に一日延長してここに来た甲斐があった。それが、いらなくなったフィルムを売りたかったという為にしろ、とにかく延長して日本寺に来てよかったと思った。もし、カメラが盗まれず、フィルムを売るようなことが無かったら、この坊さんとの出会いは無かったかもしれない。宗教的運命のなせる業かとも思った。

坊さんは、「サイクリングでインドを回るということはありがたいことだ」と何度も言った。誰にありがたいのか。彼の“所持”しているインドというものに対してだろうか。私自身に対してだろうか。

「もう、一週間後には日本に帰ります。また、機会があればここに来て見たいです。お世話になりました。」とお礼を行って分かれた。

バンガローに戻って昼寝をした後、夕食を食べにマルケットへ行く。私よりいくらか年長の日本人に会う。聞けばシリアで二年間、海外青年協力隊で農業をしていたが、日本に帰るにあたって、二週間ほどインドを回っていると言う。坊さんが言っていた「日本人が海外で働く」というのはこういうことなのか、と生きた見本をみるようであった。

一緒に食事した後、ガキドモの騒ぐ温泉へ案内した。
                   
                (つづく)                

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コメント (4)
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