読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

バラエティ豊かな作品が揃う第23回宮崎映画祭、閑古堂的見どころポイント

2017-08-27 22:26:08 | 映画のお噂
映画をこよなく愛する人びとが集まって結成された実行委員会の手により、毎年宮崎市で開催されている「宮崎映画祭」。第23回となる今年は来月(9月)の16日から24日にかけて、市内中心部にある映画館、宮崎キネマ館を会場に開催されます。



上映作品の詳しい紹介やタイムテーブル、チケットや会場へのアクセスなどの情報は、こちらの映画館の公式サイトをご参照いただくとして、当ブログではあくまでもわたし個人の注目ポイントに沿って、今年の宮崎映画祭をご紹介してみることにしたいと思います。

今度の宮崎映画祭は、ここ1年の話題をさらった最新ヒット作から、知る人ぞ知るアート系作品、内外の秀作アニメーション映画、さらにはドキュメンタリーの特集上映までバラエティに富んだラインナップで、けっこう楽しめそうであります。ということでまずは、上映される14本のラインナップを。


『ダゲレオタイプの女』(2016年 フランス・ベルギー・日本)
監督=黒沢清 出演=タハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー、オリヴィエ・グルメ

『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年 アメリカ・フランス)
監督=ケント・ジョーンズ 出演=マーティン・スコセッシ、デヴィッド・フィンチャー、アルノー・デブレシャン、黒沢清(ドキュメンタリー)

『SHARING』(2014年 日本)
監督=篠崎誠 出演=山田キヌヲ、樋井明日香、河村竜也
(111分のロングバージョンおよび、98分の「アナザー・バージョン」を上映)

『この世界の片隅に』(2016年 日本)
監督=片渕須直 声の出演=のん、細谷佳正、稲葉葉月、尾身美詞
(聴覚・視覚に障がいを持つ方々向けの字幕および、スマートフォンを使っての副音声付きで上映)

ユーリー・ノルシュテイン監督特集『アニメーションの神様、その美しき世界』(1968年〜1979年、ソビエト)
監督=ユーリー・ノルシュテイン 上映作品『25日・最初の日』『ケルジェネツの戦い』『キツネとウサギ』『アオサギとツル』『霧の中のハリネズミ』『話の話』

『イレブン・ミニッツ』(2015年 ポーランド・アイルランド)
監督=イエジー・スコリモフスキ 出演=リチャード・ドーマー、ヴォイチェフ・メツファルドフスキ、パウリナ・ハプコ

『神のゆらぎ』(2013年 カナダ)
監督=ダニエル・グルー 出演=グザヴィエ・ドラン、アンヌ・ドルヴァル、ロビン・オペール

『ラ・ラ・ランド』(2016年 アメリカ)
監督=デイミアン・チャゼル 出演=ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、ジョン・レジェンド

『東京流れ者』(1966年 日本)
監督=鈴木清順 出演=渡哲也、松原智恵子、吉田毅、二谷英明

『ツィゴイネルワイゼン』(1980年 日本)
監督=鈴木清順 出演=原田芳雄、大谷直子、大楠道代、藤田敏八

『チリの闘い』第一部〜第三部(1975年〜1979年 チリ・フランス・キューバ)
監督=パトリシオ・グスマン(ドキュメンタリー)

『人類遺産』(2016年 オーストリア・ドイツ・スイス)
監督=ニコラウス・ゲイハルター(ドキュメンタリー)

『山田孝之のカンヌ映画祭』全12話(2016年 日本)
監督=山下敦弘、松江哲明 出演=山田孝之、山下敦弘、芦田愛菜(テレビシリーズ)

『メッセージ』(2016年 アメリカ)
監督=ドゥニ・ヴィルヌーヴ 出演=エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー


今度のプログラムの中で、わたしがもっとも注目しているのは、ドキュメンタリー映画の特集上映であります。その目玉といえるのが『チリの闘い』。1973年にチリで繰り広げられた、アジェンデ大統領率いる当時の社会主義政権と、アメリカから支援を受けてクーデターを起こした軍部との戦いを記録した伝説的ドキュメンタリー作品です。本作の製作の過程は、ノーベル賞作家であるガブリエル・ガルシア=マルケスにより『戒厳令下チリ潜入記』(岩波新書)というノンフィクションにもまとめられております。
今回の宮崎映画祭では、全3部構成、総上映時間4時間半近くに及ぶ本作を、9月17日に1回限りで一挙上映いたします(途中休憩が2度挟まります)。これはちょっと体力勝負となりそうですが、またとない機会となりそうなので、体力をしっかり整えて観てみたいと思っております。

同じくドキュメンタリー作品である『人類遺産』は、話題となった『いのちの食べかた』(2005年)を手がけたニコラウス・ゲイハルター監督の最新作です。
『いのちの食べかた』は、やはり宮崎映画祭で上映されたときに鑑賞いたしました。野菜や果物、そして食肉といった食料生産の現場を淡々と、時に美しさを感じる映像で捉えたこの映画は、押しつけがましい解釈を誘うような音楽やナレーションなどを一切排して、観る側に判断を委ねるというつくりが新鮮な、実に優れたドキュメンタリー映画でした。
今回上映される『人類遺産』は、湖底に水没しながらも、干ばつによって地上に姿を現したアルゼンチンの町や、ハリケーンによって海に崩落したアメリカのローラーコースター、そして日本の長崎県にある「軍艦島」こと端島など、世界70ヶ所以上の「廃墟」にカメラを向けた作品です。淡々と、かつ美しく食料生産の現場を捉えたゲイハルター監督が、どのような映像で「廃墟」を捉えたのか。実はけっこう廃墟好きなわたしとしては、大いに楽しみな一作であります。

ドキュメンタリー特集ではもう一本、異色のプログラムが。『山田孝之のカンヌ映画祭』は、俳優の山田孝之さんと、『苦役列車』(2012年)などの作品で知られる映画監督の山下敦弘さんが、カンヌ映画祭に出品する映画を創ろうとする過程に密着した、テレビ東京系列で深夜枠に放送されたテレビシリーズです。今回の宮崎映画祭では、会期中にテレビシリーズ全12話を4回に分けて上映するという、実に無謀な(笑)プログラムが組まれております。山下監督とともにシリーズの監督を務めた松江哲明さんが、最終上映日の9月23日にゲストとして来場されます。

アニメーション映画の特集で注目しているのは、ソビエト=ロシアの巨匠、ユーリー・ノルシュテイン監督の代表作6本を集めた『アニメーションの神様、その美しき世界』です。日本の高畑勲監督も敬愛するアニメーションの巨匠ということは存じておりましたが、まだその作品を観たことがございませんでしたので、ぜひともしっかり観ておきたいところです。
アニメーション映画特集はもう一作。現在も各地の劇場でロングラン上映が続き、多くの人たちの熱い支持を得ている片渕須直監督の秀作『この世界の片隅に』が、初日のオープニングを含めて会期中3回上映されます。すでに2回観ているわたしですが、もし時間が合うようであればまた観るかも、です。

現代日本を代表する映画作家の一人として、海外からも高い評価を得ている一方で、宮崎映画祭にもこれまで何度もゲストとして来場されている黒沢清監督。今回はフランス・ベルギーとの合作により製作した最新作『ダゲレオタイプの女』をひっさげて、久しぶりに宮崎映画祭に来場されます。
170年前の写真撮影技法である「ダゲレオタイプ」に魅せられた写真家のもとに、助手としてやってきた青年が目にする写真家とその家族の秘密を描いた、妖しくも甘美な物語は、映画的な趣向をたっぷりと盛り込んだ作品という感じがして期待が持てます。映画祭最終日の9月24日、黒沢監督もインタビュー出演しているドキュメンタリー映画『ヒッチコック/トリュフォー』とともに、監督のトークを交えて上映されます。
黒沢監督が宮崎映画祭に来場されるのは、これでなんと5回目。世界的にも名高い監督でありながら、宮崎のような地方で行われる映画祭にも、こうして何度も足を運んでくださることは、宮崎の人間として実にありがたく、感謝にたえません。

上映される日本映画でもう1つの注目作は、『おかえり』(1996年)や『東京島』(2010年)などを手がけた気鋭の映画作家・篠崎誠監督の最新作『SHARING』。東日本大震災という未曾有の大災害を、映画的な文脈の中でどのように描き出しているのか気になります。
今回の映画祭では111分のロングバージョンとともに、98分の「アナザー・バージョン」も上映されます。後者は単に短いだけのバージョンではないとのことなので、可能であれば両方を観比べたいところです。9月23日には篠崎監督と、主演女優の山田キヌヲさんが来場されます。
今年2月に亡くなられた鈴木清順監督の回顧特集では、代表作の『ツィゴイネルワイゼン』とともに、日活時代に製作した『東京流れ者』が上映されます。後者では若き日の渡哲也さんが観られるというのも楽しみなところです。

そして、今年話題となった新しい作品の目玉といえるのが『ラ・ラ・ランド』です。今年の第89回アカデミー賞で、監督賞や主演女優賞など全6部門を受賞した、大評判の傑作ミュージカル映画です。実は本作のデイミアン・チャゼル監督がインスパイアされた映画が、今回の鈴木清順監督回顧特集でも上映される『東京流れ者』だということで、この2作もまた、観比べると面白そうですね。
テッド・チャンのSF小説『あなたの人生の物語』(ハヤカワ文庫SF)を原作とした『メッセージ』は、SF映画の名作『2001年宇宙の旅』(1968年)の原案も手がけたSF作家、アーサー・C・クラークの生誕100年記念企画として上映されます。こちらは、SF映画好きの端くれとしては観逃せません。

映画祭の本祭に先駆けて、プレイベントも予定されております。9月2日には、宮崎市内中心部にある商店街・若草通のアーケード街にて、屋外上映会や宮崎大学コンソーシアムによる映画製作のワークショップが開催されます。屋外上映会では、地元を舞台にした自主映画や、アカデミー短編アニメーション賞などを受賞した加藤久仁生監督の傑作短編アニメ『つみきのいえ』(2008年)が上映されます。
プレイベントの行われる若草通のアーケード街も、映画祭本祭の会場となる宮崎キネマ館も、宮崎市中心市街地のど真ん中。宮崎最大の繁華街、通称「ニシタチ」もすぐそばです。映画の前後にショッピングや飲食を楽しむというのも、またオツなのではないでしょうか。

ここ10年ほど、ささやかながらも宮崎映画祭を応援させていただいてきたわたしでありましたが、昨年は映画祭の会期と同じ期間に計画した熊本旅行を優先させたこともあり、観に行くのをパスするという不義理をおかしてしまいました。
それだけに、バラエティ豊かで面白そうな作品が揃った今年の宮崎映画祭を、心を入れ替えて(笑)応援したいと思うわたしなのであります。

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