読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

極私的・2016年テレビドキュメンタリー、ベスト10プラスα(ただしNHK限定)

2016-12-30 18:20:31 | ドキュメンタリーのお噂
以前はよく、視聴していたテレビドキュメンタリー番組の内容紹介や、ちょっとした感想なんぞを当ブログにて記していたわたしでしたが、近ごろはめっきり、そういうことがなくなってしまっておりました。
ですが、ドキュメンタリーものは相変わらず大好物ではありますので、NHKスペシャルやETV特集を中心に、時間の許す限り視聴し続けてはおりました。そこで今回は、2016年に視聴したテレビドキュメンタリー番組から、強く印象に残ったお気に入りの10作品を選んでみました。
とはいえ、わたしの住む宮崎県には、NHKのほかは民放が2局しかないという状況に加え、時間的な制約もあったりして、観ることのできた番組には限りがあります。ゆえに、このベスト10はNHK限定の、かなり不充分なかたちでの “極私的” なものであることを、まずはお断りしておきたいと思います(別段NHKだけをヒイキにしたいというワケでもございません)。また、配列は順位ではなく放送順であります。


NHKスペシャル 3.11 あの日から5年『風の電話 〜残された人々の声〜』
(3月10日放送)
岩手県大槌町を見下ろす高台にある電話ボックス「風の電話」。東日本大震災で亡くなった家族や友人への思いを、この電話ボックスから伝えようとする人々の声に耳を傾けた番組でした。
5年経っても癒えることのない、愛する存在を失った人びとの悲しみと喪失感。失った人へメッセージを伝えることで、少しでも前に踏み出そうとする姿勢。それらに強く心を揺さぶられました。観る前から覚悟はしていたのですが、やはり涙なしには観られませんでした。

NHKスペシャル『大アマゾン 最後の秘境』第2集「ガリンペイロ 黄金を求める男たち」
(5月8日放送)
アマゾンの奥深く、誰にも知られることのない場所に集団で潜みながら、一獲千金を狙い黄金の採掘に励む荒くれ男たち=ガリンペイロに密着した傑作。わたし的には、2016年に観たテレビドキュメンタリーで一番印象に残った作品でした。
ディレクターは、やはりアマゾン奥地に長期取材を敢行した『ヤノマミ』を手がけた國分拓さん。自分の生きる世界と価値観とは遠くかけ離れた、ガリンペイロたちの強烈な生き方に圧倒される思いがいたしました。
シリーズ『大アマゾン 最後の秘境』では、同じく國分さんがディレクターを務めた第4集「最後のイゾラド 森の果て 未知の人々」(8月7日放送)も素晴らしかったですし、第1集「伝説の怪魚と謎の大遡上」(4月10日放送)と第3集「緑の魔境に幻の巨大ザルを追う」(6月12日放送)もゾクゾクする面白さでした。ぜひとも、シリーズのソフト化を熱望いたします。

ETV特集『女ひとり 70歳の茶事行脚』
(5月14日放送)
長年にわたって茶事の第一人者としての人生を歩んできた女性、半澤鶴子さんが、70歳を機に茶事の真髄を極めようと全国各地を回った、2年間の茶事行脚に密着したドキュメンタリー。
鍋釜や茶道具一切をミニバンに積み込み、単身全国を飛び回っては、その土地その土地で出逢った人びとに地元の食材で料理を振る舞うという、年齢を感じさせない半澤さんの行動力がとても魅力的でした。あさっての元日、アンコール放送されるということですので、また観たいと思います。

ETV特集『つかさ18歳 人生を取り戻したい 〜被虐待児 2年間の記録〜』
(6月18日放送)
9歳のときに継父から虐待を受け、以来児童養護施設で暮らしてきた少女。施設の職員や同居する仲間たちに支えられながら将来を模索し、自立していこうとする姿を2年間にわたって追ったものです。
虐待による心の傷が、子どもたちの将来に及ぼす影響をあらためて思い知らされるとともに、悩みながらも自分なりの将来を模索し、母親との関係を再構築しようとする少女の姿に胸を打たれました。


NHKスペシャル『未解決事件 File.05 ロッキード事件』第1部・第2部「実録ドラマ 前編・後編」第3部「日米の巨大な闇 40年目のスクープ」
(7月23、24日放送)
未解決のままとなった事件の謎と真相に、実録ドラマとドキュメンタリーで迫るシリーズ企画の第5弾は、久々に気合いの入ったつくりで実に面白く観ることができました。事件の謎に執念で肉迫しようとする、東京地検特捜部の吉永主任検事を演じた松重豊さんの入魂といっていい演技に魅せられました。
複雑な構図に見え隠れする、兵器ビジネスの背後に広がる国家的な思惑。40年後に突きつけられたその闇に驚愕し、慄きました。
余談ながら、シリーズのテーマ曲となっている川井憲次さん作曲の『ラビリンス』は、耳にするたびにワクワク感を覚える大好きな曲であります。

NHKスペシャル『ある文民警察官の死 〜カンボジアPKO 23年目の告白〜』
(8月13日放送)
1993年、カンボジアへのPKOで派遣されていた日本人警察官5人が武装ゲリラに襲撃され、1人が死亡し4人が重軽傷を追った事件の実態がどのようなものだったのかを、当時の隊員たちの証言などをもとに描いた労作でした。
ほとんど知ることのなかった事件の経過に衝撃を受けるとともに、派遣されていた隊員たちを取り巻いていた過酷な状況も知ることとなり、胸の痛む思いがいたしました。考え方の違いを問わず、声高で感情的・観念的な議論をするよりも、まずは現場の実態を理解しなければ、ということを認識させられた番組でした。

NHKスペシャル『神の領域を走る パタゴニア極限レース141㎞』
(10月2日放送)
足元の悪い森の中や、強烈な吹雪が叩きつける岩山などが待ち受ける141㎞のコースを不眠不休で走破するという、南米パタゴニアの超人的レースに挑む、世界各国から集まったアスリートたちの闘いぶりを、日本人参加者の鏑木毅さんを中心に追った番組。
人間の精神の限界を超えた先に訪れる「神の領域」を乗り越えようとする鏑木さんの凄みにも圧倒されましたが、参加者最高齢である60歳の男性の姿に、何歳であろうとも物事にチャレンジしていく姿勢を持ち続けることの大切さを教わったように思いました。この番組もまた、新年3日の早朝に再放送されるとのことです。

NHKスペシャル『活断層の村の苦闘 〜熊本地震・半年間の記録〜』
(10月14日放送)
熊本に震度7の揺れをもたらした巨大な断層帯。その中央に位置する西原村の人びとの苦闘を、半年間にわたって見つめたドキュメンタリー。
活断層への不安から、村に残るか移住するかで意見が分かれていく住民たちの辛い現実にしっかり目を向けながらも、地震直後から力を合わせて復旧に励み、なんとか村の危機を乗り越えようとする人びとの姿には、ときに笑いを誘われるような痛快さが。強い絆で支えられた地域の持つ底力やしなやかさも感じました。
西原村の皆さんのこれからがどう動いていくのか、すごく気になります。

明日へ つなげよう『証言記録 東日本大震災』第57回「福島県須賀川市 〜放射能の不安と闘った病院〜」
(10月30日放送)
福島県の内陸部で最も強い揺れに見舞われた須賀川市。福島第一原子力発電所から離れていることもあって避難指示は出されなかったものの、情報不足から住民は不安に駆られることに。そんな中、住民の不安を解消しようとラジオ局を開設し、情報発信を続けた病院の院長さんとスタッフの奮闘を、当事者の証言で綴ったものです。
憶測や噂が飛び交ったりして情報が錯綜し、人びとが不安に駆られる状況にあって、根拠のある正確でしっかりした情報を発信していくことがいかに大事なことなのかを教えてくれる証言記録でした。病院の院長さんとスタッフの方々に、心から敬意を表したくなりました。

ETV特集『15歳 私たちが見つけたもの 〜熊本地震 3年3組の半年〜』
(12月10日放送)
2度にわたる震度7の地震に襲われた、熊本県益城町にある木山中学校。多感な時期を襲った地震の影響を受けながらも、中学生最後の部活動や体育大会、合唱コンクールに打ち込んでいく3年3組の生徒たちの半年間を追ったドキュメンタリーです。
特定のナレーターを置かず、登場する生徒たちの声そのもので綴られていて、彼ら彼女らの思いがストレートに胸に響いてきました。それでいて、ありきたりの感動的なラストにはせずに、意表を突く愉快な終わり方で締めくくっていたのも、実に好感が持てました。
1年の最後となる月にまた一本、いい内容のドキュメンタリーを観ることができて本当に良かったと、心から思えた作品でした。

そして、プラスαとして挙げておきたいのが、『バリバラ 生放送 検証!〈障害者×感動〉の方程式』(8月28日放送)です。
日本テレビ系列で毎年放送される24時間テレビ『愛は地球を救う』。その「感動」のフィナーレの時間帯にあえて生放送でぶつけられたこの番組は、「感動」を見世物的な娯楽として消費することを指した “感動ポルノ” なるキーワードのもと、障害者をテーマにしたテレビ製作の「常識」を、バリバラ流の笑いとともに斬っていく内容でした。
障害者を主人公にした「感動」ドキュメンタリーの類型と、そこに見られる作為をユーモアたっぷりにからかったり、過去のNHKの障害者テーマの番組を引っ張り出して検証したり。問題提起の鋭さもさることながら、それを国民的24時間チャリティ番組の裏番組としてぶつけるという攻めっぷりにシビれましたね。なんせキャッチコピーからして「笑いは地球を救う」だったし。
今月(12月)にはスピンオフ番組も放送されましたが、この企画もぜひ、毎年夏の恒例にしていただきたいところであります。

では最後に、ベスト10には入れなかったものの印象に残ったドキュメンタリー番組をタイトルのみ列挙しておきます。こちらも恐縮ですがNHK限定で、順番はやはり放送順であります。

ドキュメント72時間「大都会 犬と猫のシェルターで」(4月15日放送)
ETV特集『生き抜くという旗印 〜詩人・岩崎航の日々〜』(4月30日放送)
ドキュメント72時間「北のどんぶり飯物語」(5月6日放送)
ETV特集『水俣病 魂の声を聞く 〜公式確認から60年〜』(5月28日放送)
ドキュメント72時間「ゆきゆきて 酷道439(ヨサク)」(6月3日放送)
目撃!日本列島「“母乳ブーム”のかげで 〜追い詰められる母親たち」(6月11日放送)
ETV特集『曜変 〜陶工・魔性の輝きに挑む〜』(6月11日放送)
NHKスペシャル『私は家族を殺した 〜“介護殺人”当事者たちの告白〜』(7月3日放送)
ETV特集『関東大震災と朝鮮人 悲劇はなぜ起きたのか』(9月3日放送)
ETV特集『路地の声 父の声 〜中上健次を探して〜』(11日26日放送)r

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