熊は勘定に入れません-あるいは、消えたスタージョンの謎-

現在不定期かつ突発的更新中。基本はSFの読書感想など。

ウルフ群島沖を漂流中~セトラーズ島再訪編

2006年02月22日 | Wolfe
さて、『デス博士の島その他の物語』。もちろん本書の表題作である。

波と風に洗われる半島を舞台に描かれる、少年期の終わりの物語。
静かな日々の下で蠢く獣性、物語と現実が侵食しあう世界の姿。
若島正氏のノートを参考にこの作品を読んだときの驚きと興奮、
見えている世界がガラリとその光景を変えていくときの感動は、
今でも鮮烈に覚えている。
その時の経験については、以前にこのBlogで書いたとおりだ。
小説を通じて感覚や意識の変容、さらには身体的な変化までを
ここまで見事に、しかもこの紙数で書ききっているというのは、
やはり恐るべきことだと思う。

作中でタッキーのママはクスリでトリップしているが、この作品は
読書というものがクスリと同等か、それを超えるトリップなのだと
誇らしげに宣言しているようだ。
そして読書という行為はまさに、その世界への「トリップ(旅)」なわけである。
(ウルフ作品の多くに「旅」が絡んでくるのは、これを意識しているのかも。)
巻末の解説では、柳下氏が本作の読み方についてのヒントを示している。
私はこれに沿って読むことで、物語にまた新たな楽しみを見つけられた。
再読、再々読時にはぜひお試しいただきたい。

「まえがき」にもあるとおり、この年のネビュラ賞短編部門は受賞作なし。
有名なAMEQさんのサイト「翻訳作品集成」によれば、同年の候補作には
ラファティ『完全無欠な貴橄欖石』もあったそうだ。
これか『デス博士』のどちらかが獲ってもおかしくなかっただけに、
「受賞作なし」とは、エリスンでなくても腹が立つというものである。

それにしても、この両者が同じ年の「オービット」に載っていたという事は、
同誌の充実ぶりをよく表していると思う。
(実はハリイ・ハリスンの作品を除けば、ネビュラ賞短編部門候補作は
全部「オービット」掲載作品だったのだが)
『ベスト・フロム・オービット』の再刊もしくは新編集版の登場にも、
ぜひ期待したい。

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