大統領選「前年の夏」
メモリアル・デイが終わり6月になったボストンは、真っ青に晴れ上がったり急に雷雨が来たりという、いかにもボストンらしい変わりやすい天気の日が続いています。5月末からの大学の卒業式ラッシュと引っ越しでなんとなくざわざわしていた町も少し落ち着き、公立小中高も6月中旬で学年末となり、9月初めのレイバー・デイまで2月半にわたる長い夏休みに突入しました。
この夏は、政治的スケジュールでは、来年11月の大統領選の「前年の夏」ということで、候補者のディベートが開かれたり、誰が党代表になるかといったことがメディアを賑わしたりしています。この辺りはニュージャージー在住の冷泉彰彦氏が詳しくレポートをしていらっしゃるので譲りますが、私が関心を持っているのはなんといっても共和党の最有力候補と評判のミット・ロムニー氏のヘルスケア改革についての態度です。
二つのヘルスケア改革法
ロムニー氏は、2006年にマサチューセッツ州で州民皆保険が実現した時、州知事として最大の功労者のひとりでした。州民皆保険を義務づけたヘルスケア改革法の調印式でサインをしたのは、まさしくこの共和党のロムニー氏だったのです。
しかしながら、この全米初の皆保険という輝かしい業績、すなわちマサチューセッツ州のヘルスケア改革法が今、ロムニー氏にとって大きな「障壁」になっています。支持母体である共和党が、皆保険を目指したオバマ氏による連邦のヘルスケア改革法に絶対反対というポリシーであるからです。
共和党の急先鋒サラ・ペイリン氏は、ロムニー氏とマサチューセッツの州民皆保険への猛烈な批判を各所で表明しています。例えば皆保険について、ボストン・グローブの記者から感想を聞かれたペイリン氏は、「政府からの義務強制は、どんなものであってもよいものではありません」と答えていました。
やはり共和党のラドルフ・ジュリアーニ氏も、「オバマ・ケアもロムニー・ケアもほとんど同じもの」と言い放っています。「オバマ・ケア」というのは、オバマ大統領が昨年2010年3月に調印したヘルスケア改革法に反対の立場の人が、この改革を揶揄する時に使う呼び名です。「ロムニー・ケア」というのは、これまで聞いたことがなかったのですが、どうやらマサチューセッツの州民皆保険を定めた改革法のことらしく、やはり揶揄する意図で使われています。ジュリアーニ氏は、「一番いいのは、こんなもの(オバマ・ケアもロムニー・ケアも)は白紙に戻すことだ」と言っていました
さらに共和党で元ミネソタ州知事のティム・パウレンティ氏にいたっては、「オバムニー・ケア Obamneycare」なる珍奇な造語を持ち出してきて、二つのヘルスケア改革法は鏡に映った二つの像と同じでひどい悪法だ、と言ってこきおろしています。
ロムニー氏の宣誓
この状況に対してロムニー氏はどのように応えているのでしょうか?ロムニー氏は、オバマ大統領のヘルスケア改革法を何の躊躇もなく破棄する、と宣誓しています。彼の主張によると、連邦(Federal)と州(State)で話は全く異なるといいます。人々の健康保険に関しては、義務化するかどうかも含め、州が責任を持って独自にするものであるけれど、連邦が関与する問題ではないというのです。
6月13日にニューハンプシャーで行われた共和党候補者演説で、ロムニー氏はほとんどこのことには触れていませんでしたが、こんな風なことを言っていました。「悪い状況を取り除いて、良い状況を作り出す方法を打ち出します。完璧ではないかもしれませんが、州の問題に対しては州が解決してゆくべきなのです」。 これはおそらく、州のことは州で決めるべきで、連邦が口を出すべきではないと、暗にオバマ氏のヘルスケア改革を批判し、廃止を主張しているのでしょう。
全州皆保険は推進しても、国民皆保険を否定するため、こんなような詭弁のようなロジックを打ち出してくるものなのか、と感心しました。
ヘルスケア改革法:連邦と州
連邦法に基づくオバマのヘルスケア改革法も、州法に基づくマサチューセッツのヘルスケア改革法も、最大の目標は、保険会社から患者・消費者を守るために既往歴がある人も保険に入れるようにする、雇用主に従業員の保険を提供するようにするといった、弱い立場にある人を保護するというものでした。
ただし、同じヘルスケア改革法でも、州と連邦に大きな違いがあることも指摘されています。それは、州ではコスト管理をすることなしに保険加入者を増やすことにしているのに対して、連邦では保健医療提供者や高額所得者などの様々な形で増税を呼びかけたり、さらにメディケアの予算を削減することなども盛り込まれたりしているからです。
現在、マサチューセッツ州民の健康保険加入率は98%ですが、どうしてそれが可能かというと、連邦政府という「お金持ちの伯父さん」が足りない財源を補填してくれているからだ、とブランダイズ大学の医療経済学者スチュワート・アルトマン氏は言います。アルトマン氏は、クリントン政権時には国民皆保険を目指したヒラリー・クリントン氏のアドバイザーで、マサチューセッツ州のヘルスケア改革では実際の制度作りにも携わった人物です。
メモリアル・デイが終わり6月になったボストンは、真っ青に晴れ上がったり急に雷雨が来たりという、いかにもボストンらしい変わりやすい天気の日が続いています。5月末からの大学の卒業式ラッシュと引っ越しでなんとなくざわざわしていた町も少し落ち着き、公立小中高も6月中旬で学年末となり、9月初めのレイバー・デイまで2月半にわたる長い夏休みに突入しました。
この夏は、政治的スケジュールでは、来年11月の大統領選の「前年の夏」ということで、候補者のディベートが開かれたり、誰が党代表になるかといったことがメディアを賑わしたりしています。この辺りはニュージャージー在住の冷泉彰彦氏が詳しくレポートをしていらっしゃるので譲りますが、私が関心を持っているのはなんといっても共和党の最有力候補と評判のミット・ロムニー氏のヘルスケア改革についての態度です。
二つのヘルスケア改革法
ロムニー氏は、2006年にマサチューセッツ州で州民皆保険が実現した時、州知事として最大の功労者のひとりでした。州民皆保険を義務づけたヘルスケア改革法の調印式でサインをしたのは、まさしくこの共和党のロムニー氏だったのです。
しかしながら、この全米初の皆保険という輝かしい業績、すなわちマサチューセッツ州のヘルスケア改革法が今、ロムニー氏にとって大きな「障壁」になっています。支持母体である共和党が、皆保険を目指したオバマ氏による連邦のヘルスケア改革法に絶対反対というポリシーであるからです。
共和党の急先鋒サラ・ペイリン氏は、ロムニー氏とマサチューセッツの州民皆保険への猛烈な批判を各所で表明しています。例えば皆保険について、ボストン・グローブの記者から感想を聞かれたペイリン氏は、「政府からの義務強制は、どんなものであってもよいものではありません」と答えていました。
やはり共和党のラドルフ・ジュリアーニ氏も、「オバマ・ケアもロムニー・ケアもほとんど同じもの」と言い放っています。「オバマ・ケア」というのは、オバマ大統領が昨年2010年3月に調印したヘルスケア改革法に反対の立場の人が、この改革を揶揄する時に使う呼び名です。「ロムニー・ケア」というのは、これまで聞いたことがなかったのですが、どうやらマサチューセッツの州民皆保険を定めた改革法のことらしく、やはり揶揄する意図で使われています。ジュリアーニ氏は、「一番いいのは、こんなもの(オバマ・ケアもロムニー・ケアも)は白紙に戻すことだ」と言っていました
さらに共和党で元ミネソタ州知事のティム・パウレンティ氏にいたっては、「オバムニー・ケア Obamneycare」なる珍奇な造語を持ち出してきて、二つのヘルスケア改革法は鏡に映った二つの像と同じでひどい悪法だ、と言ってこきおろしています。
ロムニー氏の宣誓
この状況に対してロムニー氏はどのように応えているのでしょうか?ロムニー氏は、オバマ大統領のヘルスケア改革法を何の躊躇もなく破棄する、と宣誓しています。彼の主張によると、連邦(Federal)と州(State)で話は全く異なるといいます。人々の健康保険に関しては、義務化するかどうかも含め、州が責任を持って独自にするものであるけれど、連邦が関与する問題ではないというのです。
6月13日にニューハンプシャーで行われた共和党候補者演説で、ロムニー氏はほとんどこのことには触れていませんでしたが、こんな風なことを言っていました。「悪い状況を取り除いて、良い状況を作り出す方法を打ち出します。完璧ではないかもしれませんが、州の問題に対しては州が解決してゆくべきなのです」。 これはおそらく、州のことは州で決めるべきで、連邦が口を出すべきではないと、暗にオバマ氏のヘルスケア改革を批判し、廃止を主張しているのでしょう。
全州皆保険は推進しても、国民皆保険を否定するため、こんなような詭弁のようなロジックを打ち出してくるものなのか、と感心しました。
ヘルスケア改革法:連邦と州
連邦法に基づくオバマのヘルスケア改革法も、州法に基づくマサチューセッツのヘルスケア改革法も、最大の目標は、保険会社から患者・消費者を守るために既往歴がある人も保険に入れるようにする、雇用主に従業員の保険を提供するようにするといった、弱い立場にある人を保護するというものでした。
ただし、同じヘルスケア改革法でも、州と連邦に大きな違いがあることも指摘されています。それは、州ではコスト管理をすることなしに保険加入者を増やすことにしているのに対して、連邦では保健医療提供者や高額所得者などの様々な形で増税を呼びかけたり、さらにメディケアの予算を削減することなども盛り込まれたりしているからです。
現在、マサチューセッツ州民の健康保険加入率は98%ですが、どうしてそれが可能かというと、連邦政府という「お金持ちの伯父さん」が足りない財源を補填してくれているからだ、とブランダイズ大学の医療経済学者スチュワート・アルトマン氏は言います。アルトマン氏は、クリントン政権時には国民皆保険を目指したヒラリー・クリントン氏のアドバイザーで、マサチューセッツ州のヘルスケア改革では実際の制度作りにも携わった人物です。