りなりあ

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約束を抱いて:番外編-傍観者-2

2007-05-04 16:36:06 | 約束を抱いて 番外編

「そう。」
今日から斉藤家で家政婦のアルバイトをする事になったと、祥子に伝えると、彼女は納得したような声を出した。
「驚かないの?」
「驚かないわ。予想はしていたから。」
「え?」
「晴己様が瑠璃に頼むとは考えなかったけど。」
「祥子?」
「むつみちゃんに好きな人が出来て、その相手が橋元優輝だと知った時…驚いたわ。」
祥子は、テーブルに飾られている花の桃色の花びらを、そっと撫でる。
「晴己様が、どう対応するつもりなのか考えたの。色々とあったみたいだけれど、結果的に2人が付き合う事になり、晴己様が認める形になった。」
私は、祥子が既に様々な事態を把握している事を知った。
それは私が知らない事。
そして、私は知る必要などない事。
むつみちゃんと、その彼氏の“色々な事”は、私が知る必要はない。
私は、新堂さんにアルバイトを紹介してもらっただけだ。
「瑠璃。」
祥子の口元から笑みが消える。
「断るのなら今のうちよ。新堂に関わると厄介だから、それだけが理由じゃない。引き返せなくなる。」
「祥子?」
「杏依の従兄や、晴己様の従姉弟達でも良かったのよ?私や絵里姉さんでも。だけど、晴己様は瑠璃を選んだ。」
私はむつみちゃんの近所に住み、同性だから。
それは大きな理由だと思うけれど。
「新堂と何の関わりもなく、昔も今も変わらず杏依の友達。その瑠璃に、むつみちゃんの傍にいて欲しいと頼んだのよ?瑠璃の仕事内容が、むつみちゃんの送り迎えでしょ?むつみちゃんが彼氏の家に行く事を、晴己様が認めたと言う事よね?その協力を瑠璃に頼んだのでしょう?」
「…認めた、事になるの?」
私には新堂さんの考えが分からないし、彼の考えている事を理解したいとも思わない。
「むつみちゃんと橋元優輝を“監視”するのなら、晴己様側の人間を選べばよかったのに、晴己様が選んだのは“杏依サイド”よ。」
「ちょ、ちょっと。杏依は新堂さんと結婚しているのよ?杏依サイドとかって、変よ。」
「それなら、瑠璃は晴己様に報告するの?むつみちゃんの言動を晴己様に報告する義務がある?」
私は頭が痛くなり、眉間を指で押さえ溜息を出した。
「するわけないでしょ。」
「でしょう?瑠璃は新堂晴己の支配下にいない人間。むつみちゃんが、瑠璃を受け入れたら引き返せない。」
私は、混乱していた。
新堂と関わりがなくても、こんな話を聞かされてしまうと、斉藤家に向かうのが更に憂鬱になってくる。
祥子に話を聞いてもらいたいと思ったし、祥子には報告しておくべきだと思ったのは本心だ。
祥子が私の為に話してくれているのは分かるが、私は祥子を呼び出した事を少し後悔した。
「ごめん。話し過ぎたわね。」
私の気持ちに気付いたのか、祥子が言った。
「…いいの。ありがとう。祥子は反対、ということよね?」
新堂の事を知るのは重要な事かもしれない。
だけど、今の私が知っても仕方がないし理解出来ない。
「瑠璃が苦しむような気がするから。でもね。」
何故か祥子は悲しそうに微笑んだ。
「晴己様が瑠璃を選んだ事を、杏依は喜んでいると思う。むつみちゃんの力になってくれる相手が自分の親友だなんて、嬉しいと思う。でも、瑠璃を巻き込んでしまう事を、申し訳ないと思う気持ちもあると思うの。でも杏依は、あの子の幸せを望んでいる。」
そして、私は思い出した。
どうして、私がこのバイトを引き受ける気になったのかを。
「私は反対しているわ。でも、晴己様が選んだのが瑠璃で良かった、そう思う気持ちもあるの。瑠璃を巻き込むのを分かっているのに。…ごめんね。」
私を引き止めようとする祥子と、私を頼ろうとしてくれる、もう1人の彼女が、目の前に座っている。
「祥子。もう既に自分で決めているから気にしないで。ちょっと事前に、祥子に情報でも貰おうかと思っただけだから。杏依に頼まれて断るなんて、出来るはずがないでしょ?全く、杏依は世話が焼けるわ。」

私の言葉に、祥子が安堵したように微笑んだ。



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