りなりあ

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約束を抱いて:番外編-傍観者-1

2007-05-03 21:15:36 | 約束を抱いて 番外編

◇瑠璃◇

信号が青に変わるのを待っていると名前を呼ばれた。
「瑠璃?」
振り向くと、本多由佳が立っている。
「久しぶり瑠璃。あ、そうだ。明けましておめでとう。」
友人からの新年の挨拶に、私は少しだけ気持ちが緩んだ。
「明けましておめでとう。由佳。」
由佳とは中学、高校と同じ学校に通った。
中学の時からサッカー部のマネージャーをしていた彼女に誘われて、私は高校でサッカー部のマネージャーを務めた。
中学の時は、お互いに“その他大勢の友達”としか認識していなかったと思う。
ただ、通っていた塾が同じだったから、一緒に過す時間は、それなりにあった。
そして、一緒にマネージャーを務めるようになってから、彼女とは随分と親しくなった。
そして、彼女は、“私の友達”とも、もっと親しくなり、現在、“その友達”の彼女という立場だ。
「私、これからアルバイトだけど、瑠璃は何処に行くの?」
「私もバイト。そのまえに友達と…待ち合わせ。」
「そう。じゃ、また近いうちに会おうよ。」
信号が青に変わり、私達は歩き出す。
「そうだね。また連絡する。」
横断歩道を渡り終え、私達は立ち止まる。
「じゃ、私、こっちだから。」
手を振る由佳を見送って、私は店の前に立った。
ゆっくりとドアを開けると、ドアベルが高い音を響かせた。

◇◇◇

何もしないで見ていることなど、私に出来るのだろうか?
『新堂さんと杏依が、私を頼ってくれるのなら、むつみちゃんにも私を信頼してもらえるように頑張ります。』
あんな事を言ったが、信頼関係など築く必要があるのだろうか?
ただ、傍観者に徹すればいいのではないだろうか?
「冷めるわよ。飲めば?」
その声に顔を上げると、友人の目黒祥子が綺麗な指先でカップの取っ手を持っていた。
綺麗に手入れされた爪先を淡く彩るネイル。
そんな彼女に反して、私は短く切った爪に少し指先が荒れていて、クリームを塗らなきゃ、と思いながらスプーンで紅茶をグルグルとかき混ぜていた。
「瑠璃?」
名前を呼ばれて、ティースプーンをカップから出し、ソーサーの上に置く。
祥子は随分と変わったと思う。
もちろん、中学生の時と比べているのだから、大学生にもなれば変わって当然。
「どうしたの?溜息ばかり。」
祥子は、とても優雅な落ち着きのある風貌。
確かに、その片鱗は中学時代からあったといえば、あったのかもしれない。
物怖じせず正義感の強い彼女は、自信に満ち溢れている感じで、だから、こんな風に綺麗に背筋を伸ばし、指先にまで神経が行き届いているのだろうと思う。
「実はね。」
祥子が、いろんな覚悟を決めた時から彼女の周囲は変わり、そして彼女自身が変わった。
もちろん、以前と変わらず友達だし祥子自体は変わっていない。
「アルバイトをすることになったの。」
祥子が選んだ道は無謀に感じるけれど、もしかすると最初から決まっていた事なのかもしれないと思う。
適任者は祥子しかいなかった。
その位置に、今まで彼女がいなかった事の方が変なのかもしれない。
「アルバイト?家庭教師の?生徒さん増えたの?」
私は首を横に振った。
「全然、別のアルバイト。まぁ、少しは勉強もみるかもしれないけれど。…名目上は家庭教師なのかなぁ?」
「瑠璃?」
冷めていく紅茶を見ながら、また溜息が出る。
「家政婦、というのが正しいのかな?というか、運転手?」
不思議そうに祥子が首を傾げる。
そして私は、今日の夕方から向かう新しいバイト先の話を祥子にしたのだった。



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