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『TROY』感想(2)

2007年05月02日 | 映画

※引き続きネタバレを含みます

●アガメムノン

 ヘレネー出奔を領土的野心のために利用する欲深い大王、…に描かれてます。
 この映画で誰か一人悪役を上げろといわれたら多分この人なんだろうなあ…。最近アガメムノンのことが妙にお気に入りなので、ひどく描かれていると心が痛みます。

 原作を知らない皆さん、本当は、もっと弟思いで、威張りんぼうだけど、気の弱いところもあったりなんかあったりもする、けっこう可愛いおじさんなのよ!!

 
…とはいえ、アガメムノンとアキレウスが対立して、アキレウスが戦線離脱せんことには『イーリアス』は始まらんからな。仕方が無いのかもしれません。アキレウスとお互いに理解しあえず、話が全くかみ合わないない辺りは原作どおりで拍手喝采。多分、実在していたらこのくらい押し出しの強い濃いいおっさんだったろうな、と思います。
 この映画で、いいな、と思う事の一つは、普通なら主人公側にやっつけられる役割のトロイア方も対等に描いている点で、攻める側も守る側もそれぞれ事情も正義もある、としている点なのですが、そうする為には主人公側であるギリシア連合軍の耐え難い側面も描いておかなくてはならず、考え抜いた上でのアガメムノンのあの役回りなのでしょうが、それでもちょっと悲しいな…。


●メネラオス

 もっと悲しいのはメネラオスです。これはもう原作とは全く別人だと思ってください。
 登場人物から神々を一掃した結果として、アプロディーテの介入、という原作上の裏技を使えない以上、ヘレネーがパリスと手に手を取って駆け落ちする理由をひねり出さねばならず、そのためにああなったのだと思いますが…。メネラオスって、悲劇なんかでもひどくかかれる時は本当にひどいのよね…。そもそも嫁さんに逃げられたってだけでも不幸なのに不憫な人…。

 でも、見た目的には、アガメムノンとメネラオス、たいへんに兄弟っぽかった。ブライアン・コックスも、ブレンダン・グリーソンも好きな役者さんなので、二人並んでる絵面は大変に結構でした。ビア樽ッ腹だし、ドワーフ×2て感じでカワユイ。パリスと一騎打ちする直前の、剣を振り回している時の表情など「ふん!ふん!」という鼻息が聞こえてきそうで絶品です。…なんだ、アタシ、原作とは全然違うけどこれはこれでけっこう気にいってるじゃないの…(今、自分の心に気づいた)


●アイアース

 出てきた途端瞬殺!でも、やたらとでっかいところも、台詞のいちいちも、いかにもアイアースっぽくて大変に宜しゅうございました。ヘクトールとの一騎打ちシーンも、「めちゃめちゃ怖え!!!」と呟いてしまいましたもの。原作でも、一騎打ちに進み出てくるアイアースを見てヘクトールがびびるシーンがあるんですが、物凄く気持ちが分かりました(しみじみ)。
 死に様についても、原作ではオデュッセウスに負けた事が原因で自刃しちゃうんだけど、映画ではそうでなくて良かったと思いました。(←もう、判断基準がおかしいし)


●ペレウスとテティス

 最初から故人のペレウスと(勝手に殺すなよー)、テレビ放映時には出番が端折られてしまったテティス。やたらこの話、故人にされてる人が多いよなあ。


●パトロクロス(付ミュルミドーン勢)

 アキレウス配下のミュルミドーン勢はあんな感じかなと思います。ギリシア勢はそもそも寄せ集めなんだけれど、原作でもたしかにミュルミドーン勢はさらに他の軍勢とは毛色が違う印象があり、イメージどおりでびっくりした。
 反対に、パトロクロスは、最初に見た時にあまりの改変っぷりの方にびっくりした思い出があります。原作のパトロクロスの人となりが好きなだけにこれは残念で、「アキレウスがトウの立った世慣れた男だから年下になったんか!?でも、そんな単にちょっと可愛がってる従弟、て役回りにしたら、パトロクロスが殺された時のアキレウスの激しい怒りや、ヘクトールの死体に侮辱を加える動機が弱いやないか!!どないすんねん」…と憤ったものですが、今考えると、映画でのアキレウスの様々な振る舞い(特にヘクトールの死体に対する陵辱)などは、パトロクロスへの愛よりも、アキレウス自身の人となりの方に原因の比重を多く置いているのだろうなあ、と思い当たり、そうすると、別にあの配役で事足りてしまうのですよね(原作では、純粋にパトロクロスへの愛情ゆえだろうけどね)。
 それに、原作ではアキレウスの唯一の理解者、かつ、唯一の制止役だったパトロクロスが単なる従弟になったおかげで、友人の位置にオデュッセウスが浮上していて、原作よりも二人の間が親密なんです。だから、まあ、いいか。(←おいコラ)
 でも、原作じゃオデュッセウスとアキレウスのツーショットなんてめったに無いんですぜ!?(大体において、「あのオッサン、胡散臭い。信用できない」と思われてんじゃないかな。"二枚舌の嘘吐き野郎"(C・『イーリアス』第9歌)ですからのう…(でも否定はしない))
 めったに報われることの無いオデュッセウスファンとしては、今回本当に嬉しかったなあ…


●プリアモス

 まあ、大体原作どおりの役回りなんですが、原作では、もっと無力で気の毒な老人、といったイメージの彼が、映画の方ではなんとも気品と威厳を兼ね揃えた王として描かれとります。ピーター・オトゥールでないと、あの味は出ないんでしょうね。アキレウスの転換点をもたらす重要な役回りでもあります。
 でも、映画のプリアモスはちょっとパリスを溺愛しすぎですよ。毎回パリスとプリアモスの仲良しっぷりを後ろで見ているヘクトールの表情が、切なくって。
 ヘクトールはしっかり者だからほうっておいてもいいと思うかもしれないけど、彼だって色々つらいのよ、もっと報いてやってくれよ、プリアモス!
 …と、ここまで書いて今更気づきましたが、そういえば、ヘカベー(トロイア王妃)が全然出てこなかったな…。アキレウスの父親のペレウスと同じく、最初から故人にされてるのかしら…。(カッサンドラー以下兄弟姉妹たちの存在も抹殺されてるし)

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