やすら木

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こどもの日に寄せて

2018-05-05 13:42:30 | エッセイ・コラム


 安曇野に越してきた頃、行きつけの青果店で、目のぱっちりした可愛い赤ちゃんを抱いた若いお母さんとよく顔を合わせた。赤ちゃんの名を「花子ちゃん」としよう。花子ちゃんはすくすく成長し、手を引かれて散歩に来るようになった。彼女には近所に住む仲良しの男の子がいた。彼の名を「太郎ちゃん」としよう。
 ある日花子ちゃんと太郎ちゃんは青果店で顔を合わせた。花子ちゃんは同じ年の太郎ちゃんが大好きのようで「太郎ちゃん。今日遊べる?」といった。ようやく歩くようになった女の子と男の子では言葉の発達において歴然とした差がある。太郎ちゃんは「うー」と言ったきり黙っている。「ねえ太郎ちゃん。いつ遊べる?」たたみかける花子ちゃん。「あー」と返事をする太郎ちゃん。彼の頭の中では2つの質問がぐるぐる回っているようだった。「太郎ちゃん。きょう都合悪い?」さらに追い打ちをかける花子ちゃん。
 みかねたお母さんが「花子。しつこくしちゃだめでしょ」と助け船を出した。そして次の瞬間、花子ちゃんのひとことに私は吹き出した。
「太郎ちゃん。しつこくてメーワク?」
「迷惑」この言葉を太郎ちゃんは理解できただろうか。彼の頭はもはやパニックに陥っているようだった。
 時は流れて数十年。ふと、あの微笑ましいやりとりをしていた2人はどうしているかと青果店の奥さんに尋ねてみた。すると、都会に出て同じ会社に就職し、結婚し、家を建て、子供もいる、ということだった。
 驚いた私の心に「青いレモン」という言葉がある、幼なじみを題材にした歌が浮かび、初夏の風が吹きぬけた。
 花子ちゃんと太郎ちゃん、いつまでも仲良く幸せにね。


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