背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

偶然

2008年11月20日 00時24分02秒 | 【図書館内乱】以降


「あ、雨……」
柴崎は、コンビニの窓に打ち付ける雨粒で外の天気を知った。

怪しい雲行きではあった。降水確率も、予報では高かった気がする。
でも図書館と寮の間を行き来するだけなら、傘を持つまでもないかなと思って、朝出かけた。今日コンビニ寄るのは、イレギュラーだ。郁が珍しく熱を出して仕事を休んだため、仕事帰りにアイスだの栄養ドリンクだの買っていってあげようと図書館を出るときふと思い立ったのだ。

雑誌のラックに移るふりをして、外の様子を探る。
雨脚は一気に強まってきた。にわか雨かもしれない。もう少しここで時間をつぶせば、止むか小降りになるかも。
でもその時間がもったいないわね……。
普段不必要なほど元気なため、寝込むとてんで気弱になる同室の顔が脳裏にちらつく。
しようがない。500円ガサを買って帰るか。
無駄な出費とは思いつつ、背に腹は替えられぬ。柴崎はドア口付近に並べられた、半透明なビニール傘を一本抜き取り、レジに清算に向かおうとした。
そのとき。

あれ?

急な雨にたたられて駆け足で街を行く人の姿に混じって、見慣れた歩き姿の男がコンビニの軒先から中に入ってくるのが見えた。
紺色の傘をざっと畳んで、片手に持っている。

「手塚」

自動ドアが開けきらないうちに、柴崎はつぶやく。
手塚は「よう」と目で会釈した。
制服だった。勤務明け、自分と同じように基地から最も近いこのコンビニに立ち寄ったことが分かる。
肩先が雨滴を吸って少しだけ湿っているのが見えた。
どうやら傘を差すのはあまり得意じゃないらしい。

「偶然ね。買出し?」
「ん。まあな」

そっちは、と尋ね、籠の中の品物のラインナップをちらりと見てすぐに察した様子。

「笠原?」
「うん。あの子の好物ばっかでしょ」
「みたいだな」

もちろん手塚も郁の病欠は承知している。
彼は何と言い出そうか少し迷った風に言った。

「会計。半分俺も、出していいか」
「え? なんで」
「見舞いだ。仕事しこたま溜まってるから、早く治して来いって伝えてくれ」

柴崎は苦笑する。

「それって余計寝込みそうな伝言じゃない?」

手塚は「かもな」と笑って、柴崎の腕に引っかかったビニール傘をひょいと取り上げた。

「あ、それはあたしの」

と言いかけた柴崎を遮る。

「買うことないだろ。帰り道は同じなんだから、入っていけよ」

手塚は目で自分の傘を指し示した。
先から数滴、しずくがしたたっている、夜色の傘。
男物の、シンプルなデザイン。大事に長く使い込んだものなのか、持ち手のところには細かい傷がいくつかついているのが見えた。

「お前が、俺と一緒のが嫌でなければだけど」

付け足しのように言う。
相合傘という言い回しを微妙に避けたあたりに、柴崎は微笑った。

「ラッキー。500円得しちゃった」

「そりゃよかったな」

手塚はそういう言い方をされても、気を悪くもせず、彼女が選んだ傘を元の場所に戻した。

「さ、会計済ませちまおう」
「え。あんたの買い物は?」
「ああ……。今日は特にないかも」
「……」

籠をレジの人に渡しながら、柴崎は隣の男を見上げる。
雨の、清冽なにおいをさりげなく纏った男を。

「……ねえ、手塚」
「ん?」
「……あんたと今ここで会ったの、ってさ。本当に偶然?」

ピ、ピ。
バーコードを読み取る音が、手塚の逡巡を埋める。
彼はそれには答えなかった。
柴崎もそれ以上追及しなかった。

偶然でも、傘を持たない自分を気にかけて帰りしなこの男がここに寄ってくれたのでも、どっちでもいいという気がした。
なんとなく。

「2480円になりますー」

不自然に語尾の延びた、高校生くらいのバイトに半額ずつお金を渡し、二人はコンビニを出た。
当然のように手塚が袋を持つ。自分の鞄は小脇に抱えて。
器用に、片手で傘を開いて見せた。
柴崎が空を見上げると、さっきよりも大分雨脚は弱まっていた。
このぐらいの強さなら、寮までは走れば5分もかからないからさほど濡れないだろう。
実際、往来を行きかう人の中には、傘を持っているのに、そっと畳みはじめる者もいた。
でも、そのことに二人は気がつかないふりをした。手塚は黙って傘を柴崎に差しかけ、柴崎も「ありがと」と身を寄せた。

笠原が倒れるなんて鬼の霍乱。だよな、教官もそう言ってた。えーそれってショック受けそう、チクッちゃおうかな。やめとけよ、出てきて上官と同期がいきなり不和なんて俺が困る。などど、郁をダシにして他愛もないおしゃべりをしながら、相合傘の二人は寮までの道のりをゆっくりと歩いた。いつもよりもずっと遅い歩調だった。

まるで時間稼ぎをするみたいに。

fin.

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4 コメント

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リハビリ ()
2008-11-20 01:27:01
自分で言うのもあれですが、、、
短いのを毎日書いてたら、
なんとなく図書館の二次創作を書くやり方を思い出してきました(爆)
連載のためのウオーミングアップって感じです。
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復活に感謝 (utena)
2008-11-20 10:08:41
手柴SS、また始めて頂けて嬉しい限りです。
安達様の書く手塚がとーっても好みなので。
別冊Ⅱ前の頑なで有能で育ちの良い手塚も、Ⅱ以降の攻め姿勢の手塚も素敵です。
そしてこんな微妙な距離感の手塚と柴崎も愛しくって良いですねぇ。傘の陰にこんな美しい二人、何をやっても絵になりますね。
今後の連載、楽しみにしています。
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おおおお (たくねこ)
2008-11-20 10:51:57
ストーカー手塚(爆)
いえいえ、予想がついたんですね、
柴崎がそうするって。
こういう「言わずもがな」っていう二人、
大好きです!

そして連載の二文字…
わくわくわくわく…
返信する
さぞかし絵になる相合傘 ()
2008-11-20 20:56:30
だろうと思います。。。
私には傘を小道具にした話が多いのですが、この話も派手さはないものの好きな一作となりました。

>utenaさん
拍手でもコメントどうもですv うちの手塚、好みと言っていただけると気恥ずかしいですが嬉しいです(照)この二人は距離感が命なんですよねえ… 甘すぎてもだめだし、素っ気無くても面白みがないという、、、難しい、そして書き甲斐のある相手ですよね(^^;

>たくねこさん

そっか! ある意味ストーカーか!手塚。
アブナ~イ…
でも彼なら許せるのは私が「見守り隊」一員だからかな!?
連載はクリスマスモノです。もう少し時期が迫ったら始めようかなーと思ってます。
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