堂上班最大の危機

堂上一正、小牧一正、お忙しいところ申し訳ありません。折り入ってご相談があります。プライベートなことなのですが、よろしいでしょうか。

なんだ？
なんだい？　いいよ。言ってごらん。

はい。
そのう、実はずっと前から気になっていることがあって。
気になっていると言うか、一度やってみたいというか。簡単なようで、なかなか実現させられなくてなんだか歯がゆくて、俺……。

ふんふん、何？

……例えばですよ。
一日じゅう、それこそ２４時間、ずっと部屋に籠もって、どこへも出かけないで、柴崎と抱き合っていちゃいちゃしたい。
――って俺が言うと、「ムッツリ」ですか？　引かれますか？　　こういうことって、心の中で思ってても、やっぱり相手には伝えない方がいいんでしょうか。
――って何で突っ伏して笑ってるんですか小牧一正！

ご、ごめ、ツ、ツボった……。
いやー実際どうなんだろうねえ。どう思う？　堂上。

お、俺か？　俺に振るのか、それを。

ぜひ既婚者として悩める若者にアドバイスをどうぞ！　一正の視点から！

……いや。俺は別に「ムッツリ」だとは思わんが。
というか、男に生まれ、健康に育ち、惚れた女が身近にいたら、誰でも一度ぐらいはそんな風に思うんじゃないのか。べつに普通、なのでは。

そうですか……。よかった。

でも何でそんなこと改まって訊くんだい？　手塚。

え。……はい。
休みの日とか、柴崎と一緒に出かけるのは嬉しいんです。寮を一緒に出ても、誰にも冷やかされなくなりましたし。手をつないで駅まで行って、電車に揺られて目的地へいく時間も個人的に好きです。

個人的、かあ。硬いなあ手塚は相変わらず。
もっとこう砕けた話し方してもいいんだよ？　今プライベートな話してるんだからさ。

はあ……。ありがとうございます。
柴崎と映画や海やファッションビルに出かけたり、美術館やアトラクに行ったりするのは楽しいです。あいつ、知識も広いし、絶叫系も大好物ですから。で、遊んだあとは、美味いって口コミの店に寄って食事して。胃袋満たしていい気分になったところで、夕方、予約しておいたホテルにチェックインする。

「おとまり」コース、だね。

はい。大抵、休みの日はそんなコースです。楽しいんです。確かに楽しいんですけれども。なんというか、こう……。

うんうん、分かる分かる。言いたいことは。

そういやお前いつも土曜は外泊届け出してるもんな。

……すいません。

うっわ、真っ赤だよ手塚。大丈夫か。酒、そんなに飲んだ？　もう回った？

――別に謝ることでも恥ずかしがることでもないだろ。外泊は届けさえ出せば全ての隊員に与えられる権利なんだから。

はい……。

で、話を戻すけど、そういうデートにちょっと飽きちゃったって訳？

飽きた、っていうと語弊があるんですが。
うーん、なんかうまく言えないんですが、最近は休みの日、玄関で靴を履くと、寮出たところからがーーってホテルに入るところまで早送りしたいなあなんて思う自分がいてびっくりするんですよね。

あはは。一刻も早くホテルに入っちゃいたいってことか。

……あけすけなく言えば、そうなります。

なあ。いっそのこと、二人で寮を出なければいいのでは？

………………堂上。いくら横紙破りのタスクフォースの俺たちでも、手塚と柴崎さんに、寮内でヤレ……失礼。いたせ、なんて口が裂けても言えないよ。

そ、そうか、そうだな。

あー、なんか酒回ってきた。
とにかく、デートにまつわるもろもろも柴崎となら幸せです。幸せなんですけど！　でも、たまに、一日でいいから、朝から部屋に籠もって、日がな一日柴崎とずーっと一緒にいるっていう休みもあっていいのではないかと！　手塚三正は思う次第であります！

うっわ、完全にイッちゃってるよこの青年は。
可愛いねえ。手塚、齢２８にして、まだまだ初心、って感じだね。

……あのな、一言言わせてもらうが。
その、今言った手塚の願望？　ってか雄たけびな、割とすぐに叶うぞ？

ええっ。

わー、ある意味問題発言。
っっそーなんですか？　堂上一正！　

うん、叶う。結婚すれば。休みの日は朝から晩まで家で一緒だ。

けっこん……。

おいおい、不純な動機で青年に結婚焚きつけるのやめなよ堂上。いまの手塚だと、このまま女子寮に駆け込んでプロポーズしかねない勢いだよ？

不純、かねえ。俺は至極まっとうというかストレートに思えるがな。
好きな相手と朝から晩まで一緒にいていちゃいちゃしたい。そういうのって結婚の理由にしちゃダメなのか？誰かと結婚する意味って、案外そういうシンプルなところにあるんじゃないのか？

おおおお、乙女発言だよ。堂上からオトメ出た！！　誰かおい、座布団もってこい！手塚、そこの座布団取って。

どうじょうきょうかん！

な、なんだ、手塚（完全に目が据わってるぞコイツ）……。

決めました！　俺、今から柴崎に求婚してきます！　そうなんですよね、あれこれ難しく右脳左脳で考えてもダメなんですよね結婚て。脊髄通さずに感覚で動いた方が正解のときもありますよね！

うっわ、マジで。この展開ありえねえ～。

よし、思い立ったが吉日だ手塚。今から柴崎に言って来い。言って真のをとこになって来い！

はいっ！

ちょっと待って。――手塚、プロポーズの言葉、何て言うの。ちゃんと考えたの？　ここで言ってごらん。

はい。
「柴崎、朝から晩まで二人で部屋に籠もっていちゃいちゃベタベタして、セックスしまくりたい。だから俺と結婚してくれ！　頼む！」ですっ。

うわ～、面白すぎて頭イタ……。ってか、最悪！　柴崎さんに殺されるよ！　女の子にとっての一生の宝物がそれ？　それになんの？　いーの？　それで。

よし、行って来い、俺が赦す。手塚。

ええーっ。そこでＧＯサインってどうよ、堂上！

分かりました、教官。では行ってまいります！

あああああ、最敬礼して、行っちゃった……。
誰かあいつを止めろ。――そうだ、笠原さん、じゃなかった堂上妻、来てくれ。玄田隊長も！
こいつらを、手塚を止めてくれ。血の雨が降る前に。
堂上班最大の危機だよ！！　

Fin.

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