背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

最強

2008年08月20日 16時47分29秒 | 【別冊図書館戦争Ⅱ】以降

書庫にこもって残務整理の最中。
「ああ……腹減った」
かがみ込んでダンボールを開封していた手塚が、ため息とともにそう漏らした。
「言わないで。暑い時に暑いっていうと、ますます暑く感じるみたいに、そう言われるとなんだかますます空腹感が増す気がするから!」
郁がきーっとヒスをこらえる。
「もう8時だもんなあ」
言って、手塚は恨めしげに掛け時計を見上げる。8時を回ったのはあたしのせいではありませんよ、と言いたげに時計は素知らぬふりだ。
「柴崎、確か今夜あんたとデートで外飯とか言ったけど。いいの? こんなとこにあたしといて」
「よくない。――けど仕方ない」
仕事だからな。そう言い切る割に、俯いた横顔はしぶい。
「残業入ったから予定キャンセルな、って電話したら、それはそれは冷たーく切られた。携帯が凍るんじゃないかと思った」
……あー。それは。
ドライアイスの塊を握る思いだっただろう。(実際に握ると冷たいんじゃなく熱いけど)
郁は手塚に同情を隠せない。
「ごめんねえ。篤さんいきなりだもんね」
上官の命令とあらば、部下としては残業は致し方ない。でもその上官が自分のだんな様であるだけ、複雑な心境だ。
もちろんこうやって郁たちが居残り業務をしている間、命令するだけ命令しておいて、上役だからとっとと帰る、ということは絶対にせず、部屋で待ってくれている。必ず。そういうところは有難いし、さすがだと思う。それは堂上だけのことではなく、きっと小牧も一緒だが。
……そして、玄田隊長はおそらく100%に近い確率で、既に帰宅してしまっただろうが。
「お前が謝ることじゃない。これ、整理しないと明日の貸与業務にも支障が出るし」
「そうだね」
郁も手塚の脇に膝をついてダンボールを開けた。言おうかどうか迷ってから、手塚の横顔に声をかける。
「柴崎も、ほんとはそんな怒ってないと思うよ? こっちの事情誰よりもよく知ってるはずだし」
「分かってる」
短く答える。
「怒り半分、しかたないが半分、ってとこだろうな。こういうとき、女の立場としてはとりあえず怒らなけりゃ様にならないとでも思ってるんだろ」
そう言う手塚の口元には笑みが優しく引っかかっていて。
思わず郁はへええ、と内心唸った。
「柴崎のことちゃんと分かってるんだねえ、手塚。感心する」
「馬鹿、何言ってんだ。当たり前だろ」
「……カレシだもんね?」
からかう口調で下から目で掬ってやると、その端正な顔が強張った。じろりと物騒な視線を向けられる。
「殴られたいか。ちゃんと手を動かせ」
「はーい。分かってるよ」
郁は悪びれずに舌を出し、作業を続けた。ふと案が浮かぶ。浮かんだら口にせずにはいられないタチだ。手を止め、
「ねね、これが終わったらご飯食べに行こうよ。みんなで。ラーメンとか」
と誘った。
「みんな?」
「うん、篤さんや小牧教官も誘ってさ。柴崎も寮から呼び出して、一緒に食べよう?」
「あー……」
郁の提案に手塚はすぐに飛びつかない。自分たちの仲直りのために一枚噛んでくれようとしているのは分かる。が、それでも性格上一旦頭を通してシュミレートしてしまう。
「でももうあいつ、食べてしまってるんじゃないか。この時間だと」
「食べてない方に【小峰亭】のタンメンいっぱい賭けるけどどお? 乗らない?」
郁がふふんと不敵に笑って指を一本突き立てる。
「柴崎はあんたがまだ仕事してるって分かってて、自分だけ先に飯を食うような女じゃないわよ」
「……でも、寮なら夕食の時間が決まってるだろ」
「だからあ、今夜はあんたとディナーの約束だったんでしょ? ドタキャン入って最高潮にふててる時に、今さら寮でなんか食べる気になると思う?」
「……それもそうか」
「誘って出てくるほうに、一票!」
悪くない。
手塚はぼそりと呟く。
「じゃあ賭けてみるかな」
「そうこなくっちゃ」
郁が指を鳴らした。
「お前は食わないで出てくるほう。俺は、【あいつが飯をちゃっかり食った上で、なおかつラーメン屋の誘いに応じる】に一票だ。どうだ?」
柴崎なら自棄食いした上でさらに自分にラーメンを奢らせようと乗り込んでくるかもしれない。自信たっぷりの手塚の笑顔に、郁はあああああと素っ頓狂な声を上げ、頭を抱えた。
「そっか。その選択肢があったかああ。鋭い。鋭いよ手塚、さすが!」
「だから当たり前だって言ってるだろ」
俺を誰だと思ってるんだ。
あいつの恋人だぜ?
――そう言い掛けて、慌ててストップ。すんでのところで言葉を呑みこむ。
やばい。この能天気な同僚といると、言わなくていいことまで口にさせられてしまいそうになる。危ない危ない。
そんな手塚の内心の焦りに郁は全く気づく様子もなく、エプロンのポケットに入れておいた携帯を取り出して、「今から柴崎に電話して確認してみる!」と息巻いた。
「あ、余計な雑音入れるなよ。上手く聞き出せ」
「分かってるよ。任せといて」
メモリから柴崎の番号を呼び出し、郁は通話ボタンをえいっと押した。



――結局。
手塚も郁もタンメンのおごりにはありつけなかった。
どちらも読み違い。はずれ。
柴崎いわく、
「どうせあんたたちのことだから、お腹すいて残業に行き詰ったところでラーメン屋にでも行こう! ってことになると思って、こっちで張ってた」
とのこと。
郁が電話したとき、既に彼女は指定のラーメン屋【小峰亭】にいた。そして、5人分、席を取ってあるからちゃっちゃっと仕事終わらせて来なさい、と言う。
おかしな賭けなんかしてる暇なんてないんだからね、とこっちの様子をまるで目の前で見ているかのようなぶっとい釘もひとつ刺し。


……恐るべし柴崎。
この女には適わない。手塚も郁も、改めてそう痛感し、慌てて仕事を再開した。

Fin.

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1 コメント

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麻子さん素敵 ()
2008-08-20 21:52:06
手塚結婚後尻に敷かれるのは火を見るより明らか。
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