背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

トモダチ

2008年08月19日 15時23分26秒 | 【別冊図書館戦争Ⅱ】以降

「いいなあ」
「ホント絵になるよねえ」
「何見てるの?」
二階の廊下。吉田と安達が窓におでこを貼り付けて、窓の下を眺めている。
ここは旭山動物園かと突っ込みを入れたくなるその格好に、思わず後ろから会話に入っていった郁。
「あ、堂上三正」
後ろにハートマークを散らせて、安達が振り向く。う、やっぱ声かけるんじゃなかったと思うがあとの祭り。早速場所を空けて郁を真ん中に据える気の使いようだ。
「何してたのよ。なんか面白いもんでもあんの?」
「面白いことはないんですけど、ハイ」
吉田が微妙に位置をずらした。フン、鬼教官だったあたしが寄ると怖いってか、と内心くさる。
「あの、合歓の木の下に手塚三正と柴崎三正が」
言われて中庭を見ると、確かにふたりだ。
手塚は戦闘服。今日は訓練日だから。郁と同じだ。
柴崎は制服姿。たぶん休憩時間なのだろう。メールか何かで連絡を取り合い、あそこで落ち合ったのだ。
あーそうだよねー。微妙な距離をおきつつも、リラックスした感じで立ち話をしている手塚と柴崎を見ながら、郁は思い出す。
付き合い始めの頃って、ちょっとでも時間あったら会いたいし話したいんだよねー。
あたしは篤さんと部署が同じだったから比較的話はできたほうだと思うけど、二人は意識的に連絡取り合わないと、朝から晩まで会えないってこともあるんだもんなあ。
その点、恋愛期間中あたしは恵まれてたほうかなー。でもああやって寸暇を惜しんで会ってる二人もなんかいいよねー。
なまあたたかい眼差しを窓外に注ぐ郁に怯んだか、吉田がそうっと口を開いた。
「さっき安達と言ってたんですよ。やっぱお似合いだねって」
「やっぱし柴崎三正くらいの美人なら、手塚三正レベルの男じゃないと様になりませんよねえ。他の男子ってば、お二人が付き合いだしてから手塚三正にうらみつらみ言ってますけど、あんたたち身の程を知れって感じですよ」
安達は可愛いナリして言うことはキツイ。
郁は苦笑した。
「ばっかお前それを言うなら手塚三生だろ。あのひとエリート中のエリートだぞ? しかも家柄もルックスもいい。生まれながらのサラブレッドだよ。あの手塚三正に釣り合うのは、それこそ才色兼備の柴崎三正くらいしかいないだろうが」
吉田が憤然と言い返す。
「まあねえ。ほんと、これ以外ないって組み合わせですよねえ、あのカップル。そう思いません? 堂上三正も」
「そうだね」
郁は頷いた。
「でもね。手塚は柴崎が美人だから好きになったんじゃないし、柴崎も手塚がエリートだから好きになったんじゃないとあたしは思うよ?」
あいつら見てくれがいいのは確かだけどさ、と続ける。
「二人ともあんたたちが考えてるほど打算的な人間じゃないよ。それはあたしがよく知ってる。あの二人はどっちかっていうと、かなり不器用なタチでさ。……それはそれは、もう~ホントに!」
話しているうちに、以前のあれやこれやが胸の中に蘇ってきたのか、郁は複雑極まりない顔つきになった。
「ど、堂上教官……?」
思わず安達が郁の顔を覗き込む。吉田はなるべく郁との距離をキープしている。ライフガード最優先だ。
「とにかく」と郁は顔を上げた。
「手塚も柴崎もお互いの見てくれとかで相手を選んだんじゃないってこと。似合いすぎるせいで周りは羨むし、ひがむ人も結構いるけどさ、そこんとこはあんたたちだけでもあたしに免じて分かってあげて?」
「――はい」
郁の言うことなら素直に耳に入る安達と、かつての教官で苦手意識がばっちり刷り込まれてある吉田の組み合わせは、その言葉に大きくあごを引いた。
「よし! いい子だ二人とも!」
郁が左右の下士官の頭を乱暴にかいぐる。
吉田はひええとおびえた声をあげ、安達はいや~ん嬉しいですうとしなを作った。
郁の目の下には、穏やかな表情で会話を楽しむ手塚と柴崎がいる。
郁はそっと思う。

――そうだね。たとえば柴崎がとびきりの美人でなくて、有能でもなくて。手塚が同期の出世頭なんかじゃなくて、エリートじゃなくても。
きっとあんたたちは、必ずお互いを見つけたよね。多くの出会いの中から。どれだけ時間をかけてでも。
手塚は柴崎を。柴崎は手塚を。
絶対。
そうやって寄り添うあんたたちを見てると分かるよ。痛いくらい。


ふとメロウが入りそうになり、郁は吉田と安達に「さ、ちょっと体動かしに行こうか」と慌てて水を向け、窓から引き剥がした。
はいっお供いたしします!と意気軒昂な安達と、勘弁してくださいよーと既に泣き声の吉田。
案外、この二人が近い将来くっついちゃたりしてね。――ふとそんなことを思ったが、口に出すのは今はやめておいた。

Fin.

web拍手を送る



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 君を見てる | トップ | 堂上班最大の危機 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

【別冊図書館戦争Ⅱ】以降」カテゴリの最新記事