「リーピング」 (2006年・アメリカ)
監督:スティーブン・ホプキンス
出演:ヒラリー・スワンク/デビッド・モリッシー/イドリス・エルバ
暇つぶしに入った平日の映画館は閑散としていて、わたしを含めてほんの数人の観客しかいなかった。いくら上映館が駅から遠いとはいっても、週末の公開から3日目にして劇場が閑散としているのはおかしい。なにか来てはいけない場所に身を置いているような気がしてきて落ち着かない。もし後ろのドアから、ポケットに刃物を忍ばせたお客が入ってきたら・・・・・・と、めずらしくおかしな妄想に悩まされた。
落ち着かない気分は映画が始まっても続いた。上映前の妄想を差し引いたとしても、この映画の何かがわたしに居心地の悪さを感じさせている。それは血に染まった川でもなければ、少女を取り巻くイナゴの大群でもない。冒頭で感じた失望感がそのまま持続しているにもかかわらず、シートに座り続けていることから来る居心地の悪さ、とでもいうのだろうか・・・・・・。
ヒラリー・スワンクは、ある種の重力を感じさせる女優だ。この映画でも彼女の存在感はひときわ光輝を放っている。神に離反した元牧師で、なおかつ超常現象にメスを入れる科学者としての「確かさ」の裏には、家族を襲ったすさまじい悲劇があり、そこに悲壮な決意が宿っていることが見てとれる。しかし物語の展開は、科学者としての彼女のスタンスを真っ向から否定する方向へと進んでいく。ヒロインの進む方向を物語自体が否定していくという展開は、この映画の場合、いかにもあざとく感じられて好感がもてなかった。
さらに、次々と描かれるオカルト現象が旧約聖書の十の災厄というのも、ありきたりで興味を削がれる。少なくとも日本の観客には、原理主義者の信じる奇跡や天使の降臨や悪魔崇拝の狂信集団というのはピンと来ないのではないだろうか。リアリティのある恐怖とそうでない恐怖があるとすれば、ここで描かれている現象には現実感をともなう怖さが少しも感じられない。恐怖は見えないことから発するのであって、一連の謎がこうも説明的に描かれてしまうと、ほんとうに見も蓋もない作品になってしまう。
悪魔と噂される少女の不気味さが、ラストであっけなく一転してしまうのはいかがなものか。それまでの布石がすべて観客を騙すための演出だったとわかったときの気分は、あまりいいとはいえない。安っぽい手品を見せられたようで、少しムッとした。来てはいけない場所に身を置いたような気分になったのには、やはり理由があったようだ。
満足度:★★★★☆☆☆☆☆☆
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■映画公式サイト「リーピング」