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オール・ユー・ニード・イズ・キル◆ゲーム感覚のタイムループSF

2014-07-13 09:45:48 | <ア行>


  「オール・ユー・ニード・イズ・キル」 (2014年・アメリカ)
   EDGE OF TOMORROW


弁は立つが腕は立たない一人の臆病な中年男が、放り込まれた戦場で過酷なプレイを繰り返しながら確実に経験値を上げていき、最終的には大ボスを倒して地球の危機を救う、というまるでRPGのような映画がこれ。舞台は近未来の地球。「ギタイ」と呼ばれる宇宙からの侵略者によって欧州は激戦の地となり、戦況はのっぴきならない段階を迎えている。広告業界出身の軍の報道官、ウィリアム・ケイジ(トム・クルーズ)は最前線でのレポートを命じられるが、もとより実戦経験はなく、怖気づいた彼は命惜しさに将軍の命令を突っぱねる。しかし結果は――報道官どころか一新兵として地獄の戦場へ送り込まれてしまう。冒頭から英雄を演じるのが定番のはずのトム・クルーズが、この臆病者のダメ男になりきるあたりから観客はこのゲーム、いや映画にのめり込む。

実写と遜色のないグラフィックが売りのゲームが、実際に開発されているのかどうか、私は知らない。けれども、もしそうしたゲームがあったとしたら、この作品のような感じになるのかもしれない。まるでゲームをリセットするように、メインキャラクターは何度も死んでは生き返る。しかも前回のプレイを通して、確実に経験値は上がっていく。なぜか? 地球を侵略するギタイには、死ぬ間際に時を超えて過去の仲間に警告を発する能力を持つ種がいるらしい。ケイジは初回の戦闘でこのタイプのギタイの血を浴びたことでタイムループに囚われ、以後幾度となく初日へ戻されてしまう。しかも前回のループで得た経験は消えることなくケイジの血肉となっていく。これが、この映画のゲームめいた世界観を支える起点であり、からくりだ。

ケイジが戦場で出会う伝説の女性兵士、リタ・ヴラタスキ(エミリー・ブラント)は、ケイジと同じくループに囚われたが、戦闘で負傷して輸血を受けたためにリセット能力を失っている。このふたりが協力して行う対ギタイ戦の訓練はユーモラスに描かれているものの、生身の新兵が‘兵器’へと生まれ変わるための過酷なシーンもある。ループ戦を繰り返すうちにケイジはリタの死を幾度となく経験するが、新しいループの中ではリタは常にケイジと初対面だ。この落差がケイジの感情に微妙なゆらぎを与えていて、とても興味深い(つまり萌えるのです)。

原作は桜坂洋の小説「オール・ユー・ニード・イズ・キル」。日本のライトノベルのハリウッドでの映画化は、もちろん初の快挙。キャラクターたちが身に着ける数十キロもある機動スーツはデザインがリアルで、重量感のある戦闘シーンは見もの。ギタイ戦での勝利だけに集中するリタのキャラクターも抑制が効いていて、とても好ましく感じた。監督は「ボーン・アイデンティティー」のダグ・ライマン。「ドニー・ダーコ」、「バタフライ・エフェクト」、「ミッション: 8ミニッツ」などタイムループ系の傑作に、また新たな一作が加わった。



満足度:★★★★★★★★☆☆



<参考URL>
   ■映画公式サイト 「オール・ユー・ニード・イズ・キル」
  




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