読了。面白かった!
実はこのシリーズ、前巻と前々巻とが続けざまに期待はずれな出来だったので、読む気が失せ始めていたシリーズでした。しかしまあ、そろそろ終わりそうな雰囲気ではあったので、最後まで付き合ってみようかと今巻も購入したのですが・・・・・・
うおおおおーっ! 面白いじゃないか!
ちょっとだけ読んでみようとページをめくったら、一気に最後まで読んでしまった。むう。
どうやら次巻で最終巻らしく、それを考えるとシリーズ全体では不満が残りそうなんだけど(結果的に不要になってしまったキャラクターが多すぎるね!)、ラスト一冊は非常に盛り上がりそうです。おそらく、「恋する爆弾」と「荒縄の姫君」と並ぶ出来になりそう。
今から期待です。
では以下、ネタバレ感想です。
読んで最初に思ったことは、ファンタジーから御伽噺にシフトしたな、ということ。
今までは魔法や神様が出てきてはいても、その中でこの小説世界独自の人間社会が描写されていたと思うのですが、ルルタの過去話においては完全にステレオタイプの王政となり、ステレオタイプの神様となっていました。もちろんコレは作者が狙っている効果ですから(作中の扱いでも、ルルタ時代は古代だからね)、それは悪いことではありません。むしろGOOD(余談ですが、神の力を“良心の声”とダブらせたのが非常に私好みでした。現代の小説の外の世界にも神様の声がある……そう語りかけてくる点も、なんとも御伽噺的です)。
過去の話に関して、この定石どおりのシンプルさが、作者のストーリーテラーとしての力量を表していると思います。定石を定石のまま書き切り、尚且つ読者を満足させるというのは相応の実力が必要だと私は常々思っているのです。特に今巻はそのシンプルさの中に今までの伏線の答えが散りばめられている。メインのストーリーは単純明快ながら、読み進めるにつれて頭の中のもつれていた糸が次々とほぐされ解かれていくのは心地よい感覚でした。
最初に出てきたキャラクタたちにも意表をつかれました。何故いまさらこんな雑魚キャラを3人も出してくるのかといぶかしんだのですが、進むにつれて納得。この三人は滅私奉公を行った人間達なんですよね。彼らの視線から(ウインケニーだけしか問い掛けられなかったけど)ルルタの現在の行動を見せ憤りを与え、しかる後にルルタの行動に同情させる。この三人を使っての読者操作は非常に上手かったな、と思いました。
そしてこの時点で既に登場を果たす、今巻最大最後のサプライズゲスト、コリオ君。いったい誰がこのような形での彼の復活を予想しえたであろうか。コリオとハミュッツ、二人の主役で始まった物語は、今まさに始めに戻ってきた。果たして彼がルルタの問いにどのように答え、ハミュッツとルルタの最終決戦にどのような役割を果たすのか、興味は尽きません。ま、またもやハミュッツはコリオに負けるんだろうな。多分ルルタでさえも、コリオには勝てない。それがどんな形になるかはわからないけれど。
ただ私自身の予測としては、コリオはルルタと違い、愛する人を守るために強くなったのではなく、既に愛する人が居ない世の中で、愛する人と出会うため……愛を手に入れるために強くなった人間です。愛する人といっしょに居られないと分かっていても、愛に全てをかけられた人間です。その辺りがルルタとの違いとなって、何かを表すのではないかと思っています。
別れないための強さではなく、出会うための強さ。失うことを恐れる強さではなく、得るための強さ。
どちらが正しいかなんてどうでもいい。ただそれぞれ違った形の愛情が交わった時にどんな化学反応が起こるのか、作者はどんなものを見せてくれる気なのか、私にはそれが楽しみです。ま、全然的外れかもしれないけれど。
それとこの予想の延長線上で、ひょっとしたらコリオ君とシロンが次巻で出会うこともあるのではないかと私は疑っています。
そもそもコリオがシロンを知ったのは、“本”によって。そしてこのルルタの仮想臓腑は喰われた本の人間が、形を持って現れることが出来るのですから……シロンの本がコリオと同じくルルタに喰われていたのならば、仮想臓腑内でシロンとコリオが出会えてもおかしくない。
ただしその場合、二人には非常に辛いことになるでしょうね……ルルタの仮想臓腑が消える時が、やっと触れ合えた二人の、別れの時なのだから。むしろ、コリオの何らかの言葉に対して、ルルタがコリオの覚悟を試すため、或いは揺さぶりをかけるために、ルルタがシロンを臓腑内に生じさせるかもしれません。
それはそうと、ヒハクの「殴打ありがとうございました!」は上手いと思いました。
ヒハクの視点で読者に「ルルタに導かれて改心・強くなった」と植えつけておいて、ニーニウ視点で「気味が悪い・異常」と反転させる。またそれは正常だった人間が、愛情によって正しく導かれたのに、異常に嵌まり込んでしまうという「ルルタのその後」を暗示させることにもなっている。そして、なにより、善良なニーニウの視点も一面を捉えているに過ぎず、全能ではないということを伝えている……ような気がします。
ヴーエキサルだって、読者から見たその行いは邪ですが、視点を変えれば……ということなのです。我々読者が彼を悪だと決め付けているのは、現代の倫理観と、それを保障する作中の未来神やルルタの言葉によってなのですから。そしてそんな現代の倫理観は、ルルタを崇拝し軍国主義的なまでに一体化している作中の王国に比べてマシなんでしょうかね? 良心という名の神の言葉が聞こえていない点では、さして変わらない気もします。とちょっとシニカルに言ってみる。
なんにせよ、次がラスト。すっぱりと延命も無く終わりそうですし、期待して待つことにします。
実はこのシリーズ、前巻と前々巻とが続けざまに期待はずれな出来だったので、読む気が失せ始めていたシリーズでした。しかしまあ、そろそろ終わりそうな雰囲気ではあったので、最後まで付き合ってみようかと今巻も購入したのですが・・・・・・
うおおおおーっ! 面白いじゃないか!
ちょっとだけ読んでみようとページをめくったら、一気に最後まで読んでしまった。むう。
どうやら次巻で最終巻らしく、それを考えるとシリーズ全体では不満が残りそうなんだけど(結果的に不要になってしまったキャラクターが多すぎるね!)、ラスト一冊は非常に盛り上がりそうです。おそらく、「恋する爆弾」と「荒縄の姫君」と並ぶ出来になりそう。
今から期待です。
では以下、ネタバレ感想です。
読んで最初に思ったことは、ファンタジーから御伽噺にシフトしたな、ということ。
今までは魔法や神様が出てきてはいても、その中でこの小説世界独自の人間社会が描写されていたと思うのですが、ルルタの過去話においては完全にステレオタイプの王政となり、ステレオタイプの神様となっていました。もちろんコレは作者が狙っている効果ですから(作中の扱いでも、ルルタ時代は古代だからね)、それは悪いことではありません。むしろGOOD(余談ですが、神の力を“良心の声”とダブらせたのが非常に私好みでした。現代の小説の外の世界にも神様の声がある……そう語りかけてくる点も、なんとも御伽噺的です)。
過去の話に関して、この定石どおりのシンプルさが、作者のストーリーテラーとしての力量を表していると思います。定石を定石のまま書き切り、尚且つ読者を満足させるというのは相応の実力が必要だと私は常々思っているのです。特に今巻はそのシンプルさの中に今までの伏線の答えが散りばめられている。メインのストーリーは単純明快ながら、読み進めるにつれて頭の中のもつれていた糸が次々とほぐされ解かれていくのは心地よい感覚でした。
最初に出てきたキャラクタたちにも意表をつかれました。何故いまさらこんな雑魚キャラを3人も出してくるのかといぶかしんだのですが、進むにつれて納得。この三人は滅私奉公を行った人間達なんですよね。彼らの視線から(ウインケニーだけしか問い掛けられなかったけど)ルルタの現在の行動を見せ憤りを与え、しかる後にルルタの行動に同情させる。この三人を使っての読者操作は非常に上手かったな、と思いました。
そしてこの時点で既に登場を果たす、今巻最大最後のサプライズゲスト、コリオ君。いったい誰がこのような形での彼の復活を予想しえたであろうか。コリオとハミュッツ、二人の主役で始まった物語は、今まさに始めに戻ってきた。果たして彼がルルタの問いにどのように答え、ハミュッツとルルタの最終決戦にどのような役割を果たすのか、興味は尽きません。ま、またもやハミュッツはコリオに負けるんだろうな。多分ルルタでさえも、コリオには勝てない。それがどんな形になるかはわからないけれど。
ただ私自身の予測としては、コリオはルルタと違い、愛する人を守るために強くなったのではなく、既に愛する人が居ない世の中で、愛する人と出会うため……愛を手に入れるために強くなった人間です。愛する人といっしょに居られないと分かっていても、愛に全てをかけられた人間です。その辺りがルルタとの違いとなって、何かを表すのではないかと思っています。
別れないための強さではなく、出会うための強さ。失うことを恐れる強さではなく、得るための強さ。
どちらが正しいかなんてどうでもいい。ただそれぞれ違った形の愛情が交わった時にどんな化学反応が起こるのか、作者はどんなものを見せてくれる気なのか、私にはそれが楽しみです。ま、全然的外れかもしれないけれど。
それとこの予想の延長線上で、ひょっとしたらコリオ君とシロンが次巻で出会うこともあるのではないかと私は疑っています。
そもそもコリオがシロンを知ったのは、“本”によって。そしてこのルルタの仮想臓腑は喰われた本の人間が、形を持って現れることが出来るのですから……シロンの本がコリオと同じくルルタに喰われていたのならば、仮想臓腑内でシロンとコリオが出会えてもおかしくない。
ただしその場合、二人には非常に辛いことになるでしょうね……ルルタの仮想臓腑が消える時が、やっと触れ合えた二人の、別れの時なのだから。むしろ、コリオの何らかの言葉に対して、ルルタがコリオの覚悟を試すため、或いは揺さぶりをかけるために、ルルタがシロンを臓腑内に生じさせるかもしれません。
それはそうと、ヒハクの「殴打ありがとうございました!」は上手いと思いました。
ヒハクの視点で読者に「ルルタに導かれて改心・強くなった」と植えつけておいて、ニーニウ視点で「気味が悪い・異常」と反転させる。またそれは正常だった人間が、愛情によって正しく導かれたのに、異常に嵌まり込んでしまうという「ルルタのその後」を暗示させることにもなっている。そして、なにより、善良なニーニウの視点も一面を捉えているに過ぎず、全能ではないということを伝えている……ような気がします。
ヴーエキサルだって、読者から見たその行いは邪ですが、視点を変えれば……ということなのです。我々読者が彼を悪だと決め付けているのは、現代の倫理観と、それを保障する作中の未来神やルルタの言葉によってなのですから。そしてそんな現代の倫理観は、ルルタを崇拝し軍国主義的なまでに一体化している作中の王国に比べてマシなんでしょうかね? 良心という名の神の言葉が聞こえていない点では、さして変わらない気もします。とちょっとシニカルに言ってみる。
なんにせよ、次がラスト。すっぱりと延命も無く終わりそうですし、期待して待つことにします。