札幌美術紀行(第四章 イサム・ノグチ展 札幌芸術の森)

札幌芸術の森は昭和六十年にオープンし、それから現在の形になる
まで、三期十五年を費やした。40ヘクタールの広い敷地には美術館、
各種工房、野外美術館、野外ステージなどなど、多くの施設を保有
している。

この『芸術の森』は一種の地名になっているようで、自転車走らす
脇には芸術の森郵便局、芸術の森化粧品、芸術の森クリニックてな
看板がある。しかし芸術の森泌尿器科ってのはどんなものだろう。
まぁ、いいや...

炎天下を水分取り取り自転車転がす。乾いてビタミン欲しくなった
らポンジュース、疲れて体が辛くなったらブラックコーヒー、ポン
ジュース、ブラックコーヒー、ポンジュース、ブラックコーヒー...
とちゃんぽんに補給しながら自転車こいだり自転車押したり...

到着...感涙...

早速、芸術の森美術館へ...美術館の前の芝生にはノグチやその相棒
であった和泉正敏さんの作品が並んでいる。そして振り返ると池の
中央に『エナジー・ヴォイド(Energy Void)』の雄姿が、おぉ...と
シャッターを切る刹那、お客さん作品の撮影はご遠慮願います、と
お兄さん。それはそうか...と後ろ髪ひかれながら館内へ...

導入はモエレ沼公園。たった今観てきた公園の模型やビデオをじっ
くりと鑑賞。その後に続く公園のデザインのアイデアを示したプレ
ートはこれまで以上に興味を持って見つめられる。

その後に続く彫刻群。

イサム・ノグチはブランクーシに師事しており、そのまんまブラン
クーシを彷彿とさせる作品もいくつか。特に『不思議な鳥(Strange
Bird)』はブランクーシの形そのもの。1945年の作品なので師匠に捧
げるオマージュなのだろうな。

いくつかの部品を組み合わせる独特の造形や、中国の民族服に着想
を得た作品などはノグチの独創。そして、最後の部屋には展示の目
玉であろう、枯山水...ゆったりとした方形の展示室に木の土台が組
まれている。その上に置かれたノグチの石の作品。

『この場所(This Place)』という隆起した球状の黒い塊には何とも
言えない力が漲っている。水をイメージしているその石に、自然と
造形との調和が感じられる。また、台の脇にさりげなく置かれてい
る『砥石(Whetstone)』という作品。さざ波をイメージした平面の黒
い花崗岩はきれいに磨き込まれており、鈍い光を放っている。蛍光
灯の白い光の照り返しが、歩くにしたがって微妙に変化する。そん
なごく普通のことに、どうしてこんなにどきどきするのだろう...

会場を出ると再び『エナジー・ヴォイド(Energy Void)』。池の周囲
を歩くと複雑に姿を変える。気に入ったアングルでベンチに腰をお
ろす。東京では、どんな風に展示されるのかな...

正直、すぐに東京に巡回してくる展覧会をわざわざ観にいくのはど
んなものだろうと思っていたのだが、こうしてモエレ沼公園を経て、
自然に恵まれたこの展示環境に身を置くと、来た甲斐があったなぁ
とつくづく思う。

同じ作品を展示するにしても、会場の雰囲気、構成によって、印象
は随分と変わることだろう。秋の現代美術館が、俄然、楽しみにな
ってきた。