美術と本と映画好き...
徒然と(美術と本と映画好き...)




ライナー・クスマウルはベルリンフィルのコンサートマスターを務
めていたヴァイオリニストです。この人を中心にした演奏会がライ
ナー・クスマウルプロジェクト。三回目の今回はトッパンホール五
周年のバースデーコンサートを兼ねています。

プログラムはこんな感じです...

1. ベートーヴェン:「フィデリオ」序曲 Op.72
2. メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64
3. モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K364 (320d)
4. ストラヴィンスキー:バレエ「プルチネルラ」組曲(1949年改訂版)

若手主体のチェンバーオーケストラが演奏するベートーヴェンから
始まり、二曲目のメンデルスゾーンにはライナー・クスマウルが入
ります。顔を紅潮させてのっしのっしと歩いてくる様には貫禄があ
ります。ヴァイオリンがとても小さく見えます。しかし演奏はとて
も繊細で、耳なじみある哀切を帯びたメロディーは、ベテランにし
か出せない音だと思いました。第一楽章と第二楽章は続けて演奏さ
れました(もともとそういう曲なのでしょうか...)。その静かなメロ
ディをバックにクスマウルが客席向かって遠い視線を投げかけます。
よりよい音楽を探して旅する求道士、そんな佇まいが感じられまし
た。

休憩を挟んだモーツァルトの競演は清水直子、ベルリンフィルの主
席ヴィオラ奏者です。

二十人ほどのオーケストラを従えて、左手にヴァイオリンのクスマ
ウル、右手にヴィオラの清水直子、メンバーは室内楽とオーケスト
ラの中間あたりの人数で、指揮者はいません。クスマウルがリード
しながら演奏が始まります。

今回は中央の前方の席だったので、演奏者の様子がよく見えます。
クスマウルが余裕たっぷりに弾くのに対して清水さんは少し緊張の
面持ち、顔が強張ってみえて、時々吐く『フッ』と気合を入れるよ
うな声は、大きなオーケストラで演奏するときの癖なのでしょうか...

巨大な体躯でヴァイオリンを操るクスマウルに対して小柄の清水さ
んは全身でヴィオラを弾きます。その対照的な二人は格闘している
ようにも見えます。二人がソロでお互いのパートを引き継ぎながら
演奏する様子に息詰まるような緊張と、ある美しさを感じました。

三楽章まである場合、不心得者の私は、大概、緩やかなメロディの
第二楽章で退屈してしまうのですが、今日の演奏には集中力が持続
します。そして第三楽章の演奏が始まる前に、主役の二人が視線を
交わします。その時、初めて、清水さんの笑顔がこぼれました...
クスマウルにも笑みがこぼれます。その二人が交わした視線はこれ
からの演奏の成功を約束しているように見えました。

第三楽章の演奏は文句のないものでした。ヴァイオリンとヴィオラ
が絡まり、素晴らしいハーモニーを奏でています。素晴らしい演奏
を間近に見えて、浮世の憂さをしばし忘れる事ができたのでした...


また、今回のコンサートでは多くの演奏者を見ることができました。
クスマウルや清水さんの演奏を、食い入るように見つめていたのが
印象的です。こうした大物たちと同じ舞台で共演できた経験が、彼
ら彼女らの糧になっていくのでしょう。何人か気になる奏者がいた
のでリーフレットでチェックを入れました。トッパンホールは若手
の演奏会に力を入れているようなので、これからもチェックしてい
こうと思います。

トッパンホール

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