読書日記と読書ノート 第三部(2013年6月~2015年6月) 吉野三郎

退職してから読書中心の生活をしています。読んだ本の感想を日記に記し、要点をノートに書いています。その紹介です。

211、トマ・ピケティ「21世紀の資本」(みすず)-その9-(9/9)

2017-09-11 06:00:22 | 読書記録

(2)ノートから-つづき-

15章 世界的な資本税

資本税の目的は社会国家の財源をまかなうことではなく、資本主義を規制することだ。狙いはまず富の格差の果てしない拡大を止め、第二に危機の発生を避けるために金融と銀行のシステムに対して有効な規制をかけることだ。この二つの目的を果たすため、資本税はまず民主主義的、金融的な透明性を促進しなければならない。誰が世界中でどんな資産を持っているかが明確になる必要がある。

➁資本課税は政府に対して、銀行データの自動共有をめぐる国際合意の明確と拡大を強制する。各国の税務当局はあらゆる市民の純財産を計算するための全ての情報を得る必要がある。

③世界的な資本税への第一歩は、国際レベルにまで銀行データの自動送信を広げ、納税者すべてに計算済みの資産一覧を発行するにあたり、そこに外国銀行で保有されている資産の情報も含めるようにする。

④国民国家が単独でグローバル化した世襲資本主義にルールを課して強制するのは難しい。EU規模の国際的な規制をかけなければ実効性がない。

⑤金融透明性が当たり前になれば、タックス・ヘイブンは間違いなく巨額の損失を被る。国際的な財政透明性は、現代税制国家にとって極めて重要な課題である。

⑥個人の富に対する累進的な課税(資本税)は、社会全体の利益の名のもとに、資本主義に対するコントロールを取り戻す一方で、私有財産と競争の力を活用する。資本税は不等式r>gだけでなく、最初の規模に応じて資本収益にも格差が出るという問題に対する最も適切な対応となる。

⑦自由貿易と資本や人間の自由な移動を手に入れても、社会国家と各種の累進課税をすべて破壊すれば、防御的なナショナリズムやアイデンティティー政治の誘惑は、ヨーロッパでもアメリカでもほぼ確実に空前の水準にまで高まるだろう。

 

16章 公的債務の問題

インフレ率が少しでも上がると、公的債務の実質的価値は大幅に減る。インフレ率が2%から5%になったら、公的債務の実質的価値は、対GDP比で見ると15%以上も下がる。

インフレは制御がむずかしい。インフレはつつましい生活をしている人に打撃を与え、不動産や株式市場で富を持っている人(これらの資産はインフレに連動して値が上がる)は、ほとんど影響を受けない。

③ヨーロッパの政治統合がなければ、法人税をめぐる底辺への競争は続く。税制競争は通常は消費税への依存に向かう。

資本蓄積に上限はあるか

資本蓄積の上限は、あまりに蓄積されて、資本収益率r(資本の限界生産性に等ししい)が成長率gと等しくなるまで下落した値だ。

r=gとなれば、資本が国民所得に占める長期的なシェアは、貯蓄率と全く同じになる。つまりα=s。このときには、あまりに大量の資本が蓄積されて、その資本ストックを対国民所得比で同じ水準に維持するだけで、毎年資本収益の全額を再投資しなければならない状態になる。すべての資本収益が再投資されて、資本ストックに戻されなければならない。r>gならば、同じ資本/所得比率を維持するために、資本収益を全額再投資する必要はない。

経済的透明性の重要性

経済と金融の透明性は、確かに課税目的でも重要だが、はるかに一般的な理由からも重要だ。そうした透明性は民主的なガバナンスや参加に不可欠だ。

本当の会計財務的な透明性と情報共有なくして、経済的民主主義などありえない。また、企業の意思決定に介入する権利(重役会議に労働者の椅子を要求する)なしには、透明性は役に立たない。

 

おわりに

不等式r>gは、過去に蓄積された富が産出や賃金よりも急成長するということだ。いったん生まれた資本は、産出が増えるよりも急速に再生産する。事業者は不労所得生活者になってしまいがちで、労働以外の何も持たない人々に対してますます支配的な存在となる。

資本所得に重税をかけて民間資本収益率を成長率よりも下げることはできる。しかしこれを実施したら、蓄積の原動力を殺しかねず、成長率をさらに引き下げかねない。正しい解決策は資本に対する年次累進税だ。

③累進資本税は、高度な国際協力と地域的な政治統合を必要とする。

 

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