「もう、行くよ」
絡めた指を、優しく振りほどいて。
先の見えない道を、あなたは歩き始めた。
何度も抱き付いた背中が、遠い。
―どうして、その道を選ぶの?―
とっさの問いに、あなたは足を止める。
「見えないから、かな」
そう答えたあなたは、振り返らないままで。
見慣れた後ろ姿が、真っ暗な闇に、消える。
置いて、いかないで。
溢れてしまいそうな想いと、精一杯の笑顔。
―じゃあ、ばいばい―
絞りだした呼びかけと、淡い期待。
けれど、いつもの”またね”が返ってくることはなく。
再会の約束は、交わされないままに。
サヨナラを告げる風だけが、いつまでも泣いていた。
私の隣に、あなたはもういない。