黒猫洞

黒音呼夜の爪とぎブログです。
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第9地区

2010-04-14 19:54:08 | MOVIE
噂の”社会派”SF映画を、学校帰りに観賞。
前々から気になってたので。
製作のピーター・ジャクソン以外は、ほぼ無名のキャスト&スタッフ。
監督は南アフリカ出身の新鋭、ニール・ブロムカンプ。
 
結果から言いまして……
傑作。
開始すぐに、これは大当たりだと確信。
舞台は南アフリカなんだけれど、
多用される空撮シーンが『ブラックホーク・ダウン』を彷彿とさせる。
画面の構成なんか、実にリドリー・スコット的。
空気感、緊張感のある映像に、ぐいぐい引き込まれる。
予算が少ないわりに、CGもリアル。
(工房と監督のセンスの問題だから、予算が多ければイイとも限らないが)
実写との合わせが非常に上手い。
複雑でスピーディなカットでは、いささか気になる部分もあったけれど。
許容範囲内のレベル。
 
音楽も、やはりと言うべきかハンス・ジマー的。
パーカッションを多用した、民族音楽ミックスな音階。
これも、なかなか素晴らしい。
 
さて、この作品。
ただのSFというジャンルには収まらない気がする。
もちろん、娯楽としての面もある。
けれど、社会派映画として扱ってもいいと思う。
人類と宇宙人の間の溝と、格差ある共生。
しかも舞台は南アフリカ。
まるでアパルトヘイト。
自分たちとは違うモノに対する、人間の残酷さ。
これは、J・キャメロンの『アバター』でも描かれていたこと。
『アバター』の場合は、
惑星の先住民ナヴィがインディアン(ネイティブ・アメリカン)。
資源のために侵攻する人類が、ヨーロッパからの開拓者。
この『第9地区』では、
劣悪な環境に隔離される宇宙人が黒人。
忌み嫌い、利用しようとする人類が、支配層の白人。
映画の題材としての宇宙人は、現実世界での差別を映す鏡だと思う。
ちなみに、個人的に『アバター』より『第9地区』の方が高得点。
ドキュメンタリー・タッチの作風もあるけれど、とにかくリアル。
色々と突っ込みどころはあれど、まるで現実のような臨場感。
これだけリアルで、考えさせられるSF映画は初めて。
 
差別意識については書いた通りだけれど、
この作品で浮き彫りになるのは、人間の残虐さ。
研究や実験のために殺す場面なんか、まるでナチスの人体実験。
あえて人間臭い宇宙人にしているあたり、このあたりも意識して作ったと思う。
そしてもちろん、未だにアフリカが抱える内情も反映されている。
そのあたりの描き方は『ブラッド・ダイヤモンド』に似ている。
 
この作品、最後も決してハッピーエンドではない。
主人公的には、むしろバッドエンド。
けれど、そこに描かれる親子や夫婦の愛が素晴らしい。
そういった感情も、むしろ宇宙人から教わるようなストーリー。
結局のところ、宇宙人の方がよっぽど”人間らしい”。
その感じさせ方も、非常に秀逸。
 
個人の好みもあるけれど、ここ最近の中ではダントツの高評価。