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経済最優先・人命軽視の体質は変わったか?--「沈まぬ太陽」の意味を考えさせられる

2009-12-17 | 本・番組・映画など
 国民航空=日本航空を想起させ、あまりにも生々しい描写故に大論争を巻きおこし、200万部を超す大ベストセラーになった作品。国民航空の経済最優先・人命軽視の体質。この作品が書かれた90年代の半ばとも比べものにならないほどに進行した新自由主義と構造改革。リーマンショックに端を発した世界大恐慌と「大賃下げ時代」「大失業時代」の到来。そしてモデルの日本航空は経営再建で社会問題化。つまり、御巣鷹山事故を引き起こした体質は改善されるどころか、日本経済全体を覆うまでになったのではないか。
 山崎豊子氏は、「沈まぬ太陽」という表題にどのような思いを込めたのだろう。主人公恩地の決して涸れることのない意志を込めたのだろうか。だが私は映画を観て、以上のような今日の情勢からか、「沈まぬ太陽」という表題に、皮肉な思いを抱かざるを得なかった。

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 国民航空の体質に対し、闘ってきた男、恩地の人生を描くノンフィクションに近いフィクション映画だ。
 恩地は労働組合の委員長を務めた。「乗客の安全を守るためには、職員の労働条件の改善が不可欠だ。」「それは会社を守ることにもなる。」そういう信念を持つ男だ。
労働組合は3000人規模で、組合員をまとめ信頼も厚かった。ところが、冬のボーナスを「決して無理な要求ではない」4.2ヶ月要求に対し会社の回答は2.4のまま変わらない。そこで、副委員長の行天の案「ストの行使を考えざるを得ない」と切り札を出す。

 数日後、それでも会社側の回答は変わらない。恩地は「ストを○日に決行します」と断言。その日は、政府の要人を乗せることになっていたのだ。焦る行天は経営陣に対しうろたえる。そして恩地をなだめようとするが、組合員も恩地も熱く行天の声は届かない。
そして会社側は譲歩したのだ。その後の打ち上げで、組合員からの「恩地コール」、そして恩地は言う「我々は勝利した。しかしこれは第一歩に過ぎないのだ。労働条件の改善に向けて、これからも共に闘おう!」
 行天は盛り上がれない。自分が肝心な所で引いてしまう存在であることに「ダメ」人間だと落ち込む。

 ある日、政府の要人を乗せる日にストをぶつけてくる恩地は会社にとって危険人物だという一味の思惑で、途上国に配置転換を命じられる。当初恩地は不当な対応に対し社長に申し入れをしたが、社長は「もう私の力では君をここに置く事はできなくなった。2年だ。2年でほとぼりが冷めるから、我慢して行ってくれ。」という。恩地はその異動を受ける代わりに、他の組合員に対し不当な人事異動を行なわないよう社長に約束させた。

 恩地が日本にいない間に、会社の利権にあやかりたいグループがさらに勢力を持つようになる。行天は出世に目覚め、第二組合を半年で組織する協力を惜しまない。愛人を利用しスパイまでさせる。恩地は2年経っても日本には戻れず、途上国を転々とさせられる。
その間に第一組合は弱体化させられ、組合員の異動が露骨にされ、人数も減少し追いやられていた。

 そして、1985年国航ジャンボ機の墜落事故が起きた。
 520名の死亡、棺が会館に整然と並ぶ姿はとても怖かった。遺体は、身体の一部だけだったり、焼けて縮んだため大人なのに子どもと称されていたり、また、生前の姿や残された者の思いも描かれ、涙が溢れる。周囲の観客からも鼻をすする音が聞こえる。こんな事故は起こしてはならないし、最善の償いをされるべきなのに心のこもらない会社側の対応に愕然とした。

 民営化となり、安全よりも経済優先、整備の検査で疑問があっても時間優先となった。そんな実態が招いた事故とも言える。元々国営だった国民航空は、今でも日本国の誇りとしても守らねばならないという。

 日本政府は国民航空の再建に尽力する。元々国民航空の利権にあやかっていた国交族と内閣の争いにも発展するが、経団連と関係の深い内閣(政府)の一声で、経団連推薦の関西紡績会社の第一人者を「お国のために」と説得し、国民航空の会長に仕立て上げた。
 この人事に焦る国交族。彼らは国民航空の社員らとも仲良し。会社の金で豪遊だ。
これらの結託で会社は成長し上層部もさらにおいしい蜜を味わっていたからだ。
そんな体質の中で起こった墜落事故。
 遺族からも非難ごうごう、恩地は遺族に対し心から詫び、手をつくすが会社はあまり協力的ではない。
 新会長は、恩地を抜擢し「国民のために」国民航空の体質改善に尽力する。しかし、会社の利権をもくろむ連中は行く手を阻むのだ。これは結局遺族を馬鹿にすることにつながるのにもかかわらずだ。

 しかし、新会長と恩地は努力する。そして、整備を責任制にして安全性の向上をはかり整備士のやりがいも向上した。さらに汚職の調査も開始する。
 行天に金を渡すため会社のチケットを盗み売ってきた元組合員は、恩地と共にやってきた組合の写真を懐かしむ。そして証拠を検察に送り自殺した。
 会社の経営はドルの為替予約というばくち的なものに手をつけたり、ホテルの買収と絡んで裏金を作ったりしていた。そして行天は権力者にすりより接待にお金を使ったのだ。
 それが政府出資の特別な国民航空の実態だ。
 それらは暴かれるが、ドルの為替予約は認められ罰せられず、ホテルで利権を被った役員は退陣、行天は検察に連れられる。

 最後は、恩地のナイロビ勤務。不正を暴いた新会長が政府から不要扱いをうけ退陣させられた後の権力者は恩地が邪魔だからと異動させたのだ。
しかし恩地は心からアフリカに行きたいという。今まで蔑んできた途上国に生命の輝きを感じたからだ。

 ラストのシーンは、夕日なのか朝日なのかアフリカで見る太陽だ。そして日の丸を連想させる。
 それは、今の富裕層のための経済優先「日の丸日本」の体質とその思考回路がみんなの心に普通にある限り、こんな「日の丸日本は沈むべきものなのに沈まない」と皮肉っているようにも思えた。
 恩地がアフリカで感動するだろう命の輝きを日本で取り戻すには、人命よりも経済優先の体制からの解放が必要だ。今後夕日や朝日を見て思い出そうと思う。

(ほいみィ)

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