Light Forest

読書日記

江戸川乱歩傑作選

2008-09-30 | ミステリー/推理
江戸川乱歩傑作選 新潮文庫 2006年

秋だ!ミステリーだ!、と安易な考えから
普段は滅多に読まない本が並んでいる棚を眺める。
そういえば、刑事ドラマが好きなおばあちゃんが、
「昔はよく乱歩なんか読んだものよ…」と言ってたのを
ふと思い出し、手に取ってみる。

傑作選で、初期に書かれた短編ものばかりが収録されているものだ。
なるほど、確かにおもしろい。
でも、ぞっとする。純粋に、推理ものと呼べそうなものもあり、謎がとけて
面白い!というのもあるが、基本的に読後感はスカッとするよりは、
むしろぞっとするのである。
人間の狂気や気ちがいじみた感情から起こす犯罪。
どれもこれも、よくありがちな怨恨や復讐といった動機ではなく、
単なる暇つぶしなどが動機となって起こす殺人。
このほうがよっぽど恐ろしいと気づく。

芋虫はほんと、グロテスクで残虐。だけど、読んだあとは少し切なかった。

推理小説、というよりは…、一体なんだろう。


大いなる遺産

2008-09-23 | 外国人作家
ディケンズ著、山西英一訳『大いなる遺産』(上)(下)、新潮社。

ディケンズを読んだのは初めてだった。
特に好きな文体でもなかったが、様々な登場人物が細かく、魅力的に描かれて
いて、味わい深いセリフやユーモアのある描写があり、読み応えのある本。

特に、主人公ピップの義兄であるジョーは最も魅力的な人物の一人。
鍛冶屋で、学が無く、妻からも尻にしかれているような、一見情けない人物
のようであるが、ピップに語る言葉や、人の心がわかる人間性が感動的。
嘘をついたピップに語ったセリフ、

「もしおまえがまっすぐなことをやってえらい人間になれんのなら、曲がった
ことをやったからって、えらい人間になれるもんじゃけっしてない」

物語後半で、贅沢三昧に耽ったピップを襲う事実は、痛烈なパンチ。
堕落したピップに少々嫌気がさした私は、意地悪くもやや小気味よく思って
しまいました。
ただ、その後、お金に惑わされず人生の意味を考えなおしたピップは素晴らしい。

悲しい過去を持つミス・ハヴィシャム、エステラ、堅実なビディ、友情深いハーバート、ユーモアに描かれるウェミック、そしてピップの人生の鍵を握った人物、
など、登場人物は微細に描かれており読み応え十分。

映画やドラマもあるというので、それも楽しんでみようか。